11 / 276
幼少期編
特殊技能〈ガチャ〉
しおりを挟む
「ーーふぅ、今日はもうここら辺でいいかな」
雪合戦やカマクラ造りなど色々と有った冬を飛ばして、今の季節は日差しの暖かい春。
そろそろ訓練では無く実戦をしようと最近森の中に入ったりしているのだが、中々どうして戦闘にすら発展しない。
原因は分かっており、外出に母が付いて来ることになったからだ。
龍種が住まうこの森では普通大人がついてきたところでどうにもならないが、龍種よりも更に強い両親が居ては他の生物も襲ってすら来ない。
この前の散歩の時などーー
『あら、貴方確かここら辺を仕切っているーーなんとか言う名前の龍よね?』
『はい、名をイプリオンと申します。その節はどうもありがとうございます』
『良いわよ、跳ねっ返りの龍を躾けてあげるのも私の仕事みたいなもんだから』
『そう言って頂けますとありがたいです。そう言えばそちらはお子様ですか?』
『そうよ名前はエルピス。跳ねっ返りの子達に手を出さない様に言っておきなさいね?』
『そ、それは勿論です! 貴方達に手を出す様な事は絶対に致しません!』
ーーと言われたほどだ。
言動からも分かるように、龍達は母を恐怖の対象としている。
普段なら母が森の中に入って来たらずっと引きこもり出す龍がああして散歩の時に出会ったのは、今思えば時折森に入ってきたエルピスとの関係性を聞きたかったからだろう。
エルピスからして見れば龍は貴重な本気で戦えそうな相手であり、そしてもし戦うのなら今後龍と戦う時用の対抗策を知るという意味でも一度は戦っておきたかった相手だ。
だが無理やり戦闘をお願いするというのも嫌だし、それでどちらかが死んだりするのは余り望ましくない。
そう言った理由からエルピスは、こうしてフィトゥスと本気で剣の訓練をしているのだった。
「剣技はともかくとして、エルピス様はまだ実戦経験が足りませんね。勘で剣戟を避けるのは悪い事とは言いませんが、それでも確実に避けれるわけでは有りませんし」
「とは言ってもフィトゥスくらいの相手だと目視で避けようと思っても避けれないし、だから勘でよけてるんだけど予測で避けようとすると軌道修正されて、どちらにしろ攻撃を食らうんだよね」
「気配察知でもあれば、かなり楽になるんですけどね。ーーこの後はお昼寝ですか?」
「うん、ちょうどそれぐらいの時間だね。じゃあちょっと寝てくる」
「お休みなさいませ」
持っていた剣を何時もの場所へと戻し、エルピスは歩いて寝室へと向かう。
〈経験値増加Ⅴ〉を持っているとは言え秋から特に目立った能力の強化は無かったが、目に見えない技術面ではかなり強くなれたと言っても良いだろう。
具体的に言うなら無詠唱で唱えた魔法を同時に発射するとか、そういった類のものだ。
フィトゥスとの会話にも上がっていない様に剣戟の方はまだ伸び悩んでいるが、そちらもあと少しでどうにかなりそうなレベルまでは来ている。
「部屋には誰も居ないか…よし、なら問題なくできるな」
部屋に入り誰も居ない事を確認すると、エルピスは盗神の隠蔽によって隠して居た手作りの鞄を持って窓から外に出る。
目指す先は秋にみんなで遊んだ広い池だ。
池のほとりに近づくとエルピスは鞄を下ろし、その場に腰を下ろす。
ここ一年で魔法の使い方は大分上達したはず、そうなると次に手に入れたいのは強い武器だ。
鍛治神の称号があるので武器を作ろうと思えば作れるのだろうが、素材が無いのに作れる訳がないし、フィトゥスに頼んだら素材くらい幾らでも持ってきてくれそうだが、そんな事にフィトゥス達を頼るのは申し訳ない。
そこで特殊技能〈ガチャ〉の出番だ。
サイコロを振れば思った通りの出目が出て、じゃんけんをすれば必ず勝ち、運が絡む勝負ならばこの家で一度も負けたことの無い程の強運を今のエルピスは持っている。
それが両親やみんなの気遣いだという説も否定できないが、それを含めたとしても運が良い方だと思う。
つまりは〈ガチャ〉をすれば良い武器が出るはずーー出るはずだ。
「でもどうやって使うんだろ? 特殊技能〈ガチャ〉なんて言ってみたりーーうぉッ!?」
最早ヤケクソで特殊技能発動〈ガチャ〉と唱えると、目の前に転移の際に見たステータス画面と同じ様な半透明の画面が出てきた。
それのせいで不意に思い出した同級生達の顔を頭から振り払い、まさか本当に出てくるとは思って居なかったガチャ画面を見る。
ガチャページ〈ガチャP0〉
お詫びガチャ(無料)オススメ
ノーマルガチャ消費P100
レアガチャ消費P1000
期間限定誕生日ガチャ(無料)
最初はまるでミミズがのたうち回った上に死んだ様な汚い字だったが、一度この世界の言語に変わったかと思うとそのままの流れで日本語に変わりしばらくすると落ち着いた。
記載されている文面には二つも無料という文字が掲げられており、エルピスはそれを何度か見直す。
そもそも何を消費するかも分からないのに無料というのがなんなのか分からないが、考えていてもしょうがないので取り敢えずはお詫びガチャから引いてみる。
お詫びと書かれたそれを直接押すと、半透明の画面一杯に薄い白色の魔法陣の様な物が現れた。
魔法陣の中心に『タップしてね』と書かれており、言われた通りにタップすると魔法陣が様々な色を見せながら回り出して、まるでスマホゲームの様に虹色の卵が十個出てくる。
このガチャのレアリティの基準がまだ分からないけれど、普通は虹といえばそれなりのレアリティのはずだ。
それが運が良くなったとはいえこんなにも出るものなのだろうか?
まぁ多分その点も含めてお詫びなのだろうが。
さてさて結果はどんな風になっているかな…?
排出一覧
1.鍛治室
2.万能砥石
3.聖剣
4.神造水
5.無限水筒
6.魔剣
7.魔導の書
8.龍種の核
9.幻想馬の角
10.武具作成の極意
ガチャからまるでただの棒切れの様に簡単に現れたのは、魔剣と聖剣とその他諸々。
目の前に転がるそれらを魔法で強化され見た目とは裏腹にかなりの量が入る鞄に入れていく。
不壊と絶対切断を基本能力として持つ聖剣と、対象の血で強化され敵を斬り伏せる程に強くなる魔剣。
鑑定結果にそうでているからおそらくそういう能力なのだろうが、期待していたものよりもはるかに上のものが出てきたというのがエルピスの感想だ。
(そのニ振りがこの程度の方法で手に入るというのは、なんと言うかまぁ……嬉しいことは嬉しいんだけど)
これで接近戦が有利になるが、伝説の剣を振り回したら周りにどんな被害が出るか。
一度くらいは試し振りをしておかないと、後々なにが起きるか分かったものではない。
「まぁでもそう言うのを調べる為にわざわざここまで来たんだし……試し切りして行くか」
そう言うとエルピスは聖剣を手に取り、短剣並みのサイズの魔剣を腰に挿す。
そしてこの世界に来て何度したか分からない構えを取り、剣を無造作に上段に構えた。
魔力は軽く垂れ流し、力は込めずになるべく脱力する。
目の前の物全てが切れると信じ、頭の中で切断されたそれを想像し剣を振り下ろす。
背中の筋肉を意識しつつ肩、腕、手首指先まであらゆる神経を研ぎ澄まし、切ることだけに全神経を集中させる。
まず始めに空気が切られ次に草木が切られそして時を待たずして湖が切れる。
「えええええええぇ!? 湖割れたんだけど……」
切れ味云々の話ではなくそもそも斬撃波でも飛んでいるのでは無いかと思えるほど切れる聖剣を、エルピスは少し怯えながら鞄の中に仕舞っておく。
困ったものは取り敢えず後回しにするに限るのだ。
魔導の書や鍛治室など気になるものもあるが、後回しでいいだろう。
次は誕生日記念ガチャだ。
……と言うより誕生日記念とは一体なんなのだろうか?
もしかして逐一このガチャは更新されていたりするのだろうか?
ーーまぁどうでもいいか。
ポケットに入れて居たはずなのに無くなって居たスマホを思い出しながら、エルピスは慣れた手つきで画面をタップする。
排出一覧
1.技能〈気配察知〉レベル十
2.特殊技能〈メニュー〉
3.調味料セット
4.世界地図
5.称号〈勇者〉
おまけ:神からの忠告(本)
背中から妙な汗が流れ落ちて行くのが感じられる。
恐らくあの時であった神はエルピスがこの世界に来て直ぐに〈ガチャ〉を使うと思っていた筈だ。
だが安全な環境下でぬくぬくと暮らしていたエルピスは、ガチャという能力に頼らずとも暮らしていける為に、いままで使ってこなかった。
つまり何が言いたいかと言えば、学校で出た提出物を一週間間違えて居た様なーーレンタルビデオの返却日を忘れて過ごして居た時の様なーーそんな気分だ。
頭がクラクラして胃が痛くなって来るのが実感できふ。
「あ~もう良いや。次に行こう」
獲得できた技能は気配察知か、噂をすればなんとやら、まさかこんなに早く手に入るとは。
まだ獲得した実感や気配の感覚が掴めないが、慣れてきたら遠くの敵でもわかる様になるだろう。
後は調味料セット。これは単純に嬉しい。
塩だけでも良かったのだが、砂糖があれば今後料理がさらに美味しくなるだろう。
これは後でフィトゥスに渡しておこう。
メニューは使い方がいまいち分からないから、後回しにしておく。
後は……後回しにしたが、この本は読んでおいた方が良いだろう。
多分勇者の称号は、これと関係しているんだろうし。
取り敢えず読んでみよう。
[まず君の転移の件だが、本当に悪かった。
いくら原因不明の事態とはいえ、こちらの不手際には違いない。
謝って許されるとは思っていない、好きな様に罵ってくれ。
先ず君の神の称号だが、早急に隠して欲しい。
それはその世界の一般的な生き物の身には余るものだ。
長い年月をかけて狂信とも言える程に自らの身体を鍛え上げた才能ある者が、ギリギリ使えるようなシロモノ。
権能を酷使していないからまだ生きているが、今の状態で権能を使用すれば君は間違いなく死ぬ。
気を付けてくれたまえ。
それとそちらの世界は毒や病気に対する完全耐性を無効化する技能や耐性を無効化するものもある。
こちらも同様に気をつけてくれ。
それと勇者達は五年後にそちらの世界に着く。
恐らく数年は表立った行動はしないと思うから、その間に力を付けて欲しい。
最後に少し早いが、五歳の誕生日おめでとう。
あと手紙は本当に早く読んでくれ、書き直しが地味に大変なんだ。
日本担当の神より]
神の言葉に申し訳なさを感じながら、エルピスは称号を隠蔽する。
雄二達は五年後にこちらに着く様だが、神様の見立てでは数年は行動しないらしいから、その間に技能や技術を磨いておくことにするか。
さて今から称号を隠しておくか。
(完全隠蔽が確かここをこうやって……出来たかな)
身体から力が抜けていく感覚が持続して居るが、これが身体機能の低下か。
正確な表現をするのなら風邪をひいた時のような感覚というのが一番近いだろうか、頭は痛くないし体も発熱していないが、いつもより体が重く感じられる。
(緊急時には全部解除出来る様にしておかないと)
どうやら権能は隠蔽すると、体感的にではあるが身体能力が半減するようだ。
とは言え神様関連で獲得したスキルは当てはまらないみたいだし、別にそこまで困る事では無い。
使い方が分からないからなんとも言えないが、魔眼なども問題なく作動している様だ。
ーーんっ? あの木の下に誰かいた様な……もう誰かに見つかったか、ちゃちゃっと家に帰らないとな。
鞄の中に〈ガチャ〉で手に入れたアイテムを詰め込み、エルピスは足早にその場を去るのだった。
雪合戦やカマクラ造りなど色々と有った冬を飛ばして、今の季節は日差しの暖かい春。
そろそろ訓練では無く実戦をしようと最近森の中に入ったりしているのだが、中々どうして戦闘にすら発展しない。
原因は分かっており、外出に母が付いて来ることになったからだ。
龍種が住まうこの森では普通大人がついてきたところでどうにもならないが、龍種よりも更に強い両親が居ては他の生物も襲ってすら来ない。
この前の散歩の時などーー
『あら、貴方確かここら辺を仕切っているーーなんとか言う名前の龍よね?』
『はい、名をイプリオンと申します。その節はどうもありがとうございます』
『良いわよ、跳ねっ返りの龍を躾けてあげるのも私の仕事みたいなもんだから』
『そう言って頂けますとありがたいです。そう言えばそちらはお子様ですか?』
『そうよ名前はエルピス。跳ねっ返りの子達に手を出さない様に言っておきなさいね?』
『そ、それは勿論です! 貴方達に手を出す様な事は絶対に致しません!』
ーーと言われたほどだ。
言動からも分かるように、龍達は母を恐怖の対象としている。
普段なら母が森の中に入って来たらずっと引きこもり出す龍がああして散歩の時に出会ったのは、今思えば時折森に入ってきたエルピスとの関係性を聞きたかったからだろう。
エルピスからして見れば龍は貴重な本気で戦えそうな相手であり、そしてもし戦うのなら今後龍と戦う時用の対抗策を知るという意味でも一度は戦っておきたかった相手だ。
だが無理やり戦闘をお願いするというのも嫌だし、それでどちらかが死んだりするのは余り望ましくない。
そう言った理由からエルピスは、こうしてフィトゥスと本気で剣の訓練をしているのだった。
「剣技はともかくとして、エルピス様はまだ実戦経験が足りませんね。勘で剣戟を避けるのは悪い事とは言いませんが、それでも確実に避けれるわけでは有りませんし」
「とは言ってもフィトゥスくらいの相手だと目視で避けようと思っても避けれないし、だから勘でよけてるんだけど予測で避けようとすると軌道修正されて、どちらにしろ攻撃を食らうんだよね」
「気配察知でもあれば、かなり楽になるんですけどね。ーーこの後はお昼寝ですか?」
「うん、ちょうどそれぐらいの時間だね。じゃあちょっと寝てくる」
「お休みなさいませ」
持っていた剣を何時もの場所へと戻し、エルピスは歩いて寝室へと向かう。
〈経験値増加Ⅴ〉を持っているとは言え秋から特に目立った能力の強化は無かったが、目に見えない技術面ではかなり強くなれたと言っても良いだろう。
具体的に言うなら無詠唱で唱えた魔法を同時に発射するとか、そういった類のものだ。
フィトゥスとの会話にも上がっていない様に剣戟の方はまだ伸び悩んでいるが、そちらもあと少しでどうにかなりそうなレベルまでは来ている。
「部屋には誰も居ないか…よし、なら問題なくできるな」
部屋に入り誰も居ない事を確認すると、エルピスは盗神の隠蔽によって隠して居た手作りの鞄を持って窓から外に出る。
目指す先は秋にみんなで遊んだ広い池だ。
池のほとりに近づくとエルピスは鞄を下ろし、その場に腰を下ろす。
ここ一年で魔法の使い方は大分上達したはず、そうなると次に手に入れたいのは強い武器だ。
鍛治神の称号があるので武器を作ろうと思えば作れるのだろうが、素材が無いのに作れる訳がないし、フィトゥスに頼んだら素材くらい幾らでも持ってきてくれそうだが、そんな事にフィトゥス達を頼るのは申し訳ない。
そこで特殊技能〈ガチャ〉の出番だ。
サイコロを振れば思った通りの出目が出て、じゃんけんをすれば必ず勝ち、運が絡む勝負ならばこの家で一度も負けたことの無い程の強運を今のエルピスは持っている。
それが両親やみんなの気遣いだという説も否定できないが、それを含めたとしても運が良い方だと思う。
つまりは〈ガチャ〉をすれば良い武器が出るはずーー出るはずだ。
「でもどうやって使うんだろ? 特殊技能〈ガチャ〉なんて言ってみたりーーうぉッ!?」
最早ヤケクソで特殊技能発動〈ガチャ〉と唱えると、目の前に転移の際に見たステータス画面と同じ様な半透明の画面が出てきた。
それのせいで不意に思い出した同級生達の顔を頭から振り払い、まさか本当に出てくるとは思って居なかったガチャ画面を見る。
ガチャページ〈ガチャP0〉
お詫びガチャ(無料)オススメ
ノーマルガチャ消費P100
レアガチャ消費P1000
期間限定誕生日ガチャ(無料)
最初はまるでミミズがのたうち回った上に死んだ様な汚い字だったが、一度この世界の言語に変わったかと思うとそのままの流れで日本語に変わりしばらくすると落ち着いた。
記載されている文面には二つも無料という文字が掲げられており、エルピスはそれを何度か見直す。
そもそも何を消費するかも分からないのに無料というのがなんなのか分からないが、考えていてもしょうがないので取り敢えずはお詫びガチャから引いてみる。
お詫びと書かれたそれを直接押すと、半透明の画面一杯に薄い白色の魔法陣の様な物が現れた。
魔法陣の中心に『タップしてね』と書かれており、言われた通りにタップすると魔法陣が様々な色を見せながら回り出して、まるでスマホゲームの様に虹色の卵が十個出てくる。
このガチャのレアリティの基準がまだ分からないけれど、普通は虹といえばそれなりのレアリティのはずだ。
それが運が良くなったとはいえこんなにも出るものなのだろうか?
まぁ多分その点も含めてお詫びなのだろうが。
さてさて結果はどんな風になっているかな…?
排出一覧
1.鍛治室
2.万能砥石
3.聖剣
4.神造水
5.無限水筒
6.魔剣
7.魔導の書
8.龍種の核
9.幻想馬の角
10.武具作成の極意
ガチャからまるでただの棒切れの様に簡単に現れたのは、魔剣と聖剣とその他諸々。
目の前に転がるそれらを魔法で強化され見た目とは裏腹にかなりの量が入る鞄に入れていく。
不壊と絶対切断を基本能力として持つ聖剣と、対象の血で強化され敵を斬り伏せる程に強くなる魔剣。
鑑定結果にそうでているからおそらくそういう能力なのだろうが、期待していたものよりもはるかに上のものが出てきたというのがエルピスの感想だ。
(そのニ振りがこの程度の方法で手に入るというのは、なんと言うかまぁ……嬉しいことは嬉しいんだけど)
これで接近戦が有利になるが、伝説の剣を振り回したら周りにどんな被害が出るか。
一度くらいは試し振りをしておかないと、後々なにが起きるか分かったものではない。
「まぁでもそう言うのを調べる為にわざわざここまで来たんだし……試し切りして行くか」
そう言うとエルピスは聖剣を手に取り、短剣並みのサイズの魔剣を腰に挿す。
そしてこの世界に来て何度したか分からない構えを取り、剣を無造作に上段に構えた。
魔力は軽く垂れ流し、力は込めずになるべく脱力する。
目の前の物全てが切れると信じ、頭の中で切断されたそれを想像し剣を振り下ろす。
背中の筋肉を意識しつつ肩、腕、手首指先まであらゆる神経を研ぎ澄まし、切ることだけに全神経を集中させる。
まず始めに空気が切られ次に草木が切られそして時を待たずして湖が切れる。
「えええええええぇ!? 湖割れたんだけど……」
切れ味云々の話ではなくそもそも斬撃波でも飛んでいるのでは無いかと思えるほど切れる聖剣を、エルピスは少し怯えながら鞄の中に仕舞っておく。
困ったものは取り敢えず後回しにするに限るのだ。
魔導の書や鍛治室など気になるものもあるが、後回しでいいだろう。
次は誕生日記念ガチャだ。
……と言うより誕生日記念とは一体なんなのだろうか?
もしかして逐一このガチャは更新されていたりするのだろうか?
ーーまぁどうでもいいか。
ポケットに入れて居たはずなのに無くなって居たスマホを思い出しながら、エルピスは慣れた手つきで画面をタップする。
排出一覧
1.技能〈気配察知〉レベル十
2.特殊技能〈メニュー〉
3.調味料セット
4.世界地図
5.称号〈勇者〉
おまけ:神からの忠告(本)
背中から妙な汗が流れ落ちて行くのが感じられる。
恐らくあの時であった神はエルピスがこの世界に来て直ぐに〈ガチャ〉を使うと思っていた筈だ。
だが安全な環境下でぬくぬくと暮らしていたエルピスは、ガチャという能力に頼らずとも暮らしていける為に、いままで使ってこなかった。
つまり何が言いたいかと言えば、学校で出た提出物を一週間間違えて居た様なーーレンタルビデオの返却日を忘れて過ごして居た時の様なーーそんな気分だ。
頭がクラクラして胃が痛くなって来るのが実感できふ。
「あ~もう良いや。次に行こう」
獲得できた技能は気配察知か、噂をすればなんとやら、まさかこんなに早く手に入るとは。
まだ獲得した実感や気配の感覚が掴めないが、慣れてきたら遠くの敵でもわかる様になるだろう。
後は調味料セット。これは単純に嬉しい。
塩だけでも良かったのだが、砂糖があれば今後料理がさらに美味しくなるだろう。
これは後でフィトゥスに渡しておこう。
メニューは使い方がいまいち分からないから、後回しにしておく。
後は……後回しにしたが、この本は読んでおいた方が良いだろう。
多分勇者の称号は、これと関係しているんだろうし。
取り敢えず読んでみよう。
[まず君の転移の件だが、本当に悪かった。
いくら原因不明の事態とはいえ、こちらの不手際には違いない。
謝って許されるとは思っていない、好きな様に罵ってくれ。
先ず君の神の称号だが、早急に隠して欲しい。
それはその世界の一般的な生き物の身には余るものだ。
長い年月をかけて狂信とも言える程に自らの身体を鍛え上げた才能ある者が、ギリギリ使えるようなシロモノ。
権能を酷使していないからまだ生きているが、今の状態で権能を使用すれば君は間違いなく死ぬ。
気を付けてくれたまえ。
それとそちらの世界は毒や病気に対する完全耐性を無効化する技能や耐性を無効化するものもある。
こちらも同様に気をつけてくれ。
それと勇者達は五年後にそちらの世界に着く。
恐らく数年は表立った行動はしないと思うから、その間に力を付けて欲しい。
最後に少し早いが、五歳の誕生日おめでとう。
あと手紙は本当に早く読んでくれ、書き直しが地味に大変なんだ。
日本担当の神より]
神の言葉に申し訳なさを感じながら、エルピスは称号を隠蔽する。
雄二達は五年後にこちらに着く様だが、神様の見立てでは数年は行動しないらしいから、その間に技能や技術を磨いておくことにするか。
さて今から称号を隠しておくか。
(完全隠蔽が確かここをこうやって……出来たかな)
身体から力が抜けていく感覚が持続して居るが、これが身体機能の低下か。
正確な表現をするのなら風邪をひいた時のような感覚というのが一番近いだろうか、頭は痛くないし体も発熱していないが、いつもより体が重く感じられる。
(緊急時には全部解除出来る様にしておかないと)
どうやら権能は隠蔽すると、体感的にではあるが身体能力が半減するようだ。
とは言え神様関連で獲得したスキルは当てはまらないみたいだし、別にそこまで困る事では無い。
使い方が分からないからなんとも言えないが、魔眼なども問題なく作動している様だ。
ーーんっ? あの木の下に誰かいた様な……もう誰かに見つかったか、ちゃちゃっと家に帰らないとな。
鞄の中に〈ガチャ〉で手に入れたアイテムを詰め込み、エルピスは足早にその場を去るのだった。
74
お気に入りに追加
2,596
あなたにおすすめの小説

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる