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転移前
転移前②
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「意外と乗り気になってくれて嬉しいよ。まさか一クラス丸々転移できるな
んて、過去最高記録更新だ」
教壇に立った神はクラスの椅子が全て埋まっている事を満足げに眺めながら、上機嫌そうにそう呟いた。
もちろん数人ほど教室から出ていったものはいる。
何が起こるか分からないという恐怖からか、はたまたテレビもゲームもない場所へと行くのに対して抵抗を感じたのか、その真意は定かではないがその人達を否定する気は全くない。
もちろん湊だってそれらの物に未練がないわけではない。
だが龍という単語一つの威力は、湊に取ってそれらを捨てさせるには十分すぎるほどの力を持つ。
たったそれだけのことだ。
「さて、君達はこれから先いろいろな困難に直面すると思うが、まずは基本的な知識を教えようと思う」
そう言って神は黒板に字を書く。
いや、その行為は字を書くというよりは字を書いたようなフリをしていると言った方が正しいのだろうが、どちらにせよ教科書に記載されているような文字を神は書くと湊達に読むよう指示を出す。
書いてある事は大まかに分けて三つ。
一つ目はスキル制度とレベルの関係について。
二つ目は魔物と呼ばれる存在とそれから取れるものについて。
三つ目は向こうの世界におけるこちらの人類の扱いについて。
どれも興味を惹かれる内容であり、一番目から順繰りに目を通していく。
「ーーさて見てもらうより説明した方が早いだろうから説明させてもらうと、まずスキルについてだが、これには大きく分けて二つある。
一つ目は常時発動型のスキル、常時発動型のスキルはかなりのレアスキルで獲得するのに一定の条件が必要だったり、特別な方法が必要だったりする。
その代わり常時発動型というだけあって、基礎面においての強化を実感できるスキルでもある。
二つ目は任意によって発動するタイプのスキルだ。このタイプのスキルは自分でスキルの発動の意思を確認、そして実行というプロセスを踏まなければいけず、常時発動型のスキルと戦う場合は一歩遅れた対応になってしまう事が多い。
それ故に君達がいまから行く世界においての戦闘は、常時発動型スキルの見極めと任意発動型のスキルをいかにタイミングよく使用するかがコツとなってくる。
なぁに、所詮ゲームのようなものさ。いつかは慣れる」
常時発動型のスキルと任意発動型のスキルの違いについて、さも差がないような言い回しをしているが、その点二つのスキルにはかなりの開きがある。
もしこれが神のいうとおりゲームだったのならば、確かにバランス調整もされているだろうから常時発動型スキルと任意発動型スキルに大きく差はないのだろう。
だが神の言った言葉が本当ならば、常時発動型のスキルと任意発動型のスキルは手数が一手分開くというハンデを背負いながらも、さらに任意発動型のスキルを警戒しなくてはならないのだ。
どちらが有利なのかなどもはや口に出すまでもないだろう。
必要そうな能力を頭に浮かべながら思案を巡らせていると、再び神が口を開く。
「次は魔物と呼ばれる生き物についてだな。異世界には魔力と呼ばれる魔法を使用する為の力が存在し、それは空気中に魔素として広がっている。
これについては酸素に含まれる気体が一つ増えたくらいの感覚で構わない、まぁそれによって何か大変なことになるなら各自勝手に脳内補完しておいてくれ。
それでだがその魔素が高濃度な場所に、普通の獣が長時間滞在することによって凶暴化したものが魔物と呼ばれる種族であり、君達がおそらく向こうの世界で戦うことになる相手だ。
またこの魔獣からは魔力石と呼ばれる魔力の結晶が体内から取り出されるのだが、これは様々なことに使用できて高値で売れるのでこれを売ることを生業とする冒険者という職業も存在する」
二つ目に説明されたのは魔物という生物の発生条件と、魔石というものの価値についてだ。
聞いた限りではおそらく高濃度の魔素を吸わせるだけで魔物にすることができるので、もし魔物使いというスキルでもあればわざと獣を魔物化させるのもありかなと思う。
魔石に関して言えばまだ具体的な使用方法を教えられていないので、向こうの世界に着いた際に実験する他ないだろう。
「さて、最後だがこれに関しては地域によって変わってくる。
まず向こうの世界にはもちろん人間以外の生物も国を形成しているわけだが、基本的には人間が作り出した国が多く存在している。エルフやドワーフ、彼等を総称して亜人と呼ぶのだけれど、彼等は強いからわざわざ群で暮らす必要が無いからね。
それで人間の国からした君達の対応だが、基本的に敵対意識を持たれる事はない。
君達は彼等からすれば新しい知識を与えてくれる物だからね。最優先で保護してくれるはずさ」
そう言いながら神は黒板に存在する国の名前を大雑把に書いていく。
帝国、王国、共和国、連合国、そして数十の小さな国々が存在する場所を大雑把な地図とともに。
基本的に自由に暮らしたい湊ではあるが、とはいえ異世界において後ろ盾が無いというのは不安でしかないのでどこの国に所属するかは頭の中で練っておく。
第一候補としては、おそらく実力至上主義であろう帝国だ。
とはいえそれは強い能力が手に入れられたら、というたらればの話ではあるが。
「一通りの説明は終わったかな? さて、次は君達が獲得するスキルについてだ。これは完全ランダムで君達に三つずつ配布される」
「質問いいですか?」
「ああ、どうぞ」
「配布されるスキルは常時発動型と任意発動型のスキルは、最低でも一つは獲得できるのでしょうか?」
「ん? ああ、そう言えばそこら辺の設定は詳しく決めていなかったな…じゃあこうしようか、いまから君達に一番向いていると思うスキルを目の前に表示させるから、そこから自由に選んで取ってくれ。
凄く強い能力は無いかもしれないが、全部ハズレになるよりはマシだろう?」
そう言われて先ほどのパンフレットと同じように、目の前に一冊のノートが現れる。
わざわざ学生仕様にしてくれる神の行動に少し面白みを感じながら、湊はノートを開ける。
(さてと、どんな能力が……)
開いた瞬間に湊はノートを閉じる。
あまりに低いテストの点を見たときのように、悲惨なほどの成績を目にしたときのように。
現実から目を背けようとーーいやまぁ今から異世界という非現実に行くのだから、既に現実から目を背けまくりな訳ではあるのだが、とにかく渡されたノートから目をそらす。
ちらりと見えた能力は、漢字四文字のよく分からないなにか。
意を決して再びノートを開くと、やはり獲得できる能力は〈能力借用〉と書かれたたった一つの能力だった。
「書いてある文字の横にある欄にチェック表を入れて貰えば、その時点で能力を獲得した事になるようにしておいた。能力の使用方法については獲得すれば自動的に分かるようになっている。
一度チェックを入れてしまえば二回目はないので、それだけは気をつけて」
注意事項を聞き流しながら、どうせ一つしかないのだからと雑にチェックを入れて能力の獲得を待つ。
身体に特に異変はない。
だが自分の中で何かが変わっていくのが感じられた。
〈能力借用〉の使い方が自然と頭に流れ込んできて、まるでいままでもこの能力を持っていたかのように自由に使いこなせる。
そして使い方が分かったからこそ、この能力の強さに気づかないうちに笑みがこぼれる。
この能力の効果は自分が見知った能力を、七つまで無条件で使用する事ができるという能力だった。
強過ぎる能力は1日に決まった回数しか変更できなかったり、一部の種族にしか使えない能力はその種族になるスキルを使用してからでないと能力を使用できないなどの欠点はあるものの、これほどのスキルならその程度どうとでもなる。
なんせ湊がいままでにやってきたゲームの主人公の能力が、本の登場人物達の能力が、そっくりそのまま自らの手になるのだから。
とはいえこの能力一つでは少々不安も残るので、早速能力を使用しながら湊は神に言葉をかける。
「すいません、僕の能力が一つしかないんですが…」
神を騙せるとは思っていない。
この能力の持ち主の効果はそもそも他人から優しくしてもらうという物であり、詐欺をするための能力ではないのでその点は問題ない。
次に設定している能力は運気の上昇と、能力強化にブーストをかける類のものだ。
「あーそう言うこともあるだろうな。君だけランダムで行くか?」
「できればお願いします!」
「じゃあ向こうの世界に着いたら能力が分かるようにしておくよ」
それさえ了承してもらえれば後は何も問題はない。
湊はそれだけ聞くと、再び渡されたパンフレットを読む作業に戻る。
それからしばらくして異世界への転移が始まった。
いったい何処へと転移させられるのは定かではない。
ただ一つだけ言えることは、今後の人生、今までのものよりもっと良くなるであろうと言う小さな確信だけだ。
んて、過去最高記録更新だ」
教壇に立った神はクラスの椅子が全て埋まっている事を満足げに眺めながら、上機嫌そうにそう呟いた。
もちろん数人ほど教室から出ていったものはいる。
何が起こるか分からないという恐怖からか、はたまたテレビもゲームもない場所へと行くのに対して抵抗を感じたのか、その真意は定かではないがその人達を否定する気は全くない。
もちろん湊だってそれらの物に未練がないわけではない。
だが龍という単語一つの威力は、湊に取ってそれらを捨てさせるには十分すぎるほどの力を持つ。
たったそれだけのことだ。
「さて、君達はこれから先いろいろな困難に直面すると思うが、まずは基本的な知識を教えようと思う」
そう言って神は黒板に字を書く。
いや、その行為は字を書くというよりは字を書いたようなフリをしていると言った方が正しいのだろうが、どちらにせよ教科書に記載されているような文字を神は書くと湊達に読むよう指示を出す。
書いてある事は大まかに分けて三つ。
一つ目はスキル制度とレベルの関係について。
二つ目は魔物と呼ばれる存在とそれから取れるものについて。
三つ目は向こうの世界におけるこちらの人類の扱いについて。
どれも興味を惹かれる内容であり、一番目から順繰りに目を通していく。
「ーーさて見てもらうより説明した方が早いだろうから説明させてもらうと、まずスキルについてだが、これには大きく分けて二つある。
一つ目は常時発動型のスキル、常時発動型のスキルはかなりのレアスキルで獲得するのに一定の条件が必要だったり、特別な方法が必要だったりする。
その代わり常時発動型というだけあって、基礎面においての強化を実感できるスキルでもある。
二つ目は任意によって発動するタイプのスキルだ。このタイプのスキルは自分でスキルの発動の意思を確認、そして実行というプロセスを踏まなければいけず、常時発動型のスキルと戦う場合は一歩遅れた対応になってしまう事が多い。
それ故に君達がいまから行く世界においての戦闘は、常時発動型スキルの見極めと任意発動型のスキルをいかにタイミングよく使用するかがコツとなってくる。
なぁに、所詮ゲームのようなものさ。いつかは慣れる」
常時発動型のスキルと任意発動型のスキルの違いについて、さも差がないような言い回しをしているが、その点二つのスキルにはかなりの開きがある。
もしこれが神のいうとおりゲームだったのならば、確かにバランス調整もされているだろうから常時発動型スキルと任意発動型スキルに大きく差はないのだろう。
だが神の言った言葉が本当ならば、常時発動型のスキルと任意発動型のスキルは手数が一手分開くというハンデを背負いながらも、さらに任意発動型のスキルを警戒しなくてはならないのだ。
どちらが有利なのかなどもはや口に出すまでもないだろう。
必要そうな能力を頭に浮かべながら思案を巡らせていると、再び神が口を開く。
「次は魔物と呼ばれる生き物についてだな。異世界には魔力と呼ばれる魔法を使用する為の力が存在し、それは空気中に魔素として広がっている。
これについては酸素に含まれる気体が一つ増えたくらいの感覚で構わない、まぁそれによって何か大変なことになるなら各自勝手に脳内補完しておいてくれ。
それでだがその魔素が高濃度な場所に、普通の獣が長時間滞在することによって凶暴化したものが魔物と呼ばれる種族であり、君達がおそらく向こうの世界で戦うことになる相手だ。
またこの魔獣からは魔力石と呼ばれる魔力の結晶が体内から取り出されるのだが、これは様々なことに使用できて高値で売れるのでこれを売ることを生業とする冒険者という職業も存在する」
二つ目に説明されたのは魔物という生物の発生条件と、魔石というものの価値についてだ。
聞いた限りではおそらく高濃度の魔素を吸わせるだけで魔物にすることができるので、もし魔物使いというスキルでもあればわざと獣を魔物化させるのもありかなと思う。
魔石に関して言えばまだ具体的な使用方法を教えられていないので、向こうの世界に着いた際に実験する他ないだろう。
「さて、最後だがこれに関しては地域によって変わってくる。
まず向こうの世界にはもちろん人間以外の生物も国を形成しているわけだが、基本的には人間が作り出した国が多く存在している。エルフやドワーフ、彼等を総称して亜人と呼ぶのだけれど、彼等は強いからわざわざ群で暮らす必要が無いからね。
それで人間の国からした君達の対応だが、基本的に敵対意識を持たれる事はない。
君達は彼等からすれば新しい知識を与えてくれる物だからね。最優先で保護してくれるはずさ」
そう言いながら神は黒板に存在する国の名前を大雑把に書いていく。
帝国、王国、共和国、連合国、そして数十の小さな国々が存在する場所を大雑把な地図とともに。
基本的に自由に暮らしたい湊ではあるが、とはいえ異世界において後ろ盾が無いというのは不安でしかないのでどこの国に所属するかは頭の中で練っておく。
第一候補としては、おそらく実力至上主義であろう帝国だ。
とはいえそれは強い能力が手に入れられたら、というたらればの話ではあるが。
「一通りの説明は終わったかな? さて、次は君達が獲得するスキルについてだ。これは完全ランダムで君達に三つずつ配布される」
「質問いいですか?」
「ああ、どうぞ」
「配布されるスキルは常時発動型と任意発動型のスキルは、最低でも一つは獲得できるのでしょうか?」
「ん? ああ、そう言えばそこら辺の設定は詳しく決めていなかったな…じゃあこうしようか、いまから君達に一番向いていると思うスキルを目の前に表示させるから、そこから自由に選んで取ってくれ。
凄く強い能力は無いかもしれないが、全部ハズレになるよりはマシだろう?」
そう言われて先ほどのパンフレットと同じように、目の前に一冊のノートが現れる。
わざわざ学生仕様にしてくれる神の行動に少し面白みを感じながら、湊はノートを開ける。
(さてと、どんな能力が……)
開いた瞬間に湊はノートを閉じる。
あまりに低いテストの点を見たときのように、悲惨なほどの成績を目にしたときのように。
現実から目を背けようとーーいやまぁ今から異世界という非現実に行くのだから、既に現実から目を背けまくりな訳ではあるのだが、とにかく渡されたノートから目をそらす。
ちらりと見えた能力は、漢字四文字のよく分からないなにか。
意を決して再びノートを開くと、やはり獲得できる能力は〈能力借用〉と書かれたたった一つの能力だった。
「書いてある文字の横にある欄にチェック表を入れて貰えば、その時点で能力を獲得した事になるようにしておいた。能力の使用方法については獲得すれば自動的に分かるようになっている。
一度チェックを入れてしまえば二回目はないので、それだけは気をつけて」
注意事項を聞き流しながら、どうせ一つしかないのだからと雑にチェックを入れて能力の獲得を待つ。
身体に特に異変はない。
だが自分の中で何かが変わっていくのが感じられた。
〈能力借用〉の使い方が自然と頭に流れ込んできて、まるでいままでもこの能力を持っていたかのように自由に使いこなせる。
そして使い方が分かったからこそ、この能力の強さに気づかないうちに笑みがこぼれる。
この能力の効果は自分が見知った能力を、七つまで無条件で使用する事ができるという能力だった。
強過ぎる能力は1日に決まった回数しか変更できなかったり、一部の種族にしか使えない能力はその種族になるスキルを使用してからでないと能力を使用できないなどの欠点はあるものの、これほどのスキルならその程度どうとでもなる。
なんせ湊がいままでにやってきたゲームの主人公の能力が、本の登場人物達の能力が、そっくりそのまま自らの手になるのだから。
とはいえこの能力一つでは少々不安も残るので、早速能力を使用しながら湊は神に言葉をかける。
「すいません、僕の能力が一つしかないんですが…」
神を騙せるとは思っていない。
この能力の持ち主の効果はそもそも他人から優しくしてもらうという物であり、詐欺をするための能力ではないのでその点は問題ない。
次に設定している能力は運気の上昇と、能力強化にブーストをかける類のものだ。
「あーそう言うこともあるだろうな。君だけランダムで行くか?」
「できればお願いします!」
「じゃあ向こうの世界に着いたら能力が分かるようにしておくよ」
それさえ了承してもらえれば後は何も問題はない。
湊はそれだけ聞くと、再び渡されたパンフレットを読む作業に戻る。
それからしばらくして異世界への転移が始まった。
いったい何処へと転移させられるのは定かではない。
ただ一つだけ言えることは、今後の人生、今までのものよりもっと良くなるであろうと言う小さな確信だけだ。
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