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俺の日常へようこそ

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人から認められる事以上に素晴らしいことがあるだろうか。
いやない。
人間というのは社会性を手に入れるために、他者とのコミュニケーションを積極的に取ることを選択した。
周囲を変えることによって環境を変化させてきた人類が唯一この二千年でした明確な進化、それが協調性や承認欲求などの社会性である。
だからこそ私は──

「これあと何枚書かないといけないんだ!?」

そこまで書いたところで手が止まる。
書いているのは抗議文、送りつける相手はこの世界を管理しているというらしい世界管理システムと呼ばれるものだ。
なぜこんなことをしているのか説明するには少し前に遡る必要がある。

俺こと今川楽いまがらくは死んだ。
死因は圧死、公開マジックをするために用意した機材が壊れていてそれに押しつぶされた形だ。
死んでからどれくらいの時間が経っているか分からないのですごく昔のことなのかもしれないが、なんにせよ死んだ俺に与えられた選択肢は二つ。
輪廻天性の輪に入ることを諦めて無に帰るか、どれくらい待たされるのか分からない輪廻転生の輪の中に入って自分の順番が来るのを待つことだと告げられた。

改めて思い返しても酷いと思う、世が世なら大群を率いて革命でも起こしてやるほどの悪条件なのだが、神はそうではないという。
いわく魂の状態でここまで自我を持っている事の方が珍しく、選択肢を与えてくれるだけ格別に好条件だというのだ。 

「そりゃないよ神様……」

天国でも地獄でも俺にとってみれば他人がいる時点で最高だった。
なのに用意されているのは無に帰るか順番待ちをするためだけの人生。
そんなの死んでいるのと変わらない──

「いやまぁ死んだ結果なんだけど」

頭を抱えてどうしようかと考えてもどうしようもない。
ストライキして二択を迷わせてもらってるこの時間が、俺に与えられた最後の時間であることを噛み締めることくらいしかできないでいた。
ふとそうやって考え事をしているとどこからともなく声が聞こえてくる。

「どうじゃ決まったか?」
「抗議文のレポートなら山のようにありますよ」
「融通が効かんなお主も。そんなに他人が必要か?」
「そりゃもちろん! 人は一人じゃ生きていけないんだよ神様。どうっ? 気が変わったりした?」
「まぁお主の素性は知っておる。特別に異世界に転生させてやってもいい」
「本当に!?」

思い描いていた最高よりも更に一歩踏み込んだ最高。
どうやら神は俺のことを見捨てていなかったらしい。

「前例がないわけでもない。適当な世界に転生させてそれで満足するのだな? ちぃと能力なんぞやれんが、それでも本当に良いのだな?」
「俺以外がいるならなんだっていい! 今すぐ頼む!さぁさぁ!!」
「もう少し神に対しての敬意とか持ってほしいもんじゃの。ちょうどいま死んでいく少年の体が開いている。それに貴様の魂を入れてやろう」

なんぞ不穏な言葉が神の口から発せられるが、この際死にかけの体だろうが何だろうがもらえるだけありがたい。

「頼むから次死んだときはさくっと選ぶんじゃぞー」
「はーい」

小さいころから返事だけはいいと定評のある俺だ、きっと素晴らしい返事だったことだろう。

そうして意識がゆっくりと沈んでいき、体の感覚が徐々に表れる。
死んでから久しく感じていなかった感覚に目の開き方すらわからずドタバタとしていると、徐々に感覚がわかってきた。
長年自転車に乗っていなくても案外乗れたりするように、人の体も少し経てばゆっくりではあるが自分に順応してくれる。
(呼吸とか久々にするなぁ!)
鼻から空気を吸い込み、口から吐き出すという簡単な行動ですら意識しなければ忘れてしまいそうだ。

ゆっくりと自分の体の感覚を理解し、与えられた第二の生を実感しながらゆっくりと俺は目を開く。
陽のまぶしさに目を細めながらゆっくりと開いた視界に飛び込むようにして入り込んできたのは一面を埋め尽くす木々。
どうやら森にいるらしい。
(とりあえず上体を起こして――ッ!?)
身体を起こすために地面に手を突こうとした右手が激痛を訴えかけてきて、俺は咄嗟に顔をそちらに向ける。

そこにあったのは健康とはとてもではないが言えないほどに弱弱しいひ弱な腕が地面に無理矢理たたきつけられたことで青くなっていた姿だった。
(そっか。これ子供の体だから、俺の感覚で動くと怪我するのか)
ラクが死んだのは20代後半に差し掛かろうというくらいの頃の事。
人生の絶頂期であり遊ぶためにそれなりに体を鍛えていた自分の体とは違い、この体は子供の物。
昔と同じようにして扱えばなるほど怪我もするだろう。

無理矢理振り向いたことがたたったのか少し痛む首を優しく押さえつけながら、ラクはゆっくりと立ち上がる。
いつもの感覚と違い過ぎてまるで他人の体を糸で操っているような不思議な感覚だが、それでも人というのは不思議なものでなんとか歩くことくらいはそれでも出来る。

(誰か人を、人を探さないと)

痛む腕を抑え、乱れた服をなんとか引きずりながらゆっくりとラクは自分がやってきただろう道を歩いて戻る。
人に会えると思うといまから笑みが零れ落ちそうになる。
こうしてラクの二回目の人生が始まるのだった。
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