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14話

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 「ううっ」
スコルからうなり声が聞こえてくる。
「スコル!」
その声に気づいたアイリスが駆け寄ってきた。
表情から心配を抑えきれずにいる。
スコルはゆっくりとまぶたを開けていく。
その視界はまだぼやけていて、よく見えていない。
「スコル、よかった。目が覚めたんだね!」
「主…?」
疲れていた体のため、少しかすれながらも声を出す。
主の前で寝ている場合じゃないと、少しずつ体を起こしていく。
「まだ、無理しないで」
「すみません。まだ、視界が開けておらず」
視覚を切り替えようと、一旦目を閉じる。
そして、また目を開き、アイリスに視線を向けた。
先ほどよりははっきりと写るようになったが、まだ半開きである。
「あなたは?」
「スコル、どうしたの?私は…」
アイリスは、はっと息を飲む。
(今の私は勇者アイザックじゃない。ただの村娘アイリスだ)
今までスコルには「僕」という一人称しか使ってこなかったのに、もう勇者じゃないと自覚してからは、「私」しか出てこない。
「えっと、私は…」
自分のことを何と言っていいか、言葉が出てこない。
今のアイリスは、スコルにとっては、見知らぬ他人だから。
スコルの仲間のアイザックだと思ってスコルに話しかけたときの自身は、瞬く間にしぼんでいく。
その自信の消失とともに、アイリスは床にへたれこんでしまう。
スコルと目が合わせられず、頭を下げてしまう。
その挙動不審なアイリスの様子に、スコルは首をかしげる。
(今の私にはスコルと会う資格なんて、ないんじゃ…)
うつむいている顔の目には、涙がうかんでくる。
「俺の幼なじみだよ」
そんな助け船が聞こえてきた。
ばっと、頭を上げる。
「俺のアイリスちゃんだよ。えっと、スコル?」
見上げると、困り顔のアイザックがいた。
「そうですか。主のご友人だったのですね」
なるほど、とスコルは頷く。
しかし、アイザックは内心冷や汗が流れていた。
アイザックにとっては、初対面で今回がスコルと初めての会話だった。
話の中でさんざんアイリスはスコルと呼び捨てにしていたから、自分も呼び捨てにした。
結果的には正解だったが、自信はなかった。
村でのアイリスは誰も呼び捨てにはしてきてなかったから。
年上の人には、さん付け。
年下の子には、くんとかちゃん。
同じ年のアイザックに対しても、アイくんと呼んでいた。
アイリスから話を聞いただけでは、どう過ごしてきたかなんて、分からない。
アイリスのフリ?
いやでも、アイリスはアイザックのフリをしていたから、自分のフリ?
頭のこんがらがることを考えている。
(アイちゃん困っていたから、口挟んじゃったな。でも、やっぱり訳分からないから、入れ替わりのこと早いところバラそ)
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