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二話∮十八歳
しおりを挟む──ピピッピピッ──
朝六時半のアラームで目を覚ます。
僕の名前は清蓮寺 光。よくヒカルと読み間違えられる。
そして、これもよく間違えられるのだが…僕は正真正銘の『女』である。……まぁ、僕自身が男っぽいと理解しているから深くはツッコメないが。
「…よし、今日もやりますか!」
頬を軽く叩き、目を完全に覚まさせた僕はベッドから降りて顔を洗いに洗面所へと向かった。
部屋を出て縁側を通り、居間を通った所に洗面所はある。
僕は顔を洗うとTシャツを捲り上げる。
髪が金髪で白のメッシュの入った頭には白の三角頭巾を付けた。
普通、女性が朝やる事と言えば大抵は料理や洗濯物を干すイメージがあると思うが、僕は少しばかり違った。
右手には水の入ったバケツに左手には雑巾。
水の中に漬けると僕はそれを絞って縁側の床を拭き始めた。
家には僕の走る足音が響く。
「ふぁ…アキ、おはよう。今日も早いな」
「おはよう、兄さん」
七時頃、僕の床掃除の音に目を覚ましたであろう男の人が欠伸をしながら縁側にやってきた。
僕は手を止めて男の人に視線を合わせる。
「兄さん、昨日は徹夜だったの?」
「ん。まぁな」
「あんまり無茶は駄目だよ」
「大丈夫。今日で仕上げた」
「流石、いつもご苦労様です」
未だ眠たそうにする男の人に僕は苦笑いを浮かべる。
僕が兄さんと呼ぶ男の人、清蓮寺 洵は今人気の小説作家である。
主にミステリーやファンタジー系を中心として書いており、アニメ化や実写化もされた事があるのだ。
そんな洵だが、僕の本当の兄ではない。
両親を早くに亡くした僕の引き取りの時に自ら名乗り出た。
母親の弟である洵は、その頃はまだ二十歳になったばかりの大学生だった。
周りはそんな洵に反対したが、それを押し切って引き受けたのが洵である。
まだ小さかった僕は五歳で、あれから十三年も育ててくれた洵を兄のように慕っていた。
「さてと、朝飯作るけど…なんかリクエストない?」
「んー、いつも通りで♪」
「おけ。魚と味噌な」
洵はまるでお見通しというように笑って僕の頭を撫でてキッチンに向かった。
雑巾掛けがある程度終わった僕は、それらを片付けて三角頭巾もとった。
一旦、自室に戻り竹刀を手にすると縁側の庭にスリッパで降りる。
誰に教えてもらった訳ではないが、兎に角身体を動かしたくて始めた僕の最近の日課は竹刀である鍛練をする事だ。
昨日は雨だったから今日は昨日の分まで張り切って鍛練をしていると、洵がご飯が出来たと言う言葉で終了した。
「また竹刀振り回してたのか?」
「昨日は雨で出来なかったからね。てか、ただ振り回してた訳じゃないし!」
「ハイハイ。そりゃ悪かった」
鍛練をただの棒振りのように言われて、少しムッとしながら僕が言うと洵は苦笑いをして謝った。
それからご飯を食べて、学校の身支度を整えた僕は玄関に向かっていた。
「あっ、アキ」
「ん?なに」
「今日は寄り道もしないでちゃんと真っ直ぐに帰ってくるんだぞ」
昔からの日課で洵は僕の見送りをするため玄関に一緒に来ると、思い出したようにそう言われた。
「?なんで」
「お前の誕生日。今日だろ」
「え?…あー、もう六月十日?」
「出来るだけ早めに帰ってこいよ。待ってっから」
「うん。いつもありがとう、兄さん」
笑顔で洵にお礼を言うと、洵は僕の頭を撫でて「いってらっしゃい」と笑い返してくれた。
だから僕も「行って来ます」と言って家を出た。
「……姉貴…」
洵は光の姿が見えなくなると、どこか悲しい雰囲気でボソリと呟いた。
「…アキはちゃんと十八歳になったぞ」
家の中にたった一つの声が静かに響いた。
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