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二十一話
しおりを挟む「……で、実際問題どうな訳?」
「え?何が」
「だーかーら!三神の事、実際どうなのかなぁーって」
「ッゴホッゴホ!…ちょ、いきなり何!?」
「アラアラアラ~、そこで咽せちゃうんだぁー?」
あれからマイさんと合流した私達は、アキトさんを残してマックに来ていた。
ついて来ようとするアキトさんにマイさんが山口を呼び出してなんとか逃れる事に成功した訳だけど、オレンジジュースを飲んでいた私にいきなりマイさんからの質問に戸惑い咽せてしまった。
「もー!からかわないでよっ」
「いやいや~、さっきの雰囲気だといい感じだったからさぁー」
「……別に、いい感じじゃないし」
ポテトを頬張りながらニヤつくマイさんは明らかに楽しんでいるとみた。
拗ねたようにオレンジジュースをまた飲みだす私に、マイさんは興味津々とばかりに話を振ってくる。
「へぇー?でもさ、三神とどんな話してた訳?超気になるんだけど♪」
「…それは……」
マイさんに聞かれてさっきの出来事を思い出す私は、今更ながらどうして認めたのかと自分でも不思議に思っていた。
それに、話して良いか分からない。
アキトさんが私を本気だという事を他の人に言って、それが他の誰かに広がってしまったらと考えてしまうとどうにも言葉が出て来なくなる。
言って良いものか、マイさんの事だからからかってはくるだろうが誰かに広めたりはしないだろうけど。
それでもやっぱり不安は少しある。
「あんな見つめ合ってさ」
「みっ、見つめ合ってなんかっ!」
「はいはーい、慌てたら余計怪しくみえるよー?」
考え事をしてると、また唐突な言葉が飛んできて私はついムキになって否定してしまった。
こういう態度が周りに勘違いをさせてしまうと分かっている筈なのに。
だけど、いっそのこと思い切ってマイさんに話せば理解してくれるかもしれない。
「…っ……ただ、自分に本気なんだって認めて欲しいって言われただけで…」
「うわー。それでオーケイしたの?」
「オーケイっていうか……なんか、あそこで頷かないとイケない雰囲気だったっていうか…」
そうだ、アキトさんのあの顔を見たら……認めるしかないと思ったんだ。
私が知る限りのアキトさんはチャラそうで軽そうな感じだったのに、さっきのアレは今までにない以上の真剣な表情だったし。
真っ直ぐに見つめてくる、あの顔が……頭から離れないでいる。
どうしたんだろ?私……。
「えー、それって意味同じじゃない?」
「違うよ。私は絶対に好きにならないし」
「絶対?本当に本当??」
「~~~~~もう!なんでそうグイグイくるのっマイさんは!」
「んー、だってねぇ。確かにアイツは変態寄りだしウザイしキモいかもだけど、宮本の事になると馬鹿みたいに食いつくし」
「…すごい貶しようだね…;;」
「宮本がそれ言う?…まぁ、でもアイツなら宮本を幸せにできるんじゃないかなぁーってのは思ったよ」
衝撃的な言葉に私は耳を疑った。
マイさんから出た言葉は、何より私の知ってるマイさんらしくないと思ったから。
アレが私を幸せにできる…?
どうしてマイさんはそんな事を言うのだろう。
でも、マイさんが言うならそれなりの理由がある筈だし…けど、私がそれに頷ける訳もない。
黙ってマイさんを見ていると、感づいたのかマイさんは最後のポテトを食べて口を開く。
「…実はさ、バスケが終わったあとお疲れ会で焼き鳥屋行ったんだけど」
「うん。知ってる」
「私らが遅れて着いた時にはもう合コンみたいに馬鹿四人が盛り上がってて、馬鹿二人は宮本を馬鹿にした女なんだけど……その二人がまた宮本を侮辱してね」
「え、何それ?聞いてないよ」
「そりゃあ、前に会った時は蒼さんも居たしさっきは三神も居たし。二人共話さないから言わなかったんだよ」
ここにきて初めて知らされる事実。
別に私の愚痴を言うのは構わない。
だけど、アイツらは言う場所を間違えた。
マイさんの前で言えば、どうなるか分かってなかったのかと呆れた。
私がマイさんの悪口を聞いて黙ってないのと同じように、マイさんも同じで……嬉しいけどマイさんに被害がでるのは嫌だった。
だから、あの日も本当は黙って見過ごすつもりだったのに……マイさんの悪口を耳にしたら怒りが止められなかった。
だけど、今思えばもう少し我慢してれば良かったかもしれない。
また、マイさんに迷惑を掛けてしまった。
「…ごめんね、私のせいで」
「いやいや、なんで宮本が謝んの?」
「だって…」
「そりゃあ、宮本を侮辱した馬鹿二人に激オコしたよ。で、ブチキレて言い負かしたら暴力振るわれそうになったんだけど…」
「えっ?何それ?ブン殴りたいんだけど」
「まぁまぁ、最後まで話を聞きなさいよ。…なったんだけど、蒼さんと三神がさ…庇ってくれて挙げ句にあのメスブタ共にトドメさしてくれてさ」
「……蒼さんと、アキトさんが…?」
「そうそう。”リナはもっと痛かった筈だ“って三神がめっちゃ怖い顔して手首へし折ろうとしてたよ」
まぁ庇って貰わなくてもどうにかできたけどね、とマイさんは笑って付け足す。
どれもこれも今初めて知って、私はどう返事を返したらいいか分からなくなっていた。
胸の辺りがムカムカして何かを言いたいのに言えない気持ちが渦巻いてこびりつく。
マイさんを庇ってくれて感謝する気持ちもあれば、私の痛みを考えてくれたアキトさんにジィンとする気持ちもあって……だけど、暴力を振るいそうになったアキトさんにどう言ったらいいか分からない気持ちもある。
男性で何が一番怖いかというと、私は暴力を振るう人だと思って男性に対しての苦手意識があった。
だけど、その暴力が……ただの暴力じゃなかったら?
”救う“意味のある暴力は、怖いだけなのかな。
現に私は、マイさんから聞いたアキトさんの行動に少し怖いと思ったけど…嫌う程じゃなかった。
寧ろ……よくやったという気持ちが先だった。
そう思う私は、おかしいのかな?
「…宮本?どしたの、暗い顔して」
「……ねぇ、マイさんはその時どう思った?アキトさんが、暴力を振るいそうになって怖いと思った?よくやったと思った?」
「んー、そうだなー。確かに暴力は良くないけど、怖い半分もっとやれとは思ったかな?」
「そっか……やっぱり似てるね」
それを聞いてちょっと安心した自分と、本当にそれでいいのかと思う自分がいてスッキリしなかった。
でも、私だけじゃないんだと思えたから少しだけ気分は楽になった。
「なになに。宮本も思ったの?」
「私は怖いと思ったけど、マイさんみたくにもっとやれとは思ってないよ。ただ、よくやったとは思ったけど」
「あー、ね。でもそうだよねー、やっぱり似てるね私らw」
「だねー」
暗い気持ちを隠して私はマイさんと笑ってまた他愛ない会話をして、その焼き鳥屋で起きた話を詳しく話してくれて愚痴を言ったり聞いたりした。
中でも一番に笑ったのが、マイさんはその後山口とバイト先で話し合ってビビる山口の姿が情けなかったという話だった。
どうやら、バイトの時に話があるから覚悟しとけとラインを貰ってマイさんの威圧感にかなりビビってバイト先に来たとか。
今後は、あのメンバーでの集まりは一切ないとされた。
当たり前な事だけどね。
またお金に余裕が出来たら、マイさんのバイト先に行って山口の様子を見に行こうと思った。
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