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三話

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結局、折れた私は今どうしたらいいのか分かりません。

誰か助けて下さい!

なんて、言えたらいいのに言えない自分が憎い。


「で、結局の所…リナって何歳?」

「……二十一歳ですが」

「マジか。五つ下かぁ~」


なんか意外みたいな反応されたんだけど。

この反応は知ってるぞ。

どうせ童顔ですよーだ!高校三年の時に、キモいオジサンからは二つ下に見られたくらいだしね。

煙草買う時だって身分証明確認されるし。

だからってそんな驚いたように目を見開くんじゃない。

ちょっと傷付くんだぞ。


「まぁ、最近じゃ十歳差なんて珍しくもなくなったし…俺的にはあんま興味ないからいいけど」

「ちょっと言っている意味が分かりません」

「んー、ぶっちゃけると俺……アンタに惚れたんだと思うんだよね多分。だから、俺と付き合って?」

「無理です。ゴメンナサイ。興味ないです」

「え、ちょ、即答っ」


何を言い出すかと思えば、呆れるほどの台詞に鳥肌が立ち私は無意識に即答した。

そもそも、惚れたと思うとか多分とか信じないし。

というより、顔はなかなかのイケてる彼が私なんぞに惚れるなんて信じられない。

きっとからかってるんだ。


「スミマセン。貴方の言葉は非常に胡散臭いので。あと、そうゆうの興味ないですから」

「えー?俺真面目に言ってんのに酷くない?」

「だとしても、全く興味ないので。貴方にも恋愛にも」


どうだ。

ここまで言ったら流石に諦めてくれるだろう。

寧ろ、ここまで言われて平気な奴とか正気じゃない。


「……仕方ないな…」

(よっしゃ!諦めてくれたかな?)

「なら、これから興味持てばいいよ!」

「はっ??」

「だって、ここまで言われたらますます興味持ったし!俺、拒絶されんの初めてだから逆に燃えてきたわ」

(……駄目だ…コイツ、正気じゃない)


ヤバい。

目が輝いてるように見えるわ。

てか、今まで拒絶された事ないとかどんだけだよ!

本当に今日は最悪だ。


「ん?どした、頭なんか抱えて。頭痛?」

(誰のせいだと思ってんだ!)


首を傾げて見てくる男に、私は心底呆れた。


「なんでもないです。ただ、何時まで居座るのだろうと思っただけなんで」

「うわっ、直球だね。でも嫌いじゃないよ♪」

「キモいです。ドMなんですか」


この男、本当にどうしてくれようか。

嫌がってるの分かってる筈なのに、離れてくれない。

しかも、さっきから空腹の音が聞こえるし。


「…あの、」

「ん?なになに」

「その顔止めて下さい。あと、お腹空いてるなら何か頼んだらどうですか」


嬉しそうに微笑む顔に軽蔑の視線を送って、冷たくあしらうが彼は一向に引かない。

なんでだ。


「んー、空いてるけど金欠だからなぁー。家帰ってもなんも無いし」

「……はぁ。なら、このクロワッサンどうぞ」


指差すのは冬限定のホワイトチョコクロワッサン。


「えっ!いいの!?」

「頼んだのはいいけど、正直お腹空いてないんです。あと、空腹の音が目障りなんで」


本当を言うと、気分じゃないから食べないだけなんだけど。

残すのも悪いから、食べて貰えると有り難い。

どうせ、また来たら食べれるし。


「本当にいいの?」

「はい。寧ろ食べてもらわないと困ります」

「うわー、ありがとう!じゃ、遠慮なくいただきまーす♪」


何がそんなに嬉しいのか、彼は周りに花を散らせてニコニコとクロワッサンを口に運ぶ。

作ったのは自分じゃないのに、こんな幸せそうに食べている姿をみると少しだけ得をした気分になるのは何故だろう。


「…そんなに美味しいですか?クロワッサン」

「ん?なになに、欲しくなっちゃった?食べかけだけど…」

「いや、誰も寄越せなんて言ってませんから。差し出さないで下さい」


仕方ないと渋々食べかけのクロワッサンを差し出す彼に眉間に皺を寄せる。


(……まるでリスみたいだな)


両頬を膨らませながら食べる姿はまさしくリスっぽい。

そう考えると、少しだけ笑えてしまう。


「あっ!」

「はぃ!?」

「今笑った!?初めて笑ったね!」

「………見間違いじゃないですか?」

「いーや、今絶対笑ったって!」


しまった。

つい無意識に口元が緩んでしまった。

急いで誤魔化すが、どうやら無意味のようで彼は嬉しそうに微笑む。

両頬を膨らませながら。


「…いいから、早く食べ終えて下さい。そのまま消えて下さい」

「え、何その冷めた顔!?さっきの笑顔みーせーてー」

「うざい。しつこいと嫌われますよ」

「嫌われた事ないから平気だよー」

「……私は嫌いです。チャラい人もからかう人も、暴力を振るう男性も大嫌いです」


あー、苛々してきた。

なんだ、この人は。

どうしてこんなにもイラつく事ばかりするんだろう。

だから嫌いなんだ、こーゆう人種は。

お陰で煙草の本数が増える。


「………もしかして、昔になんかあった?」

「はっ……?」

「いやー、ヤケに具体的だったからさ」

「……そうですね。ありましたよ。だから、貴方のような人は生理的に無理です」


チャラそうだから、てっきり馬鹿なんだと思ったけど案外鋭い所を突かれた。

煙草に火を付けていると、そんな台詞が聞こえたので正直に答えてしまった。

だが、これで流石に解ってもらえた筈だ。

諦めてくれるだろう。


「心外だな」

「はぃ?」

「確かに、今まで会ったヤローがクズだったのかもしれない。けどさ、俺は違うから」

「っ…………」

「俺は、本気で惚れた女を悲しませたりなんかしない。絶対」


とっくにクロワッサンを平らげた彼は真剣そうな顔で、いかにも不服だと言わんばかりに見つめてくる。

どうしてだろう。

言葉が出てこない。

でも、彼が言ったように彼はきっとそんな事しないんだろうなと思ってしまう。

あぁ、どうしよう。

もっと早くに彼と出会っていたかったと思ってしまう自分がいる。

心臓が煩い。

駄目だ、信用しちゃ、だめなのに。

彼の言葉を信じたいと思ってしまっている。

馬鹿だなー私。

汚れている私を知らないから、彼はそんな事が言えるだけで……知ってしまえばきっと離れていく。

そう、きっと絶対に。


「……なら、本気で誰かに惚れて下さい。私以外を」

「本気で惚れてるよ。リナに」

「っだから、私以外を───!」

「リナだから、俺は惚れたんだよ。他の誰かじゃなくて」

「っ!」


直球だと私に言うけれど、貴方もかなり直球だと思う。

どうして、真っ直ぐに私を見るんですか?

どうして、そんな汚れを知らない瞳で私を見るんですか?

私は……私は貴方を真っ直ぐに見られないです。


「ねぇ、なんで目を逸らすの」

「………貴方は、かっこいいと思います。きっと貴方に好かれた人は幸せ者だと思う……だけど、私は駄目なんです」

「なんで?」

「だって私は………」


言え。

言うんだ、私。

そうしたら、きっと呆れてすぐに離れていく。

嫌われたっていいじゃないか。

寧ろ、それを望んでる筈でしょう。

なのに………なんで言えないの。


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