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二十四話
しおりを挟む只今私は混乱中です。
『───好きだよ、リナ』
苦し間際にと言った私の言葉に、何故か蒼さんが私を引き寄せてそんな台詞を吐きました。
しかも、額にキスまでされましたがっっ!?
え、演技ですか?それとも本気?
マジで誰か助けてっ!
下手したら私、シヌ!!!!
ドッキドッキし過ぎて心臓が口から出そうでシヌから本当に!!
そんな私の耳元で、蒼さんがボソリと小さく何かを呟いて私はやっと現実に戻る。
呟かれた言葉はたった一言「合わせて」だった。
いや、耳元で囁かれるのもくすぐったくて危うく赤面しそうになったけども。
どうやら蒼さんは京君に諦めて貰えるように協力してくれるっぽい。
神かよって言いたくなる程今蒼さんに感謝の気持ちがいっぱいな私は絶対にお礼しなきゃなと決意した。
「そ、そんなっ…!」
「だから君には悪いけど、リナの事、諦めてくれないかな?」
「………い、嫌だ!きっと話を合わせてるだけ何じゃないデスかっ!?」
わーぉ、流石というかなんというか……カンが鋭い京君だわ。
てか、コレでも諦めないのか。
しつこい奴は嫌われるぞ、若者よ。
でも話を合わせてるってのは本当だしなぁ~どうしたら諦めてくれるんだろう…。
蒼さんも考えていたのは同じなのか、ほんの少しだけ肩を掴まれた手に力が入ったような感覚があった。
「……初めて会った時、凄く熱心に本を選ぶ人が居るなぁって思ったんだ」
「はっ……本…?」
「買った後も大切そうにしてて、微笑む顔が可愛くってね。でも、あくまで僕は店員だしお客様にプライベートな話もアレかなって思って諦めてたんだよ」
突然始まった蒼さんの話に京君は頭にハテナマークを付けてて、私もキョトンとしたように黙って蒼さんの顔を少し見上げるようにして見ていた。
確かに、本屋で初めて会ったには会ったけど……ん?
私と蒼さんとでは初めて会った日が違うのか?
疑問に思うにも口には出さず、私は黙って蒼さんの話を聞く。
「…それで、ある人をきっかけに一度だけ会話をして……でもその先に進めなかった。引かれたらと思うと怖くて」
「……………」
「それから暫くして、また偶然にも会えて…最初は友達として仲良くなりたいなって思ってたんだけど……好きの気持ちが大きくなってもっとって思っちゃったんだよね…」
「……蒼さん」
「だから、リナの言葉が聞けて僕は今凄く嬉しいよ」
なんだろう………なんか、蒼さんの顔が凄く…愛おしいと言わんばかりに私に微笑み掛けてくる。
もしかして、蒼さん……それは本音なんですか…?
ドキリと鼓動が煩く鳴って、私はどうしたら良いのか分からなくなった。
今絶対に顔が真っ赤だろうなと分かっていても、何故か蒼さんの瞳に吸い寄せられるようで逸らせない。
今までそんな素振りなかったと思っていたのに、蒼さんの言葉を聞いて違和感のある行動が幾つかあったのを思い出す。
本屋でアキトさんに絡まれた日、私が助けを求める前からこっちを見ていたし。
バスケの時も庇ってくれて、その後のお疲れ様会の時だって私が居なかったのも構わずアキトさんと二人でアイツらに言い返したらしいし。
最初はアキトさんが居るからとか、そういうのがただ許せない性格だったからだと思っていた。
でも本当は…………私に好意があったから…。
もしも本当にそうなら納得してしまうし、戸惑うかもしれない。
否、今まさに戸惑っているのだけれど。
引き寄せられて抱かれる肩が、ほんの少し熱を持った感覚にさえなる。
「と言うわけだから。リナの事、諦めてくれるよね?」
「………りだ…こんなの、あんまりだぁー!!」
俯いて話をワナワナと聞いていた京君は、蒼さんのトドメの言葉に顔を上げて涙目で叫び逃げるように去って行った。
少しだけ良心が痛むが、今はもう京君などどうでもいい。
私の頭は蒼さんの事で頭がいっぱいだった。
引き寄せられた時にも思ったが、蒼さんの身体は思ったよりもしっかりしてて力強さの中に優しさもあって……そもそも、男性にこんな事をされたのが殆どと言っていい程にない私にとってはドキドキ要素しかない。
え、このあとどうしたらいいの!?
今までどうやって接してたか分からなくなったんですけど!!?
内心アタフタしている私に蒼さんは追い討ちのように私に微笑み掛けてくる。
あ、あの、気絶していいですかっ…。
「…リナさん」
「はっはい!」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
私の勘違いでなければ蒼さんの顔が今微かに近付いているような感じなんですがっ!
どどど、どうしよう!
ビクリと身体が反応して、今絶対に赤面であろう私の顔を蒼さんが見つめていた。
「…はぁー、緊張しました…」
「っえ…?」
「彼、結構しつこそうだったからどうなる事かと思いましたよ。でもこれで諦めてくれて良かったですね、リナさん」
……………な、なんだぁー。
やっぱり演技だったのか…いや、知ってましたよ知ってましたとも!
緊張したと言って苦笑する蒼さんはいつの間にか肩から手をどけていて、いつもの敬語で話掛けてくる。
だが内心の私は未だにドッキドッキ状態です。
あんな事があって、はいそうですねと言える程私は出来てないですよ。
なんせ、コミュ障なんでねっ!
「リナさん?どうしました??」
「えっ、いやどうもないれす!…あっ」
動揺して固まっていた私に、また蒼さんが顔を近付けてくるものだから慌てて噛んでしまった。
う、うわー!
めっちゃ恥ずかしいぃ私!!!
「アハハ。リナさんってみてて飽きないですね」
「そ、そうですか?アハハ、ハハ…;;」
「はい。あ、そうだ良かったら相席をしてもいいですか?もしかしたらまた彼が戻ってくるかもしれませんし」
蒼さんに笑われたー!
終わったよ、何がは分からないけど何かが終わったぁー!!
もうヘマはしまいと私は黙って首だけを上下に振った。
まぁ、それを見た蒼さんはまた笑っていたけど。
恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいです。
「…………リナさん、もしかしてさっきの本気にしました?」
「ふぇっ!?な、何をですか;;」
「さっきからぎこちないですよ。確かに大体の事は本当ですけど」
「なっななな、」
「僕、実は本屋で何度かリナさんの姿を見かけた事があるんですよね。一冊の本に凄い顔で悩んでいる姿とか、レジに並んで買った本を嬉しそうに持ち帰る姿とか」
大体が本当とは、どこからどこまでがですか!?
かなり挙動不審になりつつある私に、蒼さんは沢山話して何とも言えないような笑みを浮かべた。
まさかそんな姿を晒していたとも知らずに私は違う意味でまた赤面になる。
「~~~~~お、お恥ずかしい姿を見せてスミマセン;;」
「え、いやいや。寧ろそういう表情をしてくれるお客様って僕らからしたら有り難いんですよ?あぁー、この本好きなんだなとか在庫増やして良かったなぁとか自分のオススメの本を買ってくれたんだなぁとかで僕ら店員はそれだけで仕事を頑張ろうって思えるんです」
そう言って微笑んでいる蒼さんは、本当に本が好きなんだなと伝わる。
先程までの恥ずかしさなど吹き飛ぶくらいに、蒼さんの笑った顔が幸せそうに見えた。
「だから、リナさんとは一度話してみたいなぁと思ってたので結果的に良かったです」
「あ、ありがとうございます…」
「…知ってます?リナさんが選んだ少女漫画って殆ど僕のオススメなんですよ」
「えっそうなんですか!?」
「はい。最近だと、『まいりました、○輩』とか『僕と君の○○な話』とか。イイ話なのでオススメなんですよねー」
「分かります分かります!あんな青春恋愛とか現実じゃそうそうないですもんねっ」
「そうなんですよ。僕もこんな青春したかったなぁと思いました」
良いなぁと蒼さんは笑って言ってて、私もテンションが上がって色々と盛り上がった。
マイさん以外でこんなにも好きな本で語れる事などそうそうないからか、本当に楽しくて楽しくて私はさっきまでのぎこちなさを忘れていた。
自分のオススメでアレがどうとかコレがどうとかを話す私を微笑ましいように見つめる蒼さんの表情に気付かないくらいに。
その後も、互いのオススメの本やアレが良かったシーンがコレが良かったシーンがとかを沢山話して時間はあっという間に過ぎていった。
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