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青の彼岸花
青の彼岸花【2】
しおりを挟む「にゃぁぁ……」
なぜかおばあちゃんの部屋から一匹の猫が出てきて、心臓が止まりそうになる。
「ビ、ビックリしたぁ!猫さんどこから来たの?」
「にゃぁ?」
猫はひょいっと縁側から飛び降り、一度こっちを振り向くと塀に飛び乗り歩いて行く。そしてこちらの様子を伺う様にもう一度振り返った。
私は廊下にかけてあったジャンバーを羽織り、縁側にあったサンダルを履いて玄関の方へと周り、塀にそって走る。
「あっ!いた!昼間見た猫ちゃんやん!」
家から少し離れた海岸沿いを、とことこと歩く虎柄模様の猫を見つけついて行く。
夜風がもう冷たい。街灯の少ない海岸沿いを、月明かりを頼りに歩いていく。
「どこのうちの子やろ……?うぅ、ちょっとサンダルは寒かったな」
昼間は暑かったのに夜には気温がぐっと下がっていた。さらに潮風が吹き、一段と寒く感じる。
ジャンバーを羽織ってきて良かった。と、思っていると目の前を歩いていた猫がスッと視界から消える。
「あれ?あの辺で見えなく――」
猫が見えなくなった辺りで、しばらく探してみるが猫は見当たらない。
顔を上げると月明かりに照らされた防波堤が目に入り、もしかしたら防波堤の方に行ったのかもしれないと思い、向かってみる。
防波堤に近づくと一人座っている人影が見えた。
「こんな時間に誰やろ……釣り人やろか?」
潮風の匂いと波の音が心地よく聞こえる。月が水面に反射して辺りはいっそう明るく見えた。
私はゆっくりと近づいていく。小声で猫を探すフリをして……。
(女の人?急に海に飛び込んだりせぇへんよな……?)
「猫ちゃぁん、どこ行ったぁ……猫ちゃ……」
「……あのぉ」
「はひっ!」
女性に近付くと急に声をかけられ、変な声が出た。何だか恥ずかしい……。
「あっ、ごめんなさい、驚かせて。猫ちゃんを探しているのですか?」
「は、はい!」
「こっちには来てませんよ」
「そ、そうですか!すいません!お邪魔しました!」
「お邪魔しました」なんて意味不明な事を言っているのだろうと、自問自答しながら向きを変え来た道を引き返す。
「ね、猫ちゃぁん!おぉい……」
「ねぇ、あなた……もしかして私の事が見えるの?」
「え……?(ドキドキドキドキドキドキッ)」
心臓が今にも飛び出しそうな質問をされた。聞こえなかったフリをして立ち去ろうか……でも足が震えて動かない。まさか見てはいけないものを見たのではないだろうか。
「あぁ……あ……」
恐怖で声がうまく出ない。そして背後に冷たい視線を感じる……!
「み……見えま……」
「ふふ、冗談よ。幽霊でも何でもないわ。ねぇ、こっちに来て少しお話しない?」
「は?……も、もうっ!ビ、ビックリさせんとってくださいっ!」
「あははっ!ごめんごめん!私は春子。あなたのお名前は?」
一気に緊張が解かれ、背中を冷や汗が流れる。
「……美央です」
「いくつ?」
「12です」
「春樹の1個下かぁ……」
「1個下です。春樹?」
「えぇ、私の子供――」
「ふぅん……」
ムスっとした表情のまま、私は春子さんの隣に腰掛けた。海風が海面を揺らし月が歪んで見える。
「美央ちゃんか……私ね。この町に昔住んでたんだけど、色々あって飛び出したんだ。18歳の頃かな……」
「ふぅん……」
「今日はお墓参りに来てたんだ。20年経ってもこの町は変わっていなかった。皆、歳を取ってはいたけどね。ふふ……美央ちゃんはどうしてこの町に?」
「おばあちゃんちがあって、お母さんとお姉ちゃんと来ました。お墓参りって言うてました」
「そっか、同じだね。お彼岸……ね」
その時、防波堤側の畑に咲く花が目に入る。おばあちゃんの庭で見た花と同じ形だった。ただ色が青白く、赤ではない。
「彼岸花?……あの彼岸花は青白いんや」
「あぁ……白の彼岸花ね」
「あれも彼岸花……?」
「お彼岸の頃に咲く花ね。赤や白や黄色……でも見て?あの彼岸花は青白く光ってる――」
「綺麗……」
月明かりで照らされた海面が彼岸花に映り、まるで青色の彼岸花のように見えた。
「奇跡的な光景ね……美しい」
「青い彼岸花……」
そうだ!と思いスマホを取り出し、写真を撮り、ネットで青い彼岸花を検索してみる。
「えぇ……と、青い彼岸花の花言葉は……え、青い彼岸花は無いんや。そや、あれは白い彼岸花やもんな」
「ふふ……そうね。でもそうだなぁ……青い彼岸花に花言葉を付けるとしたら……『母の願い』もしくは『輪廻転生』かしらね」
「母の願い……」
春子さんの言う言葉に何だか深みを感じた。
「さっ、そろそろ帰りましょうか。家は近くなの?私はこの先の旅館だけど」
「あ、はい。旅館の手前のとこがおばあちゃんちです」
「あら、そうなの。送って行くわ。ところで美央ちゃんは関西方面から?」
「そうです。春子さんは?」
「うちもや。今は大阪に住んでる」
「えっ!一緒やないですか!全然わからへんかった……」
「あははっ!向こう帰ったら、大阪のおばちゃんやでぇ」
「春子さんは綺麗やから、大阪のおばちゃん言うイメージちゃいます」
「あら!嬉しい事言うやない!気に入ったわ。美央ちゃん、連絡先交換しよや」
「……えぇぇ」
「なんや、その嫌そうな顔は!」
「さっきのお返しです」
「え?あははっ!まだ根に持っとるんかいな」
「当たり前です!」
「ほんまに?ほんまに怒っとるん?」
「……ぷっ」
「なんや!冗談かいな!」
「これでおあいこです」
「もうかなわへんわ」
そんな冗談を言いながらも春子さんの手を握り、防波堤を後にする。
いつの間にか月が雲に隠れ、青い彼岸花は白い彼岸花に戻っていた。
………
……
…
翌日、お姉ちゃんも病院から無事に帰って来て約束通りお寺さんにお参りする。参道には赤い彼岸花が咲き乱れ、たくさん写真を撮ったのを今でも覚えている。
――大阪に帰ってから、お姉ちゃんは関西大学病院に入院し手術を受ける事になった。
お姉ちゃんの担当医師がまさか春子さんの旦那さんだとはしばらく気付かなかった。病院に旦那さんの着替えを持ってきた春子さんに偶然出会い、お互い口を開けて驚いた。何千万分の一の確率だろうとお互いに笑い合った。
お姉ちゃんの手術は無事に成功し、2年後には元の生活が出来る様になる。あの日、病院で検査しなければ手遅れになった可能性もあったそうだ。
そして、もう1つ……奇跡の出会いがあった。
…
……
………
――10年後。
私は22歳になり、お姉ちゃんが26歳になった日。
「それでは新郎新婦の入場です!」
実は今日、お姉ちゃんの結婚式なんです。
「お姉ちゃんおめでとうさん!」
「美央……ありがとう。あんたのおかげや、ほんまありがとう……」
「えへへ」
「美央ちゃん!」
「あっ!春子さんっ!おめでとうございます!」
「美央ちゃん、ありがとうね!ほんまに……」
「いいえ!もう、二人共こんな所で泣かんとってや!皆が待ちおるやん!」
「そうやね、美央。また後で!行きましょうか、春子お義母さん!」
「えぇ、茜ちゃん……。いいえ、今日からは私の娘やから……茜やな。美央ちゃんまた後でゆっくり話そうな」
「うん!お幸せにっ!!」
お姉ちゃんが今日結婚をした。相手は春子さんの子、春樹さん。病院で出会った事をきっかけにお姉ちゃんの看病を時々してくれていたそうだ。いつしかそれは恋となり、二人は結ばれた。
お姉ちゃんは看護師の道を選び、春樹さんも父親と同じ医者の道を歩いている。
そして春子さんはお姉ちゃんのお義母さんになったのだ。
あの日見た青い彼岸花……
春子さんが言った花言葉『母の願い』……
春子さんのお母さんが命懸けで助けようとしたのが、私のお母さんの妹、美紗叔母さん。
春子さんのお母さんも美沙叔母さんも亡くなってしまったが、美沙叔母さんのお腹にいた茜お姉ちゃんは今も生きている。
私とお姉ちゃんの血は繋がっていない。それを聞いた時は驚いたが、姉妹の絆はそれを聞いても変わらなかった。
そして今、世代を越えて春子さんの子供と美紗叔母さんの子供が結婚をする。
青い彼岸花のもう一つの花言葉は『輪廻転生』。
あの日見た彼岸花が繋ぎ合わせたご縁だったのかもしれない。
――お姉ちゃん。末永くお幸せにね。
❀✾❀✾❀✾❀
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
引用/著・雑魚ぴぃ、異世界雑魚ぴぃ冒険たん
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