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番外編
番外編第五話・その先の未来
しおりを挟む「のこ……ほんとにやるのか……?」
「えぇ……」
「ほんとのほんとに?」
「そうよ!はるくん諦めなさい!これから気持ち良い事をするのよ」
「あぁ……う、うん……」
春夫達は希子に言われ、裏参道に来ていた。時刻は丑三つ時。
「こうかにゃ!こう!」
「くるみは単純でいいわね……私はやりたくないわ……」
「私もでござる。もしくはもう眠たいでござる」
「来たわよ!皆!準備して!」
『お……おぅ……』
前方から鈴の音と、お経が聞こえてくる。丑三つ時の裏参道ではモノノ怪達が毎晩行脚する。
その行き先で希子達はモノノ怪達を待つ。やる気たっぷりの二人とまったくやる気の無い三人。
「行くわよ!!はるくんから!」
「えぇ……俺からかよ……」
「いいから!始めて!」
「はい……えぇっと……」
春夫は諦め気味にポーズを取る。
「お、俺はブラックマトイ……」
「うちはブルーマトイにゃ!」
「……レッドマトイですわ……」
「グリーンマトイでござる……ふぁぁ……」
「そして私がゴールドマトイ!!全員合わせて……」
『ゴレンサークル!!』
ドォォン!!
背後で妖狐の仕込んだ爆弾が爆発する。
「き、決まったわ……!!気持ちいい!!」
「ゴレンサークルってさ……いや……いいんだ。のこが楽しいんなら……」
「最高だにゃ……この高揚感……猫肌が立つにゃ」
「は、はずかしい!もうお嫁に行けない!」
「ぐぅ……でごじゃる……すぴぃ――」
………
……
…
「お父さん!お父さん!起きて!!」
春夫は悪夢を見ていた。
「お母さん!!お父さん起きない!ねぇ!起きない!」
「はいはい……もう。あなた時間よ!今日は小春の参観日行くんでしょ!」
「ん……えっ……夢……?夢か……良かった……」
「もう何を行ってるの!起きて!」
「あぁ……おはよう……」
――あれから月日は流れて、小春は八歳になった。春夫と同じく闇落ちの体質を生まれ持ち、それを抑えるべく蛇姫が小春の体内で眠っている。
「もう八年か……」
時々、小春の言動に蛇姫の姿が見える事がある。小春が失敗した時や、悲しんでる時にそれは見えた。小春が大きくなり、自分で闇を乗り切れた時に初めて一人立ち出来るのだろう。
――春風が吹き、桜が舞う。
小学校の校門で、春夫と希子はお互いに昔のことを思い出す。春夫は参観日の日の事を、希子は春夫と別れた日の事を。それぞれが思いをはせながら校門を抜ける。
春夫と希子が通っていた母校は過疎化が進み廃校となったと父親に聞いた。木造の隙間風が入る小学校はすでに無いそうだ。
小春が通う小学校は隣町のコンクリート造りの真っ白な校舎だった。かみのこはる神社からはバスで通学している。
「私達も随分歳を取ったわね……」
「そうだな。色々あったな……」
二人は口数少なく、小春の待っている教室へと向う。小春のクラスは十人ほどの生徒しかいない。全校生徒合わせても五十人に満たない小学校だ。
教室の後ろで二人は授業が始まるのを待つ。小春が二人に気付き、恥ずかしそうに手を振る。
授業参観は作文の発表だった。クラス全員が順番に読み上げていく。題は特に設けてなく自由に書いているみたいだ。
小春の番が来た。
「――はい、次は神野さんお願いします」
「は、はひっ!」
緊張からか声が上ずっている。
「わ、わたしのお家!神野小春!……わ、わたたた……」
(落ち着け、小春!)
(小春!!がんばれ!)
春夫と希子は口には出さず祈るような気持ちで小春を見つめる。
「お……お父さんがお猿さん……で猫が……」
「クスクス……お父さんがお猿さんだって」
「小春ちゃんがんばれ」
教室がザワつく。今にも泣き出しそうな小春。と、小春の周りに黒いモヤが立ち込め始める。
周囲の人には見えてはいない。だが、春夫と希子には見えていた。
「……いかんな、のこ。危なくなったら周りの子を頼む」
「えぇ、あなた」
天井からすぅと一本の黒い腕が小春に伸びていく。それは春夫が闇落ちしてた頃と同じ物だった。
「のこ、すまん。後は任せた。脱――」
春夫が脱兎を使い、小春を助けようとした瞬間。
チリーン――
小春がお守りで付けている鈴が、窓から吹き込む風で小さく鳴った。
「お待ちなさい。小春ちゃんは大丈夫」
いつの間にか妖狐が春夫の腕を掴んでいる。
「そうなのにゃ!小春ちゃんには――」
「陽子さん!?くるみ!」
「春夫殿、ゆっくり参観日を楽しむでござるよ」
「ござるまで!どうして!」
春夫が小春の方を向くと、小春の横に蛇姫が立っていた。
「ノア……目覚めたのか……!」
「あなた……蛇姫様が……!」
「うむ……しっかりせぃ。お主は春夫の娘であろう?」
小春が教室の後ろを振り向くと、モノノ怪達が小春に手を振っている。
こくん、と小春がうなづくと蛇姫は小春の肩に手を置いた。
「大丈夫じゃ。皆がおる」
「ふぅぅ……お父さんはかみのこはる神社のかんぬしさんです。家には、お猿さんや猫さんや狐さんも住んでいます!つまみ食いをする猫をお母さんはいつも追いかけ回して怒っています!」
「ちょ!小春!」
「クスクス……」
「あらあらまぁまぁ」
希子が恥ずかしそうに周りの父母に頭を下げる。先生を始め保護者達には、妖狐の姿も、幼猫も妖猿も、そして蛇姫の姿も見えていない。
胸を張って堂々と作文を読む小春を見て、春夫と希子は自然に涙が流れる。
その横には小春の肩をしっかと持つ蛇姫の姿がある。
「――かみのこはる神社の守り神は白蛇様です!すごく優しい神様なので皆も一度来てください。おしまい!」
パチパチパチパチパチパチ!!
皆が小春に拍手を送る。蛇姫も小春の頭を撫でている。
春夫は思う。人と違う人生を歩んできた。小春には普通の人生を用意するつもりだった。
だけど……
『だけど普通って何だ?』その疑問に春夫の中で答えが見つかった気がした。
『小春が笑顔でいられる事が、あの子にとっては普通の日常なんだ……俺がそうであった様に……』
いつの間にか天井から伸びていた黒い腕は消えている。それは小春が成長した証だった。
「あなた……小春はもう大丈夫。きっと元気に育ってくれる」
「あぁ……そうだな。ノアありがとう……」
春風が吹込み、教室のカーテンが揺れる――
キンコンカンコーンキンコンカンコンー
――小春の授業が終わると、皆が保護者と下校する。
「それでね!それでね!後ろを見たら皆がいてね!蛇姫さんが『大丈夫』て言ってくれてね!」
「良かったわね!今夜はご馳走作らなきゃね!」
「やったぁ!」
嬉しそうに話す小春の手を希子が引く。一歩後ろを春夫と蛇姫達が歩く。
「ノア、おかえり」
「うむ。待たせたの。久しぶりのシャバで体がなまっておるわい」
「シャバって……。でも長い間、小春を守ってくれてありがとうな」
「シャシャシャ!わしの中では一瞬じゃ。気にするな」
「蛇姫様、お元気そうで何よりですわ」
「蛇姫様、今夜は宴にゃ!!」
「蛇姫様、後で温泉に行くでござるよ!」
「ぬしらも元気そうじゃのぉ。良き良き」
春夫と希子と小春はそのまま呼んでおいたタクシーに乗り込む。蛇姫達は希子が用意した雲海に乗り、かみのこはる神社へと向う。
バタン――
カッチカッチカッチカッチ――
三人は後部座席に乗り、運転手に行き先を告げる。
「かみのこはる神社までお願いします」
「はい、隣町の金平糖山ですね――」
「そうです。運転手さんも行かれた事あるんですか」
「はい。小さい頃、祖母と一緒に――」
「へぇ……そうなんですね……」
『ザザァ……こちら五八六号車、金平糖山まで三名様、ドウゾ――』
『ザザァ……こちら本部五ハ六号車、金平糖山了解デス――ドウゾ』
『了解――ザザァ……』
運転手が無線で会社に行き先を告げる。春夫が何気にネームプレートを見ると『星野瀬海』と書かれていた。
「あの……運転手さん。星野瀬さんって、もしかしてあの神社のゆかりの方ですか」
「ははは!お客様、昔のことをよくご存知で。祖母の母親の代まで神社の近くに住んでいたと聞いています。もう亡くなりましたが……今はこちらの町に引っ越して来て暮らしてますよ」
「そうなんですね……すいません、なんか唐突に変な事聞いてしまって」
「いえいえ、懐かしいです。当時、私の父は島根県の方でタクシーの運転手をしていましてね。こちらに帰省する時は祖母と一緒に良く金平糖山に連れて行ってもらってたんですよ。昔はね、この辺りは――」
「へぇ……島根県で運転手を……そうなんですねぇ」
嬉しそうに昔話を始める運転手の助手席で老婆がにっこりと微笑んでいた。
『かみのこはる物語』番外編 完
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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