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番外編
番外編第三話・おねねこ様
しおりを挟むかみのこはる探偵事務所の書庫で、幼猫の『鮎川くるみ』は古文書を探していた。
「ないにゃ……やっぱりでまかせにゃ……んん……」
幼猫はおたたり様にまつわる古文書を探している。ここには神社の管理人の星野瀬が先祖代々管理してきた書物がある。江戸時代からあると言われているこの神社には何百冊もの貴重な書物があった。
「これでもにゃい……」
バサッ!
貴重な書物を投げる幼猫。と、投げた書物から一枚の手紙が出てくる。
「なんにゃ?これ」
その手紙はおたたり様によって悲惨な最後を告げた家族の結末が綴ってあった。
「何人も……おたたり……サマの……なんにゃ、消えてて読めないにゃ……美貌と永遠の命を手に入れる……!?」
幼猫は手紙を握りしめる。
「やっぱりおたたり様を喰らうと美貌が手に入るのかにゃ……ごくり。美貌が手に入れば世界中のオス猫がうちを求めて――きゃぁぁ!いやにゃぁもう!!」
「くるみ、何を悶えているのかしら?筒抜けですわよ」
「ひぃぃ!妖狐!何でもないにゃ!」
「あなたねぇ、こんなに散らかして――くどくど」
「後で片付けるにゃ!!」
――その日の夜。
「さぁ……おたたり様を喰らってやるにゃ」
幼猫は一人、裏街道に来ていた。時刻は丑三つ時。月が隠れて辺りは暗くなる。冷たい風がどこからともなく吹いてくる。
シャンシャンシャン……
鈴の音のような音が聞こえ、何かが獣道を歩いて来る。
『観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空――』
「来たにゃ!!さぁて……おたたり様を探すにゃ……!!」
『猫騙狂言曲!!』
幼猫が妖術を唱えると無数の猫の霊が現れる……。
「さぁ!お前達にゃ!おたたり様を探すのにゃ!行けにゃぁぁ!!」
幼猫の号令で百匹以上の猫達が!!猫達が……?動かない。
「何をしてるにゃ!臆するにゃ!出撃にゃ!」
『えぇ、めんどくさいにゃ……』
『今日はオフにゃ』
『わらわは今夜はお月見をするにゃ』
『えぇ!わらわって何時代なのにゃ!』
『平安時代にゃ?そちはいつなのにゃ』
『昭和にゃ!昭和は良かったにゃ……』
『ほほぅ、興味あるにゃ』
『超ウケるんにゃ!平安の猫と昭和の猫がいるにゃ!』
『無礼にゃ!そういうお前はいつの時代にゃ!』
『平成にゃ!ウケるにゃ!』
『平成の小猫がぎゃぁぎゃぁとうるさいにゃ……』
『むきぃ!この化石猫が何を言うかにゃ!!』
「おい……お前らにゃ……」
数百匹の猫の魂は色んな時代から集まって来ている。現世にまだ未練があるものが大半だ。そんなしゃべれる猫が一斉に会話をし始め収集がつかなくなる。
いつもは『またたび』を使って誘導しているのだが、今日に限ってまたたびが切れている。
「仕方ないにゃ……とっておきを使うにゃ……」
幼猫はバックから何かを取り出した。
「お前らにゃ!!これが最新のご飯にゃ!とくと見よ!!」
幼猫はそれを頭上に掲げ、皆に見せびらかし口へと運ぶ!!
「ちゅぅぅぅぅにゅっ!――ペロリ。美味にゃ……」
『あれは何にゃ!ちゅぅぅにゅて言うにゃ!』
『明治の時代にはあんな食べ物無かったにゃ』
『あんた明治の猫かにゃ!』
『あんれぇ!!その模様は石川啄木様が飼っていた猫ではないかにゃ!』
『美味そうにゃ……うっとり』
『一口食べたいにゃ』
「この『チュゥニュ』が食べたい者はうちに従うのにゃぁぁぁ!!」
『ニャァァァァ!!』
一斉に猫の魂達はおたたり様を探し始める。
「ふふ……ちょろいにゃ……全員行けにゃぁぁ!!」
おたたり様は本来、人間でも動物でも無い。この現世に強い怒り悲しみ憎しみなどが積もり積もった形なのである。そう簡単には生まれることもなく、そもそも姿を見せる事も稀である。
『いましたにゃ!!あれがおたたり様ですにゃ!』
一匹の猫がモノノ怪を指差す。
「ほんとかにゃ!?退治して喰らうにゃ!!者共かかれにゃぁぁぁ!!」
『ニャァァァァァ!!』
幼猫の号令で飛びかかる猫達。しかし――
「……こいつは違うにゃ。誰にゃ、おたたり様って言ったのにゃ」
『ヒュ、ヒュゥゥ……』
吹けない口笛を吹く猫が一匹……。
「おみゃぁかぁぁぁ!もっとちゃんと見にゃ……」
その時、数十体のモノノ怪が幼猫に襲いかかる。
「ちょ、ちょっと待つにゃ!!心の準備が出来てにゃ!!あぁれぇぇぇ!」
あっと言う間にモノノ怪に囲まれ、体中を噛まれたり、胸を揉まれたり、足を引っ掻かれたり、胸を揉まれたり……。
「おいっ!誰にゃ!さっきからうちの胸ばっかり揉む変態なモノノ怪は!!」
『チッ……』
変態行為をしていたモノノ怪がまさか自分自身が召喚した猫であることには気付かない幼猫であった。
「あぁぁぁ!!もぅ!!うっとうしいにゃぁぁ!まとめて滅してくれるにゃぁぁぁ!!」
『猫八百!!!』
空から巨大な肉球が現れモノノ怪を押しつぶす!!
ズドォォォォォォォン!!
「ハァハァハァ……今日の所はこのくらいで勘弁してやるにゃ……ハァハァハァ。お……お前ら、撤収にゃぁ!!」
『お、おぅ!』
幼猫は命からがら逃げ帰る。
「今回は失敗したにゃ……でも次は必ず……にゃぁ……」
幼猫はまだ気付かない。欲する欲が生み出す思いもまた、おたたり様を生み出すきっかけになると言うことを。
数年後、幼猫は自分が生み出したおたたり様に出会うことになる。それは猫の姿をしており、こう呼ばれていた。
『おねねこ様』
おねねこ様を見た者は一同にこう語る。奇怪な言葉を話し、胸を強調したモノノ怪だったと――
『チュウニュチュウニュチャ……チュウニュチュウニュチャ……』
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