かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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 希子と小春を連れて神宮寺の実家に帰省していた日の夜の事。
 春夫は一人、防波堤に来ていた。春夫の今回の帰省の目的を果たすためだった。

「にゃん太!にゃん太!いないのか!」

ザザザァァァ……

 月明かりに照らされて海の波が青白く光る。潮風が鼻を抜け、自然に深い深呼吸をする。
 波音が何もかも連れ去って行ってしまいそうなそんな夜だった。雲で月が隠れると海に飲まれそうな感じさえする。

「にゃん太は……いないのか。あの時言った言葉をもう一度聞きたかったんだが……」

 ふと、防波堤から港を見ると彼岸花が咲いていた。真っ白な綺麗な彼岸花。
 春夫が見たその時、雲が流れ月明かりに照らされた海面が反射し、白い彼岸花が青く色付く!!

『彼岸花……それはあの世とこの世を繋ぐ花なのにゃ』
『へぇ……そうなんだ』
『にゃ。特に青い彼岸花というのがあってにゃ。会いたい人に会えると言われているにゃ』

 忘れていたにゃん太との会話が急に脳裏に思い出される。

「これの事か……!青い彼岸花!」

 海面に照らされた青い彼岸花を見ていると、彼岸花の後ろに何かが見えた気がした。春夫は恐る恐る声をかける。

「春夫……なのか?」
「……兄さん?春彦兄さんなの?」
「あぁ……ようやく会えた……な」
「……」
「一言だけ……一言だけ言いたくてここに来たんだ!」
「……」
「春夫……すまなかった!」
「!?」
「俺は知らなかった。だが知った後でも春夫を名乗っている。お前の代わりに俺は生きているんだ。申し訳ないと思っている!」
「……そっか。春彦兄さんは……やっぱり僕の兄さんだ。良かった……」

そう言うと、彼岸花の後ろいた影が消えていく。

「春夫!」
「春彦兄さん……ありがとう。いつかまた――」
「いや!まだ話は終わってな……い……」

ザザザァァァ……

波の音が声を打ち消し、また静寂が訪れる。

 産まれて間もなく、春彦は春夫と入れ替わった。それは蛇姫のとっさの判断だった。だがそれが良かったのか悪かったのか……それぞれの思いが波に飲まれていく。

「また……いつか。会おうな」

 そうつぶやくと、持っていた花束を海へと流した。花束は波打ち際で悲しそうに揺らいでいた。

ザザザァァァ……

 翌日、地元のお寺を訪ね供養の為にお経をあげてもらった。お寺には元々『寺井春彦』のお墓がある。お墓に線香をあげ、手を合わせる。

「にゃんな、来てたのかにゃ」
「おっ!にゃん太ここにいたのか!昨日探したんだぞ」
「知らないにゃ。来るなら来ると言って欲しいにゃ」

 厚かましそうに、頭を掻く猫。普通に話してはいるがこの猫もモノノ怪だ。そもそも猫は話をすることはない。

「今日は一人にゃ?」
「あぁ、弟……いや兄の供養にな。にゃん太のお陰で兄に会えたよ。ありがとう」
「それは良かったにゃ。お礼は魚で良いのにゃ」
「ははは!モノノ怪でも猫と同じ食事なんだな」
「もう慣れたにゃ。お主もお腹が出る前にダイエットするにゃ」
「ぐっ……言い返せない……」
「それじゃぁ、元気でにゃ。私は釣人に魚をたかってくるにゃ」
「あぁ、ありがとう。またな」

 そう言うとにゃん太はトコトコと階段を降りて行った。春夫は日があるうちに近所の魚屋で魚を買い、お寺に届けておいた。事情を知らない住職さんには断られたが無理矢理置いて帰ったのだった。

 希子の実家の蛇姫神社に数日滞在し、春夫達は帰路へと着く。帰りもサプライズ出雲に乗り、三人で窓の外を眺める。

「あなた、何だかスッキリした顔をしてるわね」
「あぁ……そうだな。お寺で兄の供養をしなければと思ってたからな」
「そうね……ずっと気にしてたものね」

 春夫はドキっとした。もしかして希子も春彦の存在に気付いてるのではないかと……少しだけ『希子には話しても良いかもしれない』という気持ちになる。

「むぅぅ!」
「あら、小春が何か怒ってるわ、かわいい」
「え……」

 春夫には蛇姫が『言うな!』と言っている様に思えた。

「……そうだな。そうだ。怒ってるな、ははは!」
「あなたはあなたなんだから……そのままでいいじゃない」
「え?……あぁ、希子……ありがとう」
「ふふ、わかればよろしい」

 春夫は希子に心を見透かされたようなそんな気がした。

 電車の窓を開けると少しひんやりとした秋の風が室内へと入ってくる。それは夏の終わりを感じた。

 幼少の春夫が夏休みだったあの日。モノノ怪達と暮らすようになるなんて夢にも思わなかった。
 境内の池で蛇姫と出会ってから十数年経ち、春夫は大人になった。
 今はこの暮らしも悪くないと思える。
 
 揺れる電車の中でそんな事を思い出しながら、春夫はウトウトと眠りにつくのであった。



――完――



※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

著・雑魚ぴぃ















「ネェ……キミノ……カラダ……」













「……ボク二、チョウダイ」





















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