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四章・宿命
第三十二話・かみのこはる物語
しおりを挟む――あれから一年後。
「ようやく完成したな」
「えぇ……そうですね……あなた」
「何か『あなた』は恥ずかしいな」
「そんな事ないですわ、あなた」
「いつも通りでいいんじゃないか」
「いいえ。これからはあなたの妻としてやって行きますわ」
古神社の跡地を整備し、立派な神社が建った。
『かみのこはる神社』
鳥居にはそう書かれている。鳥居をくぐると看板があり『かみのこはる神社』『かみのこはる探偵事務所』『社務所』と矢印が伸びている。
春夫と希子は父親母親を招き、ここ、かみのこはる神社で結婚式をあげた。婚姻届は提出していない。内縁の妻という形でしばらく生活するそうだ。
社務所は自宅も兼ねていた。そこには幼猫、妖狐、星野瀬も住む事になった。探偵事務所も併設してある為、連日連夜、人間、モノノ怪、幽霊などたくさんの種族が訪れる。
一方、百鶴の残してくれた屋敷は旅館に改装し妖猿が女将として管理を任された。春夫と希子達も週末には手伝いに出かけている。
旅館は『親子鶴』と命名された。時折、おかっぱ頭の座敷わらしとドジな母親の霊が現れるとあってあっと言う間に人気の宿となった。
妖狐は今だに狐の長を探している。仕事の無い日は泊りがけで探しに行く事もある。しかしこの探偵事務所での生活も、時々起こるモノノ怪との戦いも妖狐にとっては充実した日々だった。きっと春夫と希子が天に召されるその時まで苦楽を共にする事だろう。
幼猫は月の半分を親子鶴旅館で過ごす様になった。妖猿との関係も悪くはない。ただ時々現れる幽霊に頭を抱えている。仕事は主にネズミ取りらしいのだが本人もまんざらではないそうだ。ただネズミを取った後に、妖猿に見せに来るのはやめて欲しいと聞いた。
妖猿は親子鶴旅館の女将になった。百鶴の教えを請いながら毎日忙しくしている。桜の里からも村人が宿泊に訪れてくれているそうだ。玄関には魔除けにと、鬼の絵と一振りの刀のレプリカが飾られている。親子鶴旅館には温泉があり、それが女将になった理由だとか。
――月日は流れ、さらに二年の時が経つ。
「じゃぁ、行ってくるよ。レイ、留守番頼んだぞ」
「ハイ!御主人タマ!」
「あっ、小春の哺乳瓶――」
「希子サン、こちらにありメス!」
「レイちゃん、ありがとう!行ってくるわね!」
「ハイ!お気を付けて!」
境内の紅葉が色付く季節に、春夫と希子は産まれた赤子を連れて島根の実家へと里帰りする事になった。
赤子の体調などを考え、数年ぶりに東京駅からサプライズ出雲に乗り込む。以前、実家に帰った時はすべてが手探りで不安しかなかった。けれど今は三人で窓の外の秋の景色を目で追いかける。
ガタンガタンガタン――
「長かったような短かったような……」
「あなたどうしたの?」
「いや、色々思い出してな。死にかけてみたり、生き返ってみたり、モノノ怪と出会ってみたり……」
「ふふ、そうね。蛇姫様のおかげかな……」
「そうだな。今は気持ち良さそうに眠っているけどな」
ガタンガタンガタン――
春夫と希子の間に第一子が産まれる。体の小さな女の子だった。名は小春と言う。産まれてすぐに病にかかり、生死を彷徨った。
そして蛇姫が赤子の体内に宿り命を救われた。あれから蛇姫は眠ったまま、小春は元気に成長している。小春が成長し病を克服出来ればまた蛇姫に会える事だろう。
おたたり様――きっとこの呪いは春夫に生涯付きまとう。産まれてくる子にも、周りの者達にも。だけど蛇姫が眠りにつく前に春夫にこう言った。
「お主が生きている限り、わしがお主を守る。約束したじゃろう。シャシャシャ――」
すべての責任を、春夫の負の感情を蛇姫は一身に受け止め眠る。いつ目覚めるかはわからない。けれどそう遠くない将来にまた目覚めると春夫達は信じている。
ガタンガタンガタン――
「だぁだぁ!」
「小春、もうすぐ着きまちゅよ」
「え……と次で降りて乗り換えは……と」
三人は紅葉を眺めながら駅のホームで乗り換えの電車を待つ。
「あなた……懐かしいわね」
「そうだな」
この会話を何度もしてきた。この日だけでも何度か同じ事を口にした。
無事に希子の実家に着いた三人は歓迎され、孫の顔を見た神宮寺夫妻はもうそれはそれはデレデレだった。
希子も久しぶりの実家で安堵の表情を浮かべる。春夫は滞在中、境内の裏の池の掃除をし小さい社に手を合わせた。『どうか小春と蛇姫が元気でいてくれますように』と。
――数日後。
実家からの帰り際、神宮寺夫妻が一枚の紙を取り出した。そこには小春の名前が書いてあった。
無事にすくすくと育つようにと願いを込めて書いてくれたそうだ。また近々、帰省すると約束をし春夫と希子と小春は実家を後にする。
東京の神社に帰宅後、額を買い二人は居間の壁にその紙を飾る。
『命名・神野小春』
それは偶然なのか、はたまた蛇姫が将来を予言していたのか……。
『かみのこはる』の物語はここから始まる――
『かみのこはる物語』第二部 完
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※本編後にエピローグ、番外編があります。気が向いたら開いて見て下さい。
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