かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

文字の大きさ
上 下
33 / 40
四章・宿命

第三十二話・かみのこはる物語

しおりを挟む

――あれから一年後。

「ようやく完成したな」
「えぇ……そうですね……あなた」
「何か『あなた』は恥ずかしいな」
「そんな事ないですわ、あなた」
「いつも通りでいいんじゃないか」
「いいえ。これからはあなたの妻としてやって行きますわ」

古神社の跡地を整備し、立派な神社が建った。

『かみのこはる神社』

 鳥居にはそう書かれている。鳥居をくぐると看板があり『かみのこはる神社』『かみのこはる探偵事務所』『社務所』と矢印が伸びている。

 春夫と希子は父親母親を招き、ここ、かみのこはる神社で結婚式をあげた。婚姻届は提出していない。内縁の妻という形でしばらく生活するそうだ。
 社務所は自宅も兼ねていた。そこには幼猫、妖狐、星野瀬も住む事になった。探偵事務所も併設してある為、連日連夜、人間、モノノ怪、幽霊などたくさんの種族が訪れる。
 
 一方、百鶴ひづるの残してくれた屋敷は旅館に改装し妖猿が女将として管理を任された。春夫と希子達も週末には手伝いに出かけている。
 旅館は『親子鶴』と命名された。時折、おかっぱ頭の座敷わらしとドジな母親の霊が現れるとあってあっと言う間に人気の宿となった。

 妖狐は今だに狐の長を探している。仕事の無い日は泊りがけで探しに行く事もある。しかしこの探偵事務所での生活も、時々起こるモノノ怪との戦いも妖狐にとっては充実した日々だった。きっと春夫と希子が天に召されるその時まで苦楽を共にする事だろう。

 幼猫は月の半分を親子鶴旅館で過ごす様になった。妖猿との関係も悪くはない。ただ時々現れる幽霊に頭を抱えている。仕事は主にネズミ取りらしいのだが本人もまんざらではないそうだ。ただネズミを取った後に、妖猿に見せに来るのはやめて欲しいと聞いた。

 妖猿は親子鶴旅館の女将になった。百鶴の教えを請いながら毎日忙しくしている。桜の里からも村人が宿泊に訪れてくれているそうだ。玄関には魔除けにと、鬼の絵と一振りの刀のレプリカが飾られている。親子鶴旅館には温泉があり、それが女将になった理由だとか。

――月日は流れ、さらに二年の時が経つ。

「じゃぁ、行ってくるよ。レイ、留守番頼んだぞ」
「ハイ!御主人タマ!」
「あっ、小春の哺乳瓶――」
「希子サン、こちらにありメス!」
「レイちゃん、ありがとう!行ってくるわね!」
「ハイ!お気を付けて!」

 境内の紅葉が色付く季節に、春夫と希子は産まれた赤子を連れて島根の実家へと里帰りする事になった。
 赤子の体調などを考え、数年ぶりに東京駅からサプライズ出雲に乗り込む。以前、実家に帰った時はすべてが手探りで不安しかなかった。けれど今は三人で窓の外の秋の景色を目で追いかける。

ガタンガタンガタン――

「長かったような短かったような……」
「あなたどうしたの?」
「いや、色々思い出してな。死にかけてみたり、生き返ってみたり、モノノ怪と出会ってみたり……」
「ふふ、そうね。蛇姫様のおかげかな……」
「そうだな。今は気持ち良さそうに眠っているけどな」

ガタンガタンガタン――

 春夫と希子の間に第一子が産まれる。体の小さな女の子だった。名は小春と言う。産まれてすぐに病にかかり、生死を彷徨った。
 そして蛇姫が赤子の体内に宿り命を救われた。あれから蛇姫は眠ったまま、小春は元気に成長している。小春が成長し病を克服出来ればまた蛇姫に会える事だろう。
 おたたり様――きっとこの呪いは春夫に生涯付きまとう。産まれてくる子にも、周りの者達にも。だけど蛇姫が眠りにつく前に春夫にこう言った。

「お主が生きている限り、わしがお主を守る。約束したじゃろう。シャシャシャ――」

 すべての責任を、春夫の負の感情を蛇姫は一身に受け止め眠る。いつ目覚めるかはわからない。けれどそう遠くない将来にまた目覚めると春夫達は信じている。

ガタンガタンガタン――

「だぁだぁ!」
「小春、もうすぐ着きまちゅよ」
「え……と次で降りて乗り換えは……と」

 三人は紅葉を眺めながら駅のホームで乗り換えの電車を待つ。

「あなた……懐かしいわね」
「そうだな」

 この会話を何度もしてきた。この日だけでも何度か同じ事を口にした。
 無事に希子の実家に着いた三人は歓迎され、孫の顔を見た神宮寺夫妻はもうそれはそれはデレデレだった。
 希子も久しぶりの実家で安堵の表情を浮かべる。春夫は滞在中、境内の裏の池の掃除をし小さい社に手を合わせた。『どうか小春と蛇姫が元気でいてくれますように』と。

――数日後。

 実家からの帰り際、神宮寺夫妻が一枚の紙を取り出した。そこには小春の名前が書いてあった。
 無事にすくすくと育つようにと願いを込めて書いてくれたそうだ。また近々、帰省すると約束をし春夫と希子と小春は実家を後にする。

 東京の神社に帰宅後、額を買い二人は居間の壁にその紙を飾る。

『命名・神野小春じんのこはる

 それは偶然なのか、はたまた蛇姫が将来を予言していたのか……。

『かみのこはる』の物語はここから始まる――



『かみのこはる物語』第二部 完

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

※本編後にエピローグ、番外編があります。気が向いたら開いて見て下さい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

宝石アモル

緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。 可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。 ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!? 宝石に呪い!? 闇の組織!? 呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?

鳥の詩

恋下うらら
児童書・童話
小学生、名探偵ソラくん、クラスで起こった事件を次々と解決していくお話。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...