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四章・宿命
第三十一話・妖刀と鬼の子
しおりを挟む「さむっ……」
秋の気配がする森の中で春夫は目が覚めた。まだ周囲は薄暗く、夏と秋の合間を感じながら体を起こす。
床でくっつき合い眠る皆を起こさぬ様に静かに古神社から抜け出し川へと続く道を歩き出す。
川で顔を洗い、伸びをすると山間から一筋の日差しが春夫の顔にかかる。
「はぁぁ、今日もいい天気だ。しかし……屋根欲しいなぁ」
そんな春夫と希子は、先日のお礼にと百鶴にお呼ばれをしていた――
――朝日も登り、希子の雲海で百鶴の屋敷へと向かう。
「おはようございます、神野です」
「いらっしゃいませ、どうぞお上がり下さい。御主人様がお待ちです」
玄関では女中さんがお出迎えをしてくれ、長い廊下を歩いて客間へと向う。手入れされた日本庭園があり、池には鯉も泳いでいる。
「こちらです。少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
客間で女中さんがお茶を入れてくれ、しばらく百鶴を待つ二人。
「何だか緊張するわね……」
「あぁ、久しくこういう場に来てないからな」
「ふふ、そうね。いつもモノノ怪と一緒だものね」
襖を明ける音がして百鶴が客間へと入ってくる。
「お待たせしました。今日は良くお越し下さいました」
「百鶴さん、お招きありがとうございます。しかし立派なお屋敷ですね」
「はい……この屋敷は亡き夫の屋敷でして――」
百鶴の話では、この一帯の土地は元々亡くなった旦那の遺産だったという。亡くなる数年前にこの屋敷の存在を知ったのだそうだ。しかし旦那が亡くなってからはあまりに身の周りの整理が忙しく最近まで忘れていたと。
「私達には子供がおりません。そこでこの土地を相続し守ってくれる方を探しておりました」
「そういう事でしたか。しかし簡単には『わかりました』とは言えないです。すいません」
「ちょっとはるくん!」
「希子さん、良いのです。先日お話した条件を聞いて頂けませんか」
「そう言えば条件があると言われてましたね……」
「はい――」
百鶴の条件は三つあった。
一つ目は、この屋敷で働く数名の者達を引き続き雇用して欲しい事。
二つ目は、古神社の再興。
「そして、三つ目ですが……あれを」
「はっ」
黒スーツの男が奥の部屋から木箱を持ち出す。
カタン……
百鶴は大事そうにその木箱を開けた。
「こちらは、旦那様の形見にして古来より伝わる妖刀で御座います」
木箱に鬼の紋様、見慣れぬ文字。
「この刀は……富と名声をもたらしてくれるありがたい刀なのですが……」
そう百鶴が言おうとすると、急に襖が揺れ出す。
カタカタカタ……!!
「ん、何だ?」
春夫が立ち上がり襖を開けると、庭に人間より大きな蜘蛛がこっちを見ている。
「モノノ怪か!!」
「はるくん!?」
パタン――
百鶴が木箱を閉めるとモノノ怪の姿も見えなくなる。
「消えた……」
「春夫殿はやはりモノノ怪のたぐいが見えるのですな……」
「えぇ……今のはいったい?」
「この刀は『妖刀村正』と言います。自我を持ち、モノノ怪、幽霊といった見えない者を呼んでしまうのです」
「それが三つ目の条件だと……」
「はい。この刀が世に出ぬよう守って欲しいのです」
三つの条件は春夫に取って決して難しいものでは無かった。その日は百鶴と昼食を共にし色々と話をし、数日間の猶予をもらいその日はお開きとなった。
帰って早々、春夫と希子は蛇姫達と相談をする。
「良いではないのか。何も難しい事ではない。刀も持ち出さなければ良いのであろう?」
「あぁ、しかし昼間に見た大きな蜘蛛……おたたり様を思い出したよ……」
「オニィタン……ソノ、カタナ……」
「ん?ヤタロウ君。刀がどうしたんだ?」
「モシカシテ……オニガカイテナカッタ」
「そう言えば……文字は読めなかったが木箱に鬼の絵が書いてあったな」
「ヤッパリ!!」
「何か知っているのか?」
「ボクモ、オカアサン二キイタダケ……」
「ヤタロウ君、お母さんは何て言ってたの?」
「オトウサンノカタミ……ッテ」
「はるくん……あの刀はヤタロウ君のお父さんの」
「そうみたいだな。明日、もう一度屋敷に行ってみよう」
翌日、春夫と希子は鬼の子を連れて再度、百鶴を訪ねた。
「刀がこの男の子の父親の形見?」
「はい、そうみたいです。ヤタロウ君」
「ウン……」
百鶴は木箱を開け、刀を鬼の子に渡した。すると、刀からモヤが立ち込め辺りが暗くなる。同時に昨日見た蜘蛛が庭に現れる。
「モノノ怪……ヤタロウ君、気を付けろ」
「ウン……デモ、コノコハワルイキナイ」
『オニノコ……アナタハモシカシテ……』
「蜘蛛がしゃべった……」
「春夫殿、何が起こっているのですか?」
何も見えない百鶴に希子が身振り手振り説明する。その蜘蛛は妖刀に宿る精霊だと言う。そして近々異世界への扉が開く場所まで連れて行って欲しいと。
「――百聞さん、この蜘蛛が言うには異世界の扉がもうすぐ開くと。そして元の世界に帰りたいとの事です」
「そうですか……私には詳しい事はわかりません。あなた達に全てお任せします」
「ヤタロウ君。異世界の扉ってもしかして……」
「……ウン。ボクノイタ、セカイカモシレナイ」
「わかった。連れて行こう」
「ウン……」
数日後。
春夫達は蜘蛛に教えてもらった場所を特定し、希望高校の裏山に来ていた。蜘蛛の話ではこの山の大岩に昔は社があったそうだ。
「この大岩で間違い無さそうだな」
「そうみたいね」
「後はござる次第だな」
「うっ……」
場所を特定する際に大学の文献を漁った。その時に希子が気付いたのだ。
『裏山の神社で五色の光を見た。金黒青赤緑だったと思う。その光は一点に集まり――その後、彼達の姿を見ていない――』
「はるくん、これって!?」
「あぁ……纏だな」
現在、四つの纏はある。あと一つ纏があれば文献の通りになる。可能性があるとすれば妖猿だったのだ。
「ここよ、この大岩だわ」
大岩の裏に大きな空洞が地下ヘと伸びていた。五人は鬼の子を囲うように並ぶ。
「それじゃ行くわよ!……神纏!!」
「ヤタロウ君、成功を祈る……闇纏!」
「ヤタロウにゃ、また遊びにくるにゃ!猫纏!」
「ヤタロウ君、お元気で!!狐纏!!」
「ヤタロウ殿……頑張るでござるよ」
「ウン……ミンナアリガトウ!!」
「はぁぁぁぁぁ……猿纏!!」
妖猿の体が発光し、緑色の円が出来る。
「出来たでござるよ!」
「よし、準備は出来た。ヤタロウ君」
「ウン……サヨウナラ!!」
金黒青赤緑の光は一点に集まり、鬼の子の体を包み込む。同時に大岩の穴から一筋の光が伸びた。
キュィィィィィン!!
光は大事そうに刀を持つ鬼の子を吸い込む様に現れ、そして静かに消えていく。
「消えた……無事に行けたのだろうか」
「たぶん……」
「世の中不思議がいっぱいだにゃ……」
「ヤタロウ君お元気で……」
「オナラじゃなく、猿纏が出たでござる……誰か褒めて欲しいでござるよ……」
後日、春夫達は百鶴に妖刀の行方を報告に行き、その後相続を決意する事になる。
屋敷は旅館として使用することにし、神社の再興に資金を充てた。
そして『かみのこはる神社』の建設が始まった。
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