かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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四章・宿命

第三十話・思いがけぬ出来事

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 樹海の森でおたたり様を倒し、桜の里で三日ほど休養を取り古神社へ皆で戻って来た。帰りは希子の新技『雲海』に乗りピクニック気分だった。

――が、現実が待っていた。

「おい……神社はどうした……」
「はるくん、落ち着いて。これには深いような深くないような事情があって――」
「御主人タマ!!おかえりあそバセェェ!」

 古神社の床部分しかない所で途方に暮れていた星野瀬が迎えに来る。

「おい……神社が床しか見えないのだが……」
「はるくん、落ち着いて。陽子さんとくるみを怒らないであげて!」
「え……のこにゃ……そのフリはまずいにゃ……」
「希子さん、今、殺意を感じましたわ……」

春夫は二人の方を見やる。

「二人共そこに座れ……」
「ヒィィィィ!!」

その後、春夫は説教を始める。

「だいたい二人はいつもふざけるからこういう――」
「あのぉ……もし……」
「今、ちょっと取り込んでいるんだ。後にしてもらえないか」
「は、はぁ……でも……地面に向かって話をされとるみたいでしたもんで……」
「ん?ばぁさん……人間か?」
「へ、へぇ……人間以外に何がおりましょうや……?」

 不思議そうに春夫と地面を交互に見る老婆。妖狐よ幼猫が正座する姿は見えていない。

「あぁ……すまない、どうされました?」
(今のうちに逃げるにゃ!)
(そうですわね!)
「はい、実は――」
「ちょ!こら!まだ終わってないぞ!」
「へっ!?」
「い、いや……こっちの話だ。続けてくれ」
「は、はぁ……いやね、こちらに春夫さんという方が、もしおられたらと思いまして」
「あ……俺が春夫です。神野春夫と言います」
「あっ!あなた様が!春夫様、その節は母が大変お世話になりました!」
「母……?すいませんがどちら様でしょうか」
「申し遅れました。私、百鶴ひづると申します。母親の鶴に変わりお礼をと思いまして――」
「鶴……鶴……?どこかで……」
「はるくん!もしかして!千鶴ちゃんのお母さんの事!?」
「あぁ、そう言えば千鶴の母親も、鶴さんだった……」
「千鶴!?お姉ちゃんを知っているのですか!!」

 この人は百鶴さんと言い、産まれてすぐに親戚に引き取られたという。百鶴さんには姉がいた事は聞いていた。名前は千鶴。双子だったそうだ。

「実は先日枕元に母親が出てきまして……顔も覚えていないのですが。春夫さんという方に救われたと。もし会う事があればくれぐれもお礼を――と。うぅ……」

 その老婆は涙ながらに話始めた。戦時中に産まれた双子は親戚のうちに預けられた。そこで被災し生き別れたという。百鶴が二十歳になった頃に亡くなった伯父からそんな話を聞いたそうだ。

「失礼ですが、今おいくつでいらっしゃいますか?」
「へぇ……今年で八十になりました」
「八十歳!?……千鶴の言ってた事は本当だったのか……」
「お婆さん……千鶴ちゃんはですね、幼子の姿でした。つまり……その……幼い頃にはもう……」
「そうだったんですね……いえ、わかっていました。いくら探しても見つからなかったんです……そんな気はしてました……」

空を見上げ、手を合わせる老婆。

「お墓……ではないですが、川向こうに二人の思い出のペンダントを埋葬してあります。行かれますか?」
「はい、お願いしますだ……」

 老婆の手を希子が引き、古神社より大回りした所にある橋を渡り対岸へと着く。塔婆だけのお墓に老婆は手を合わせ涙を流す。

「お母さん、お姉ちゃん……ようやく会えたね……」

老婆の背中を希子が優しくさする。

「春夫さん、希子さん、本当にありがとう」

そう言うと老婆はペンダントを取り出す。

「そのペンダントは!」
「えぇ、産まれた時に母親からもらったものだそうです。これも一緒に埋めて置いて頂けませんか」
「そのくらいの事で良ければ……しかし大事な物では?」
「私も見ての通り、歳を取りました。もう長くはないと思っております。亡くなった後、二人に会えるようにとここに埋めさせてください……」
「百鶴さんがそれでいいのなら……」
「ありがとう……」

 その日、百鶴さんは何度もお礼を言い帰路に着いた。春夫も希子も何だか心安らぐ一時を過ごせた。
 が、古神社に帰ると床しかない現実が待っていた。

「夜空が……綺麗だな」
「そうね……はるくん……」
「風邪ひくぞぇ」
「寝るにゃ、寝て忘れるにゃ……」
「キャンプみたいでたまにはいいですわね」
「ご先祖サマ……私はどうしたら良いのでショウカ……」
「綺麗な星でござる……」
「オカアサン……」
「……」
「……」
「……狭い。だいたいここが狭いのは――」
「やばいにゃ!春夫が思い出したにゃ!」
「春夫殿!落ち着いてくださいまし!」

――翌日。

 皆で破壊された神社の後片付けに追われていると、昨日の老婆がやってくる。

「あれ?百鶴さん、今日はどうされましたか?」
「おはようございます。昨日は確認をしに来た流れで色々とお世話になりました」
「はるくん!百鶴さんが来られたわよ!」
「あれ?どうされました?忘れ物ですか?」
「はい、忘れ物と言えば忘れ物ですかね……これ」
「はっ!」

 老婆の後ろに黒のスーツを来た男性が立っていた。その男性は神社の床におもむろに地図を広げる……。

「百鶴さん、この地図は?」
「春夫殿、希子殿。この地図のこの部分がここの古神社ですじゃ。川向こうは地主さんの土地なのじゃが、川のこちらからこの山までは私の土地なのですじゃ」
「はぁ……」
「ひろっ……東京ドーム十個は入るわね……」
「この土地とここにある屋敷と財産、そなたが全て相続してもらえんかの」
「ん?俺が?」
「あぁ、条件はいくつかあるがの。どうじゃ?」
「いやいやいやいや、さすがに昨日の今日で何も知らないのにいきなり相続と言われましても!」
「嫌なのじゃな……そうか……そうか……」
「是非お願いします」
「希子さんは話が早くて良いの。女は度胸が座ってなくてはならん。気に入ったぞよ」
「ちょ!のこ!いきなり――」
「はるくんは黙ってなさい」
「ふふふ、良いの。さっそくじゃが明日、この屋敷まで来てくれぬか。そこで条件を話しよう」
「わかりました。お伺い致します」

 こうして、春夫と希子は老婆の屋敷に案内されるのであった。
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