かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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四章・宿命

第二十六話・春夫とハルオ

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 桜の里に着いた三人。春夫と蛇姫とおたまは消えた里の人達の足取りを探す事にした。
 村の入口には赤い布が春風になびき、ゆらゆらと揺れている。

「おたまちゃん、皆がいなくなったのはいつ頃だ?」
「……えぇと……ひぃふぅみぃ……五日前?」
「五日前か……もし幽閉されているのなら空腹で倒れかねないな……」
「おたまよ、その前後で川が濁ったり、叫び声を聞いたりそういう事は無かったのかぇ?」
「……特に変わった事はなくて……遊んで帰ってきたらもう誰もいなかった」
「数十人もの村人が一度に消えるか……中には手練れもいた。天狗の仕業……なのだろうか?」
「うむ……村の中はえらく片付いておるの。誰ぞ、家事の途中でも良さそうなものなのにのぉ」
「そう言えばそうか。戸締まりはされてるし、洗濯物もない。以前来た時は生活感があった気がする」
「うぅ……皆……どこへ行ったの……」
「おたまよ、泣くでない。皆きっと無事――おろろ?」

キュン――

「え?ノア?」
「蛇姫様……?」

話をしている最中に蛇姫の姿がいきなり消える。

「おい……嘘だろ?ノアまで神隠しとか冗談にならないぞ!」
「蛇姫様!!どこぉ!!」
「ノアァァァ!!どこに行った!!」

 返事はない。桜の花が咲き、春風がそよぐ。しかし村人の声はせず返って不気味な雰囲気を出している。
 春夫とおたまは蛇姫を探すがどこにも見当たらない。

「この村で何が起きてるんだ……」
「春夫さん……どうしよう……私……」
「大丈夫だ。俺が付いてる」
「私……春夫さんと二人だと……話が続かない気がする……」
「やかましい」
「……」
「……」
「……ほら、続かない……うぅ……」
「あ……えぇと……努力はする……」

 しばらく無言で村を見て回ったが、どの家も変わらず戸締まりがされている。

「なぁ、おたまちゃん。皆、天狗にさらわれたんじゃなく、どこかへ出かけてるとか……そんな話は聞いてないのか?」
「そんなはずないもん!私を置いていくなんて!おっとうがそんな事するはず……!?……ない……こともない……」
「え?」
「そう言えば何度か家に帰ったらいなかった事ある……」
「それ……怪しくないか……」
「うん……」

腕組みをし、しばらく考え込む二人。

「とりあえず、周囲を見てくるから家で待てるか?」
「うん……」

 おたまを家に送り届け里の周囲を見て回る春夫。しかしまだ、目の前で消えた蛇姫の事もあり神隠しの可能性も残っている。
 警戒しながら里の周囲を見て回ったが特に異変がなく、里の外も調べに出る。

 陽が落ちかけ、木々の隙間から夕日が差し込む。春夫は肌で感じた。森がなぜかざわつく感じがする。
 桜の里を出てしばらく歩く。以前、天狗に襲われた付近だろうか。

「闇纏……」

 春夫の周りに黒いモヤがかかる。嫌な感じがした。どこかで経験したような重い空気が森を支配している。それを察し『闇纏』を発動し警戒する。

ピチャ……ピチャ……ピチャ……

 森の奥から何者かが歩いてくる。以前見た天狗の姿ではない。黒い何かが春夫の方へと近付いてくる。

ピチャ……ピチャ……ピチャ……

 陽は落ち、辺りは薄暗くなり夜が迫ってきている。春夫の心臓がいつもより早く動き出す。

ドクン……ドクン……ドクンドクン……

 あと百メートル足らずだろうか。明らかに動きがおかしいソレを春夫は敵と見なす。

『ノウマクサンマンダバサラダセンダンマカロシャダ ソハタヤウンタラタカンマン――闇不動召喚!』

ボォッ!

 春夫の背中から真っ黒な炎が立ち上がる。手には黒い炎に包まれた倶利迦羅剣が生成される。

「さぁ……お前は何者だ……」

 残り五十メートル。徐々に相手の形がハッキリと見えてきた。人間のような姿に無数の手。青い目に口がふたつ……。モノノ怪の中でも特に警戒すべきであろうソレは笑っているように見えた。

「まさか……!おたたり様か!……くっ、どうする……!」

 春夫が戦うか逃げるか考えている間にもソレは徐々に近付き、もう十メートル程の距離にまで迫っていた。

ピチャ……ピチャ……ピチャ……スッ――

と、目の前で突如おたたり様が姿を消した!

「どこだ!?」

 視界からいなくなったおたたり様を探すが見当たらない。静寂が訪れた森に自身の心臓の音が聞こえてくる。

ドクンドクンドクンドクンドクン!!

 風も吹いていない。草木の揺れる葉音もしない。それが返って緊張を高めていく。


「え?」

 ソレは突如春夫の足元に現れ、両足を掴み持ち上げる!!

「ぐっ!!」

 剣を構える間もなく逆さ吊りの状態になる春夫!

「シンデシンデシンデシンデシンデシンデ……」

 いくつもの魂のような顔が春夫の周りにまとわり付く。

「くっ!!」

春夫は逆さ吊りのまま剣を振り降ろす!!

『不動剣!!』

ザシュウゥゥゥ!!

 春夫の振り降ろした剣はおたたり様の顔をかすめ、腕を切り裂く!!

「ギャァァァァァ!!!」

いくつもの悲鳴が森に響く。

「痛っ!!」

 地面に落とされた春夫は這いつくばり、起き上がろとする。が、しかし!足をまた掴まれおたたり様の元へと引きずられる!!

「オニィチャン……ボクノ……カラダヲカエシテ……」
「え?」

 春夫は耳を疑った。おたたり様の中から声らしきものがし、それは『オニィチャン』と確かに聞こえた。

「オニィチャン……?くっ!お前は誰だ!」
「ボクハ……ハルオ……」
「え……?」

 春夫はそこで血の気が引いた。集中力が切れた春夫の体から闇纏も闇不動も消えていく。

ズルズル……

 恐ろしさのあまり……春夫は失禁する。無数の顔、手、口が目の前でうごめく。

「ボクノ……カラダヲ……カエシテ……!!」
「や、やめろぉぉぉぉ!!」

 首元に冷たい手が何本も触れ、春夫は死を覚悟する。口の中には手が突っ込まれ、体中を噛まれている感触がする。

「ウッウッウッウッ!?」

死ぬ――

春夫の頭の中は痛みと恐怖で埋め尽くされる。

その時だった!!

妖猿一服さるのこしかけ!!』

キィィィィィン!!!

「ギャァァァァァァァ!!!」

春夫を包んでいたおたたり様が後退りする!

「ゲホゲホ!!」
「大丈夫でござるか!春夫殿!」
「ゲホゲホ……ハァハァ……ござる……?」
「カナデでござるよ!間に合って良かったでござる!」

森の奥から歌が聞こえてくる。

『どんどこどん どんどこどん
 鬼が眠ったら 起これ起これ
 鬼が起きたら 眠りれ眠りれ――
 どんどこどん どんどこどん』

「あれは……ヤタロウ君……か?」
『グガァァァァァ!!!』

一人の鬼がおたたり様を放り投げる!!

「オニイタン!ダイジョウブ!?」
「ヤタロウ君……カナデ……。ありがとう、助かった」
「とんでもないでござる!詳しい話は後にしてあのモノノ怪を退治するでござるよ!」
「あぁ……」

カナデに手を借り、起き上がる春夫。

「考えるのは後にした……退治してくれる!!」

 おたたり様との戦闘がいっそう激しくなっていく。辺りはすでに真っ暗になり、月明かりだけが森を照らしていた。
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