26 / 40
四章・宿命
第二十五話・闇不動
しおりを挟む「ここは……どこだ?」
「気が付いたか。我を呼びし人間よ」
「あなたは……誰?」
「我は『闇不動』……名は無い」
「俺は春夫……そうか、確か千鶴を逃がして……モノノ怪に襲われて……」
「我がお主の体に入った時にはすでに意識が無かったのじゃな?お主の闇の力に惹かれ参ったのにまさか人間だとは思わなんだ」
「闇纏で召喚されたのか……闇不動……呼びにくいな」
「我は、かつて大陸のシヴァ神が――」
「闇不動……ヤミちゃん、くらやみちゃん、やみふちゃん、いみふちゃん……いい名前が思いつかん」
「うぬは我の話を聞いておらぬな」
「あぁ、すまない。で、俺はどうしたらこの呪いから解かれるんだ?」
「たわけ。呪いではないわ。我の力を使うには闇纏を発動すれば呼べるじゃろう。闇纏は本来、召喚をする媒体みたいなモノじゃからな」
「え?闇纏をしたら他にも召喚できると言うことなのか?しかもただで!」
「闇纏には契約が必要じゃがな。そもそも闇纏を発動すること自体、お主の――」
「よしっ!強いモノノ怪をゲットだぜ!」
「お主……聞いておらぬな……」
「それで?ヤミドンは何が出来るんだ?」
「ヤミドン……はやめてくれ……」
―――
――
―
三日三晩眠っていた春夫は闇不動と会話を続けていたそうだ。そして千鶴の母親を救う為に使った力が『闇不動』のそれだった。
「……なるほどの。それで合点がいったわい。となると聖域だと思うておった神纏にも、召喚できる能力があるのかもしれんの。どれ、希子。やってみるが良い」
「はい、蛇姫様……」
『神纏!!』
希子の体が光輝く。
「うむ。ここまでの使用方法は聞き及んでおるが、ここからどうするのじゃ?」
「うぅん……何かイメージしてみますね……えぇと……」
希子は眉間にシワを寄せ考え込む。
すると――
「おろろ?」
急に蛇姫が光の聖域の中心である希子の体に吸い寄せられる!!
ぴと。
「出来た!召喚!蛇姫様!!」
「……おい、ふざけておるのか?」
「すいませんすいません!……でも急に言われても思いつかないもん……そんな言い方しなくても……」
「蛇姫様がのこを泣かしたにゃ……」
「希子さんわかります。そのお気持ち……うぅ」
「貴様ら食ろうてやろうか!シャァァ!」
「あれぇぇぇ!」
「はははっ!」
「はるくん笑ってないで何とかしなさい!」
「へ?痛い!痛い!噛むな!ノア!!」
その時は色々試してみるが結局何も現れなかったと思っていた。
しかし現れなかったのではなく、もう現れていたのだ。まだ誰も気付いてはいない。
蛇姫そのものを召喚したのが、当時幼かった……まだ何も知らない頃の希子だった事に……。
――数日後。
「はるくん、許可下りたみたいよ」
「あぁ、ありがとう。のこ……見せてくれ」
家庭裁判所に申請をしていた書類に許可が下りた。『寺井』と義父の名字を名乗っていた春夫だったが母方の『千家』を名字にするか実父の『神宮寺』を名字にするか悩んだあげく別名を申請した。
『神野春夫』。母の再婚相手の名前だ。
「はるくん、これで良かったの?」
「あぁ。これならもう誰にもわからないだろ」
「そうだけど……少し寂しい気もする」
「はは……俺もだ。けど、気持ちは楽になったよ」
「そうだね……あの事件は全国でも流れてたしね……」
「あぁ……」
母の進めもあって名字を変更した。再婚相手の名字でも旧姓でも良いと言われ、最後は春夫が自分の意思で選んだ。
「結婚式とかするの?」
「いや、入籍しただけらしい。相手の事は良く知らないけど母さんが決めた事だから反対はしないよ」
「そっか……」
「さて、書類にサインするからまた送っといてくれるか?」
「うん、わかった」
サインを書いていると星野瀬が呼びにくる。
「御主人様、入口にお客様がお見えデス」
「ん?お客様?わかった。これを書いたら行くよ」
「ハァイ」
春夫は数枚書類にサインをし希子に預けた。そして玄関へと向かう。
「お待たせ。どちらさ――あれ?君は……おたまちゃん?」
玄関で座って待っていたのは、桜の里の少女だった。
「はい……」
肩を落とし座る少女は、ただ事ではない雰囲気を出していた。
「どうしたんだ?何かあったのか」
「はい……おっとうが……」
「おっとう……よろずやのおじさんか?」
「はい……いなくなってしまって……」
「おいおい、桜の里にはカナデもヤタロウもいる。何かあれば――」
「みんな……いなくなった……ぐす……」
「え?どういう事だ?」
春夫は蛇姫達も呼び、おたまから事情を聞いた。
「天狗が現れたのか……」
「そうみたいじゃの。天狗が噛んでいるとなるとやっかいじゃの」
「天狗……一度、樹海の森で殺されかけた……あいつらが……」
「うむ。推測でしかないがの。以前の天狗と言い、今回の件と言い、黒幕がおるのやもしれんの……」
「ノア、心当たりがあるのか?」
「……あると言えばあるが、無いと言えば無い」
「そうか。聞いたところで目の前の事を片付けないとわからないか……」
「そうじゃの。どれ、樹海に行くかの」
――春夫と蛇姫はおたまを連れて樹海の森へと向かう。韋駄天の靴を使い、あっと言う間に樹海の入口へとやってきた三人。希子達は『かみのこはる探偵事務所』の相談と留守番をして待っている事になった。
「さてと……歩くか」
「春夫さん……こっち……」
「こっち?」
遊歩道を外れて獣道を指差すおたま。おたまに着いて行くと入口のはずれから獣道が森へと続いている。
「ここ……カナデお姉ちゃんが作ってくれた道。人間には見えない細工がしてある」
「へぇ……こんな場所に道が……」
「うん。最短で桜の里に着く」
三人は獣道を歩き始める。遊歩道で桜の里に向かうと半日以上かかる。しかしこの獣道は……。
「へ?もう着いた?十分位しか歩いてないぞ」
「樹海の遊歩道は目の錯覚で、まっすぐ進ませておいて左に少しづつ曲がってるのです。同じ風景に見えて気付かないでしょうけど……」
「あ……なるほど。大回りして入口近くまで戻ってたのか」
「はい……おばかさん……」
「おたまちゃん、何か言ったか?」
「いいえ……」
「そう言えばあの入口に戻された幻覚は何だったんだ?」
「……はぁ」
「おたまちゃん、ため息ついた?」
「いいえ……あれは単純に麻酔銃です」
「麻酔銃!?」
「はい……春夫さんを眠らせてこの最短の道を使い、村のおじさん達が春夫さんを担いで入口に捨てただけです」
「……そうなんだ。妖術とかじゃなく、力技なのね……」
「はい……おばかさん……」
「おたまちゃん、今――」
「着きました。行きますよ」
「あ、あぁ……」
こうして三人は桜の里に到着した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
宝石アモル
緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。
可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。
ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!?
宝石に呪い!?
闇の組織!?
呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる