かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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四章・宿命

第二十五話・闇不動

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「ここは……どこだ?」
「気が付いたか。我を呼びし人間よ」
「あなたは……誰?」
「我は『闇不動』……名は無い」
「俺は春夫……そうか、確か千鶴を逃がして……モノノ怪に襲われて……」
「我がお主の体に入った時にはすでに意識が無かったのじゃな?お主の闇の力に惹かれ参ったのにまさか人間だとは思わなんだ」
闇纏やみまといで召喚されたのか……闇不動……呼びにくいな」
「我は、かつて大陸のシヴァ神が――」
「闇不動……ヤミちゃん、くらやみちゃん、やみふちゃん、いみふちゃん……いい名前が思いつかん」
「うぬは我の話を聞いておらぬな」
「あぁ、すまない。で、俺はどうしたらこの呪いから解かれるんだ?」
「たわけ。呪いではないわ。我の力を使うには闇纏を発動すれば呼べるじゃろう。闇纏は本来、召喚をする媒体みたいなモノじゃからな」
「え?闇纏をしたら他にも召喚できると言うことなのか?しかもただで!」
「闇纏には契約が必要じゃがな。そもそも闇纏を発動すること自体、お主の――」
「よしっ!強いモノノ怪をゲットだぜ!」
「お主……聞いておらぬな……」
「それで?ヤミドンは何が出来るんだ?」
「ヤミドン……はやめてくれ……」

―――
――


 三日三晩眠っていた春夫は闇不動と会話を続けていたそうだ。そして千鶴の母親を救う為に使った力が『闇不動』のそれだった。

「……なるほどの。それで合点がいったわい。となると聖域だと思うておった神纏にも、召喚できる能力があるのかもしれんの。どれ、希子。やってみるが良い」
「はい、蛇姫様……」
『神纏!!』

希子の体が光輝く。

「うむ。ここまでの使用方法は聞き及んでおるが、ここからどうするのじゃ?」
「うぅん……何かイメージしてみますね……えぇと……」

希子は眉間にシワを寄せ考え込む。
すると――

「おろろ?」

 急に蛇姫が光の聖域の中心である希子の体に吸い寄せられる!!

ぴと。

「出来た!召喚!蛇姫様!!」
「……おい、ふざけておるのか?」
「すいませんすいません!……でも急に言われても思いつかないもん……そんな言い方しなくても……」
「蛇姫様がのこを泣かしたにゃ……」
「希子さんわかります。そのお気持ち……うぅ」
「貴様ら食ろうてやろうか!シャァァ!」
「あれぇぇぇ!」
「はははっ!」
「はるくん笑ってないで何とかしなさい!」
「へ?痛い!痛い!噛むな!ノア!!」

 その時は色々試してみるが結局何も現れなかったと思っていた。
 しかし現れなかったのではなく、もう現れていたのだ。まだ誰も気付いてはいない。
 蛇姫そのものを召喚したのが、当時幼かった……まだ何も知らない頃の希子だった事に……。

――数日後。

「はるくん、許可下りたみたいよ」
「あぁ、ありがとう。のこ……見せてくれ」

 家庭裁判所に申請をしていた書類に許可が下りた。『寺井』と義父の名字を名乗っていた春夫だったが母方の『千家』を名字にするか実父の『神宮寺』を名字にするか悩んだあげく別名を申請した。
 『神野じんの春夫』。母の再婚相手の名前だ。

「はるくん、これで良かったの?」
「あぁ。これならもう誰にもわからないだろ」
「そうだけど……少し寂しい気もする」
「はは……俺もだ。けど、気持ちは楽になったよ」
「そうだね……あの事件は全国でも流れてたしね……」
「あぁ……」

 母の進めもあって名字を変更した。再婚相手の名字でも旧姓でも良いと言われ、最後は春夫が自分の意思で選んだ。

「結婚式とかするの?」
「いや、入籍しただけらしい。相手の事は良く知らないけど母さんが決めた事だから反対はしないよ」
「そっか……」
「さて、書類にサインするからまた送っといてくれるか?」
「うん、わかった」

サインを書いていると星野瀬が呼びにくる。

「御主人様、入口にお客様がお見えデス」
「ん?お客様?わかった。これを書いたら行くよ」
「ハァイ」

 春夫は数枚書類にサインをし希子に預けた。そして玄関へと向かう。

「お待たせ。どちらさ――あれ?君は……おたまちゃん?」

玄関で座って待っていたのは、桜の里の少女だった。

「はい……」

 肩を落とし座る少女は、ただ事ではない雰囲気を出していた。

「どうしたんだ?何かあったのか」
「はい……おっとうが……」
「おっとう……よろずやのおじさんか?」
「はい……いなくなってしまって……」
「おいおい、桜の里にはカナデもヤタロウもいる。何かあれば――」
「みんな……いなくなった……ぐす……」
「え?どういう事だ?」

春夫は蛇姫達も呼び、おたまから事情を聞いた。

「天狗が現れたのか……」
「そうみたいじゃの。天狗が噛んでいるとなるとやっかいじゃの」
「天狗……一度、樹海の森で殺されかけた……あいつらが……」
「うむ。推測でしかないがの。以前の天狗と言い、今回の件と言い、黒幕がおるのやもしれんの……」
「ノア、心当たりがあるのか?」
「……あると言えばあるが、無いと言えば無い」
「そうか。聞いたところで目の前の事を片付けないとわからないか……」
「そうじゃの。どれ、樹海に行くかの」

 ――春夫と蛇姫はおたまを連れて樹海の森へと向かう。韋駄天の靴を使い、あっと言う間に樹海の入口へとやってきた三人。希子達は『かみのこはる探偵事務所』の相談と留守番をして待っている事になった。

「さてと……歩くか」
「春夫さん……こっち……」
「こっち?」

 遊歩道を外れて獣道を指差すおたま。おたまに着いて行くと入口のはずれから獣道が森へと続いている。

「ここ……カナデお姉ちゃんが作ってくれた道。人間には見えない細工がしてある」
「へぇ……こんな場所に道が……」
「うん。最短で桜の里に着く」

 三人は獣道を歩き始める。遊歩道で桜の里に向かうと半日以上かかる。しかしこの獣道は……。

「へ?もう着いた?十分位しか歩いてないぞ」
「樹海の遊歩道は目の錯覚で、まっすぐ進ませておいて左に少しづつ曲がってるのです。同じ風景に見えて気付かないでしょうけど……」
「あ……なるほど。大回りして入口近くまで戻ってたのか」
「はい……おばかさん……」
「おたまちゃん、何か言ったか?」
「いいえ……」
「そう言えばあの入口に戻された幻覚は何だったんだ?」
「……はぁ」
「おたまちゃん、ため息ついた?」
「いいえ……あれは単純に麻酔銃です」
「麻酔銃!?」
「はい……春夫さんを眠らせてこの最短の道を使い、村のおじさん達が春夫さんを担いで入口に捨てただけです」
「……そうなんだ。妖術とかじゃなく、力技なのね……」
「はい……おばかさん……」
「おたまちゃん、今――」
「着きました。行きますよ」
「あ、あぁ……」

こうして三人は桜の里に到着した。
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