かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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三章・裏参道のモノノ怪

第二十三話・闇纏

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「起きて下さい!陽子さん!くるみさん!!お願い!!」
「もう……食べれないにゃぁぁ……むにゃ……」
「いやですわ!あれぇ!そんなぁぁ!!……むにゃ……」
「もう!!二人共!!起きて下さぁぁぁい!!」

 千鶴は蛇姫と春夫の助けで古神社へと戻ることができ、寝ている妖狐と幼猫に起こしに来た。

「どうしたのですか……ふぁ……まだ夜ですわよ……」
「むにゃ……眠いにゃ……」
「蛇姫様と春夫さんが大変なんで――」

 まだ問答の途中だった。しかし千鶴の必死な形相を理解した妖狐と幼猫は立ち上がり場所を聞く。

「千鶴さん!案内して下さい!」
「行くにゃ!!」
「はいっ!!」

 ――古神社から森を抜け、川を越えた対岸で春夫は危機的状況を迎えていた。

 河童に殺されそうになった所を蛇姫に助けられ一息つこうとした所で、裏参道を徘徊中のモノノ怪達に襲われる。春夫は恐怖心から封じれていた闇の力が徐々に開放される……。
 夜の暗闇よりさらに暗い闇が春夫の周りに現れる。闇からは無数の手が伸び、春夫に巻き付いていく。

「く……るしい……」
「えぇい!春夫よ!恐怖心を抱くでない!!お主はもう克服したのじゃ!しっかりせい!」

 蛇姫は春夫を助けに向かうが、蛇姫にもモノノ怪達が襲いかかる。さらに土手の上に上がろうとするが地面がぬかるみ足を取られる。

「くそぉっ!!こんな所で春夫を逝かしてなるものか!!」

 蛇姫は恐ろしい形相で目の前のモノノ怪を食い荒らす。しかし、春夫は無数の手の中へと見えなくなっていく!!

「えぇい!邪魔じゃ!どけぃ!!」

――その時、対岸から声が聞こえた!

狐火蓮華翔レンゲショウ!!』

パチンッ!

「ギャワァァァァ!!」

 蛇姫の周りにいたモノノ怪達が青い炎に焼かれる!

「妖狐か!!うぬら遅いぞ!さっさと春夫を助けぇい!!」
「はい!蛇姫様!」
「はいにゃ!!」

 妖狐と幼猫は川を飛び越え、春夫の元へと辿り着く。

猫騙狂言曲ねこだまし!!』

 幼猫の手から無数の猫が飛び出し春夫の周りの無数の手を食いちぎる!

「春夫!!しっかりするにゃ!!もう!なんにゃ!このモノノ怪等は!!邪魔にゃ!!」
「モノノ怪は私がお相手致しますわ!くるみは春夫さんを!」

狐火蓮華翔レンゲショウ……爆炎!!』

ズドォォォン!!

 轟音と砂煙がモノノ怪を包み込む。数十体のモノノ怪が地面に這いつくばり、奇声を上げ野垂れ死ぬ……。それでも倒れたモノノ怪を踏み、後から後から妖狐達をめがけて群がってくる。

狐火蓮華翔レンゲショウ……爆炎!!』

ズドォォォン!!

 連続で妖狐は特大妖術をぶっ放す。目の前にはいくつものモノノ怪の死体が積み上がっていく。

「ハァハァ!くるみ!!まだですか!」
「もう少しにゃ!!春夫の顔は見えたにゃ!!」

 闇から伸びる手を妖術で食いちぎり、引っ張り出そうとする幼猫。春夫の意識はすでに無い。

「顔は見えたのにゃ……だけどここからどうしたら良いのにゃ……!!シャアァァァ!!」

と、川を渡って来る者の姿が見える。

「はるくんっ!!」

 希子が千鶴に話を聞き駆けつけたのだ。対岸には千鶴の姿も見える。

「はるくんっ!!ハァハァ……今、行くからね!!」

ザバァァァァ……

 びしゃびしゃになりながらも希子は川を渡りきり春夫の元へと土手を登る。
 蛇姫と妖狐がモノノ怪を食い止めてる間に、希子は何とか春夫の元へと辿り着く事が出来た。

「のこにゃ!!春夫の意識が戻らないのにゃ!」
「ハァハァ!!くるみ!ハァハァ……はるくん今、助けてあげる……ハァハァ……すぅ……」

『神纏!!!』

キランッ!!

 希子の周囲に光り輝く円が広がり、春夫の体から闇が徐々に消えていく。

「くるみ!!今のうちよ!!はるくんを向こう岸まで運ぶわ!」
「分かったにゃ!!にゃぁ達!担げ!!」

 幼猫の号令と共に数百匹の猫が春夫を担ぎ、川を渡り始める。

「蛇姫様!陽子さん!はるくんは大丈夫よ!早く二人も向こう岸へ!!」
「うむ!!希子よ、良くやった!妖狐よ!逃げるぞ」
「分かりましたわっ!蛇姫様!!」

狐火蓮華翔レンゲショウ……爆炎!!』

ズドォォォン!!

 妖狐の放つ妖術でモノノ怪の死体が積み重なり、壁となる。蛇姫も妖狐もその隙に川を渡る。対岸に渡ると、モノノ怪達は追っては来なかった。川に入るのを躊躇しているように見えた。

「春夫は!!」

蛇姫が春夫に駆け寄る。

「蛇姫様!体は大丈夫そうだけど、目を覚ましません!はるくん……!!」

蛇姫が春夫の顔を覗き込む。

「これは!?」
「どうかしたのかにゃ?」
「……もしや闇纏やみまといか」
「蛇姫様?闇纏とは?」
「うむ。希子の神纏とは反対側に属する精霊術じゃ」
「闇纏……春夫さんは助かるのですか?」
「おそらくは大丈夫じゃが……古神社へ連れ帰るぞ」
「くるみ、お願い」
「任せるにゃ!皆の衆!運ぶにゃ!!」

 幼猫の号令で春夫は古神社へと移動していく。その姿を対岸から見つめるモノノ怪。結界を張ったロープのそばで千鶴と星野瀬も心配そうに見つめていた。

 日が登り朝日が顔を出す。モノノ怪の姿はもう見えない。千鶴が結界の近くで見張りをしていたが、古神社へと帰って来た。

「あっ、千鶴ちゃん。おかエリ」
「おかえり、千鶴ちゃん」
「レイさん、希子さん、ただいま。春夫さんは?」

 二人は首を横に振る。春夫は眠ったまま目を覚まさない。肉体と精神が分離していた頃の事を希子は思い出していた。

「あの時は蛇姫様が体内にいて……命が繋がっていたけど……」

 希子は春夫の服を脱がせ、泥まみれの体を拭き始める。と、希子が何かに気付いた。

「蛇姫様!!これ!!」
「ん……なんじゃ?」

 春夫の後ろ首から背中にかけ、黒い炎の様な模様が浮かび上がっている。

「これは……不動明王の模様……じゃが、炎が赤ではなくどす黒いとは……」

蛇姫は腕組みをし、考え込む。

「不動明王?陽子さん、不動明王て?」
「えぇ、希子さん。古来より悪鬼から身を守ってくれるという神様よ。このお陰で春夫さんは助かったのかもしれないわね」
「うぅむ……あの闇纏の力で春夫の中に眠る神が呼び起こされたのか……?初めての事でわしにもわからぬ」
「そっか……蛇姫様でもわからないんじゃ、はるくんが目覚めてから聞くしかないわね……」

希子はそう言うと、春夫の体をまた拭き始める。

「のこにゃ……そこは念入りに綺麗にしないと駄目だにゃ……」
「ん?何の事?……きゃっ!!」
「粗末なモノを見せるでない。目が汚れる。シャァァ」
「すいません!すいません!」

 手早く拭き、希子は春夫に服を着せる。この後、三日三晩、春夫は熱が出て寝込むことになった。

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