かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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三章・裏参道のモノノ怪

第二十話・裏参道のモノノ怪

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 『かみのこはる探偵事務所』のプレートが光る古びた神社が東京郊外の山の中にある。
 そこはかつて希子の父親の神宮寺道彦の知り合いが、お祭りごとを行い管理をしていたそうだ。当時はこういった世話人が何人もいた。
 そのうちの一人が星野瀬家。代々、神社の世話人を行って来た家系だった。
 しかし時と共に、訪れる人は減り今では忘れてさられた廃神社となっていた。
 神社を死ぬまで守っていた星野瀬零は、そこで地縛霊となり春夫達に出会う。出会ってから数日後のこと……。

「御主人タマ、お茶が召されましタァ!」
「おい、ノア。この人形は失敗ではな――」
「断じて違う!!この者こそ!メイドの中のメイド!零ちゃんじゃ!シャシャシャ!」
「御主人タマ!レイちゃんダゾ!キラァン!」
「あぁ……うるせぇ……お前なぁ、だいたい地縛霊の時と全然キャラが違うじゃないか」

 この者が星野瀬零。星野瀬家の末裔なのだが、亡くなった後に地縛霊となりこの神社に住みついている。

「人形のカラダになったら、がおかしいのゲスヨ」
滑舌かつぜつな」
「それナ」
「ともあれじゃ、レイよ。この一帯に魔除けの護符を貼ってくるのじゃ。さすればお主も少しは歩き回れるじゃろうて」
「はッ!師匠!」
「あっ、レイちゃんどこかお出かけ?私も着いていこうかしら」
「のこサン!一緒にいきマショウ!」

 神社を中心に直径五百メートルほどの円を描く。そこにロープを通していき、護符を貼り付ける。

「いい?レイちゃんはここから出ると死んじゃうかもしれないから出ては駄目よ?」
「ハイ!のこサン!」
「よろしい。それでは次行ってみよう!」

二人は手際良く作業を進めていく。

「春夫よ」
「ん?なんだい、ノア」

春夫は神社の修理をしながら蛇姫の話を聞く。

「この世界には表参道と裏参道という道がある」
「何だよ、急に」
「良いから聞くのじゃ……」

 蛇姫の話によると、神社には表参道と裏参道と言うものがあるそうだ。
 神が通る道を表参道、一方……

「……死人が通る道を裏参道と呼ぶ」
「死人……それはモノノ怪達のことなのか」
「いかにも。モノノ怪、幽霊、魑魅魍魎……この世の者ではない者が通る道。それが裏参道じゃ」
「へぇ……さすがにそれは大学では習わなかったな」
「しかしの。それは一つの神社の話ではないのじゃ」
「どういう事?」
「お主の実家はどこじゃ?」
「京都の……」
「そうじゃ。母方の実家は『千家』であろう?」
「あぁ、京都の古い神社だ」
「そこが日本の中心……千家神社なのじゃよ」
「話が見えない」

 蛇姫の話によると、日本のすべての神社の中心に春夫の実家『千家』があると言う。
 それが意味するのは、日本の表参道と裏参道の交わる場所。そこが春夫の実家だそうだ。

「あぁ、そういう事か。一つ一つの神社ではなく、日本全体で見た時には実家が真ん中になるのか」
「左様。そしてそこで性を受けるものは、産まれながらにして神の力そしてモノノ怪の力を宿すのじゃ」
「でも母さんはそんな力を持ってなかったような……」
「男子じゃよ。決まってそれは男子に色濃く現れる。そしてこの時代の白羽の矢はお主に刺さったのじゃ」
「俺に……?確かに普通では考えられない人生を送ってはきたが……」
「そうじゃ。丑三つ時……おおよそ深夜二時。昨夜もいたが、この神社の北側にも裏参道は続いておった。自分の目で確かめて見るが良い。お主のなすべき事が見えるはずじゃ」
「俺がなすべきこと……」

そうこうしていると、希子と星野瀬が帰って来る。

「おぉい!終ったよぉ!これで悪い者は入って来れないわね!」
「実に数十年ぶりに境内の周りを歩けまシタ!師匠!ありがとうございメス!」
「うむ。ご苦労じゃった。わしは夜に備えて一眠りするかのぉ……ふぁ……」
「あぁ、休んでてくれ。今夜確かめてみる」

――深夜、丑三つ時。

カサカサカサ……

 春夫達は神社の裏まで来ていた。昼間に希子と星野瀬が張り巡らせたロープがある。

「お主ら、そのロープからは決して出るなよ」
「あぁ……分かった」

 春夫、希子、星野瀬の三人は静かにうなずく。妖狐と幼猫は翌日もバイトがあるため先に神社で休んでいる。

――十分後。

 森の切れ目、川向こうにうっすら明かりらしき物が見える。

「はるくん、何かくる!」
「しっ!静かに!」
「ごクリ……」

シャンシャンシャン……

鈴の音のような音が聞こえ、何かが獣道を歩いて来る。

『観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空――』

「般若心経……?よね」
「あぁ……先頭の坊さんが唱えているのか……」
「ごクリ……」
「出て来るぞよ」

 蛇姫がそう言うと、坊主の後ろを歩いていた魑魅魍魎が見え隠れする。雲で隠れていた月がわずかに顔を出した時にそれははっきりと見えた。

「化け物……」
「あれが本来のモノノ怪じゃ」
「!?」

 数百のモノノ怪が坊主に従うように、列をなして着いていく。獣のようなモノノ怪、人間のようなモノノ怪など、それは死んだであろうその時と同じ姿形をしていた。ただ違うのは皆同等に皮膚はなく、腐った肉体を引きずるように歩いている。

「成仏もできず、埋葬もしてもらえず、あの様な姿になっても動き続ける……あれが本来のモノノ怪の姿じゃ。裏参道とはあれらが通る道の事ぞ」
「あの坊さんも、もう死んでるのか……」
「はるくん……あのお坊さんは頭が腐ってる……わ……」
「こワイ、こワイ……」
「成仏出来るまで永遠に歩き続けるのじゃろう。日が昇れば消え、また夜が来れば歩きだす。とうに意識も無く自分が何者かも忘れておるのじゃろう……」

 しばらくすると、モノノ怪達は去っていく。どこから来てどこへ行くのか。
 モノノ怪達が通った道に、光る何かが落ちている事に希子が気付く。
 誰かのペンダントだった。中には幼子の写真が入れてある。希子達は道端にペンダントを埋め、手を合わせる。

どうか、成仏出来ますように。

と。
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