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三章・裏参道のモノノ怪
第十九話・星野瀬零
しおりを挟む春夫と希子は、父親の神宮寺道彦の紹介により東京郊外の古神社で『かみのこはる探偵事務所』のプレートを掲げる。
御神体の須勢理毘売命様がいなくなり、廃墟と化したこの神社を守っていた地縛霊、星野瀬零の話を聞きながら掃除を始める春夫と希子。
「あれは私がまだ幼い頃。この辺りには村がありまして……」
「のこ!ほうきあったぞ!とりあえずこれを使おう」
「うん!はるくん、これ動かせる?」
「うわぁ……しっかしきちゃないのぉ……いっそ更地にしてしまおうか」
「ノア、駄目だぞ。こういう建物は大切にしないと」
「その頃はこの辺りも裏参道と呼ばれ行き交う……」
「そうよ、蛇姫様。掃除したら住めますよ!」
「そうじゃのぉ……でものぉ……」
「あのぉ……聞いてます?」
誰も地縛霊の話を聞かなかった。『はぁ』と、地縛霊がため息をついた所に森の方から声が聞こえてくる。
「――ちょっと待つのにゃ、こっちで合ってるのかにゃ?」
「おかしいですわねぇ……私も歩き疲れましたわ。地主さんにこの近くの神社は誰も住んでいないと聞いて……」
「騙されたのではないかにゃ?」
「そんなはずは……おや?あの金のプレートは見覚えが……?」
『かみのこはる探偵事務所』
「にゃぁぁぁ!春夫達にゃ!おぉい!!」
「あら!奇遇ですわね!」
森の方から、妖狐と幼猫が走ってくる。
「え?何で?あれ、陽子さんとくるみ?はるくん!はるくん!」
「ん?のこ、どうした?モノノ怪でも見たような顔をして――」
「あれ!!見て!」
「え?陽子さんにくるみ?ノア、あれ」
「およ?ハレンチ狐にブサカワ猫ではないか」
「誰がハレンチ狐ですか!はっ!蛇姫様!」
「ブサカワじゃにゃぁぁ!はっ!蛇姫様!」
「うむ。くるしゅうない。面をあげい」
『ははぁぁぁぁ!!』
蛇姫に土下座する妖狐と幼猫は旅の資金が尽き、ねぐらになる場所を探していたそうだ。近くの村の地主さんに古神社がある事を聞いて来たのだ。
「ただ、この古神社には幽霊が出るらしく村の者も近付かないと聞いて来ましたわ」
「幽霊はちょっと苦手にゃ……あいつらそっと出てくるタイプにゃ。タチが悪いにゃ」
「すいません」
「あなたの事じゃないにゃ。幽霊はもっとこう、半透明でネガティブで……にゃ?」
「はい、おっしゃる通りです……しくしく」
「はにゃ?……で、でたにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫する幼猫。身構える妖狐。それをなだめる春夫。皆が集まり嬉しそうな希子。どうでも良い感じの蛇姫。
「ちょっと二人共、落ち着け。この地縛霊に害はない。ちょっと馴れ馴れしいだけだ」
「で、で、で、でも春夫にゃ!幽霊にゃ!」
「零と言います。ふつつか者ですが末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。妖狐です。よろしくお願いします」
「ハレンチ狐!!にゃにお仲良くなろうとしてるのかにゃ!幽霊なのにゃ!!成仏させるにゃぁぁぁ!」
――その日の夜。
「真っ暗じゃな……」
「ロウソク一本しか無いとは……のこ、大丈夫か?」
「うん。はるくん、キャンプみたいでいいじゃない」
「怖いにゃぁ……」
「風流と思えば素敵ですわ」
「私は平気です」
「……」
「……」
その日は月も顔を出さず、雲に覆われた森は真っ暗だった。時折、獣の鳴き声がする。
「なぁ、今、六人いなかったか?」
「ちょっと!はるくん脅かさないでよ!むぅ!」
「冗談でもやめて欲しいにゃ……」
「確かに声が聞こえた気がするわ」
「うむ。わしにも聞こえた」
「えぇ!やめてください。怖いじゃないですか!」
「……」
「……」
「お前かにゃぁぁ!!何で地縛霊が上がって来てるのにゃぁ!!」
「ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!」
「落ち着け!くるみ!」
皆で幼猫をなだめ、地縛霊をくるみから引き離す。
「なぜじゃ?『かみのこはる』のプレートには邪気を寄せ付けぬ効能がある。この地縛霊には効かぬのかぇ」
「蛇姫様、この地縛霊さんが良い子なのでは?」
「星野瀬です」
「なぁ、ノア。この地縛霊は俺みたいに実体化出来ないのか?」
「あのぉ、星野瀬と言います……しくしく」
「うむ……出来ぬ事はないが……」
「しなくていいにゃ!幽霊は幽霊にゃ!悪霊退散なのにゃ!」
「くるみ、待ちなさい。それは横暴というものですよ。そもそも横暴とは……」
「しくしく……」
「春夫よ、お主の闇の力を使う。地縛霊に両手をかざすが良い」
「こうか?」
「うむ。わしがお主の体を経由して地縛霊に肉体を与えよう」
そう言うと、蛇姫は春夫の背中に手を当てる。
『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ!!』
ドンッ!!
春夫の背中から熱いものが流れ込み、全身を巡り、手の平から押し出される。それは吐き気のするような、血管の中を何かうごめく様な気持ちの悪いものだった。
「オェェェェ!!ノア!た、たんま……気持ち悪い……!」
「耐えよ、お主の体で肉体を生成中じゃ!」
「オエェェェ!!」
「アッアッアッアッ!!」
春夫の悲痛な叫びと星野瀬の奇怪な叫びが交差した。ロウソクの火が一気に強くなり、ボッという音と共に消えた。辺りは真っ暗になり静かになる。
「え!どうなったの!マッチマッチ……」
希子がロウソクにもう一度、火を点す。
シュシュ……ボッ……。
ロウソクに火が点り、周りがまた明るくなる。
「どうなったんだ……?」
「春夫よ、成功じゃ。見てみよ。お主の体より生成された人形じゃ」
「人形……?ん?柔らかい。人間ぽい柔らかさがある……」
「私ハ……星野瀬零。御主人様二忠誠ヲ……忠誠ヲ……キャァァァ!!」
よく見ると、春夫は星野瀬の胸を揉んでいる。
しかも両手で!!!!!
「はるくぅぅん!!その手を離しなさいっ!!」
「ちょ!のこ!誤解だって!そもそもこいつは人形であって……」
「いやァァァ!もうお嫁に行けまセン!!」
「春夫はスケベにゃ」
「スケベ侍ですわ……」
「きも」
「ちょっと待て!ノア!今しかめっ面で『きも』て言っただろ!!そもそも手を前に出せって――」
「きもも」
「うぉぉ!!待てぃ!」
「きももにゃ」
「きもも春夫さんですわ」
「はるくん!いつまで触ってるの!!『神纏』っっ!!」
「いやァァァ!体が溶けルゥゥ!!」
「のこ!!やめぇい!星野瀬さんが溶ける!!」
こうして、地縛霊の星野瀬零は無事に体を手に入れたのであった。
めでたしめでたし。
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