かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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三章・裏参道のモノノ怪

第十八話・兄妹

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 春夫と希子は実家の白蛇神社から歩いて、町外れの防波堤にいた。波の音と、潮風が二人の間を抜けていく。
 太陽が海に反射し、小魚達が足元を回遊している。

『ポチャン』

 春夫が小石を海に投げる。海面に波紋ができ小魚が散り散りに逃げていく。

「はるくん。おばさんの言った通りだったね……」
「あぁ……のこのお父さんが俺の父親だったなんてな……今更そんな事を言われてもピンとこないが……」
「うん……そだね……」
「ただ、のこの父親でもあった。そこは母さんの思い違いだったか」
「うん……あぁあ、血の繋がりが無ければはるくんと結婚出来たのかなぁ!」

 ぐっと腕を広げ、背伸びをする希子。春夫は防波堤に座ったまま海面を見つめ、時々小石を海に投げる。

『ポチャン』

「あれ?俺、のこに付き合ってとか言ってない気がする」
「あれ?私も言われた記憶がない。……ぷっ!あはは!」

 お腹を抱えて笑う希子。その姿に春夫もつられて笑う。

「おっかしいの!私、付き合ってもないのに結婚とか言っちゃってる!あはは……」
「のこ……結婚しよう」
「もう……はるくん……兄妹なんだから無理だよ……」
「いいや、そうでもないさ。書類上の話なんだ。今すぐは無理だけど、俺たちの居場所はここじゃない」
「……いいの?はるくんは、ようやく自分の体に戻れたんだよ。普通に暮らしていけば、おじいちゃんになるまで生きれると思うよ」
「良いんだ。俺の居場所はモノノ怪の世界なんだ」
「そっか。そういう生き方もあるか。うん……分かった。着いていく。私も……もう一度あの世界へ」
「ありがとう、のこ。ノアの目的が終わるまでやってみるか。なぁ、ノア?」
「蛇姫様?あれ……寝てる……」

 春夫の背中を椅子代わりに寄りかかり、ウトウトしている蛇姫。

「もう少し寝かせてあげよう、蛇姫様も疲れているのよ」
「そうだな……」

希子も春夫の横に座り、肩に寄りかかる。

「不思議ね……モノノ怪がいたり、鬼がいたり、この世界は本当に不思議」
「おたたり様とかな……そう言えばあの化け物がまだ生きてるって言ってたな」
「うん……陽子さんが魑魅魍魎の中に姿を見たって……」
「にゃぁぁ……」
「ん?くるみ?いや、ただの猫か」
「かわいい!どこから来たの?お名前は?」
「にゃん太」
「にゃん太ちゃん!かわいいお名前!」
「おい……のこ……今、この猫……」
「人間は『にゃん太』て呼ぶけど、女の子にゃ」
「そっか、それは失礼よね?『おにゃん子』ちゃんよね」
「にゃん太でいいにゃ。もう慣れたにゃ」
「変な猫さんねぇ。ほんと、しゃべってるみたいに聞こえる」
「のこ……その猫……しゃべってる……」
「え?もうはるくん、何言ってるの!あはは!猫はしゃべらないわよ!あはは!」
「あははにゃ!」
「あはは……はっ?猫がしゃべくった!?」
「いや……気付くの遅くないか……」

 猫は春夫達と気さくにおしゃべりを始める。近くのお寺で飼われているらしい。くるみのしゃべる姿を見慣れていたせいか、二人と猫はすぐに打ち解けた。

「そう言えばにゃ。秋になると、この辺りは彼岸花が咲くにゃ」
「それがどうしたの?」
「彼岸花……それはあの世とこの世を繋ぐ花なのにゃ」
「へぇ……そうなんだ」
「にゃ。特に青い彼岸花というのがあってにゃ。会いたい人に会えると言われているにゃ」
「会いたい人に会える……か」
「覚えておくといいにゃ」
「にゃん太、ありがとう」
「どういたしましてなのにゃ」

 しばらくにゃん太と話していたが、防波堤に釣り人がやって来たのと同時ににゃん太はそそくさといなくなった。
 春夫は蛇姫を背負い、希子の歩く後ろを神社へと向かう。

「にゃん太のお陰で何だか気が紛れたな」
「そうだね……不思議な猫だったわ。また会えるかな」
「あぁ、会えるさ。この町にもいつかまた戻ってこよう」
「そうね……」

 春夫の人生に着いていくと決めた希子は、実家の神社を継げない事を父親に話をした。
 しばらく考えこんでいた父親だったが『今は好きな事を頑張りなさい』という言葉で少し肩の荷が降りた気がした。
 数日後、春夫と希子は両親にお礼を言い旅立つ。行き先は東京……の郊外。そこは木々に囲まれうっすら陽が差す神社だった。

「希子、まだ歩くのか?」
「もう着いたわよ。ここが霊験あらたかな……」
「廃墟じゃねぇか」
「むぅ!はるくん!お父さんが教えてくれた神社なのに!むぅむぅむぅ!」
「怒り方が独特だな……まぁ、いいや。ノア、着いたぞ」

ノアは春夫の背負うリュックから顔を出す。

「ふぁぁ……長旅ご苦労じゃった。うむ……」

廃神社を見て蛇姫が首をかしげる。

「ノア、どうした?知ってる神社なのか」
「これはまた……おんぼろじゃな」
「むぅ!蛇姫様まで!」
「冗談じゃ、なかなかどうして。ホシノセレイが住んでおるわい」
「星の精霊?蛇姫様!何だかファンタジーみたい!」
「うむ。これを見よ」

蛇姫が指差す先にはボロボロの表札が見える。

『星野瀬・零』

「なぁんだ、ファンタジーじゃないのかぁ」
「人んちじゃねぇか」
「春夫よ、良く見てみよ」

 蛇姫が指差す先にはユラユラ揺れる人影が見える。その人影が口を開く。

「こんにちは。良いお天気ですね」
「そうですね、あなたが星野瀬さんですか?」
「はい。先祖代々この地を守らせて頂いてます」
「そうなんですか、へぇ……」

しばらく沈黙の後、春夫が口を開く。

「地縛霊じゃねぇか」
「わしが知るか。成仏させてくれる……」
「ちょ!ちょっと待ってください!」

 蛇姫が地場霊を成仏させようと印を結ぼうとしたところ、地縛霊が止めに入る。

「そのぉ、失礼ですがどちら様ですか。いきなり成仏させるとか、初対面でそれはひどくないですか」
「それもそうですね。神宮寺希子と言います。こちらが寺井春夫、こっちが蛇姫様です。では成仏して下さい。神纏……」
「ちょ!ちょっと!待ってぇぇぇ!」

 希子の体が金色に光出すと、地縛霊の影が薄くなった。

「え?まだ何か言いたい事があるのですか?」
「はぁはぁはぁ……死ぬかと思った……」
「いや、もう死んでるぞ?」
「例えですよ!例え!」
「のこ、もう良いぞ。何かこいつ生意気……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 地縛霊の名はれいと言い、この古神社の御守をしてきた一族だった。神宮寺家とも親縁だそうだ。

「ただ、この神社におられた須勢理毘売命スセリヒメ様がおられなくなってからは錆びゆく一方でして……いつの日かスセリヒメ様が戻られるのをこうして待っておるのです」

 地縛霊が肩を震わせ泣いている。というよりも揺れている。

「それで父さんはこの神社を紹介してくれたのね。御神体様がおられないから」
「うむ。ちょうど良いのではないか。家賃もかからなそうじゃしの。シャシャシャ!」
「じゃぁここで始めるか」
「へ?何をされるのですか?」

 何も聞かされぬまま地縛霊の住処の古神社には『かみのこはる探偵事務所』のプレートが飾られた。

「え?」
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