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三章・裏参道のモノノ怪
第十七話・始まりの鶴
しおりを挟む寺井春夫は小学生の時交通事故に遭い、寝たきりの生活となった。命に別状は無かったものの意識はなく、約十年もの間、島根にある専門の病院で入院していた。
春夫が二十二歳になる三月。春夫は目覚めた。同級生の神宮寺希子がたまたま居合わせ、手を握っていたと言う。
退院の日を迎え、知らせを受けた春夫の母親が京都から駆けつけてくれた。
母親も今まで色々あり、自身が入退院を繰り返し京都の実家で暮らしている。
時々、春夫の入院していた島根の病院まで様子を見に来てはいたがこれといって何をするわけでもなく、春夫の顔を見ては帰って行く。頭元に必ず鶴の折り紙を置いて……。
「母さん、色々迷惑をかけた。もう大丈夫だから」
「春夫、母さんがもっとしっかり働けたら苦労をかけなかったのに……すまなかったねぇ……」
病院の近くの喫茶店で久しぶりの親子水入らずだった。
「母さん、いつか電話で話してた事覚えてる?」
「そうね……覚えてるわ。ちゃんと話さなきゃね……」
「あぁ……教えて欲しいんだ」
春夫の母親がゆっくりと話し始める。
春夫の母親は若い頃、島根の大学を卒業し実家の京都には戻らずそのまま就職をしていた。血筋からなのか、神社関係の仕事を転々とした。
その頃に白蛇神社の神宮寺道彦と出会う。それからお互い気の合う友達として仲良くなった。
数年後、お互いが別の人と結ばれるまでは良い関係だったと言う。
「だけどね。母さんが結婚した相手はね。結婚してしばらくしてから仕事を辞めて、その後は仕事もせず、毎日お酒を飲んでいた。そんな時、道彦さんと再会したの……」
珈琲を一口飲み、母親は続ける。
「一度きりの過ちをおかしたのよ。それがあなたとあなたの兄の双子だった」
義理の父親は、母親に暴力をふるい産まれてきた子供達にまで手を上げるようになった。
「あの人と離婚をね……しようと思ってたあの日、神宮寺さんに相談に行った時だったわ。あの人が怒鳴りこんで来て、子供を……あなたの兄を……うぅ……」
まだ一歳にもなってなかった兄を母親と神宮寺道彦の目の前で……。
それ以上は母親は声にならなかった。その後、警察が来て男は取り押さえられ刑務所へと入ったそうだ。
兄は打ちどころが悪く、間もなく亡くなったそうだ。もし兄と春夫の立ち位置が違えば今頃は春夫がいなかったのかもしれない。
「だから、俺を憎んで殺そうと……」
「たぶんね……全部母さんのせいよ。春夫。ごめんなさい……うぅ……」
春夫の兄は春彦と言った。お金が無くおもちゃも買ってあげられず、母親が折り紙で折った『鶴』が大好きだったそうだ。
「そうなんだ……母さん、もうひとつ聞きたい事あるんだ」
「……希子ちゃんの事でしょう?」
「あぁ……」
「あなたの妹……異母兄妹……になるでしょうね」
「じゃぁ、結婚は……」
「普通は出来ないでしょうね。ただね、春夫……」
「?」
「希子ちゃんの母親の連れ子で、道彦さん……が義理の父親だとしたら話しは違うわ」
「そうなると、希子も本当の父親は別にいるのか……」
「えぇ……確かめてはないけどね。お酒の席でそんな噂を耳にした事があるわ……」
「だとしたら、俺は希子と……」
「母さんは賛成よ。法的な事は詳しくないけれど、誰よりも春夫の事を大切にしてるのはのの希子ちゃんだもの。それにね……」
「それに?」
「春夫の入院していたこの十年。神宮寺さん……道彦さんが境内での事故扱いで保険を使ってくれてたみたいなのよ。母さんの稼ぎでは春夫をずっと入院させてあげれる事は出来なかったもの」
「そうなんだ……おじさんが……」
春夫の母親は、紙ナプキンで器用に鶴を折り珈琲カップの横に添えた。
「これから希子ちゃんの所へ行くのでしょう?母さんの事は大丈夫だから、全部終わったら二人で京都へいらっしゃい。それと今度は春夫が希子ちゃんを守ってあげる番よ」
「うん……分かった。ありがとう、母さん」
春夫は母親を駅まで見送り、希子が待つ白蛇神社へとバスに乗り込む。
バスに揺られながら、母親の言ってた言葉を頭で整理する。海岸線を走るバスの窓からは海と船が見えてくるが、春夫の目には希子の顔が浮かんでいた。
一時間ほどでバスは白蛇神社へ到着した。以前来た時は、モノノ怪の皆と一緒で賑やかだったが、今回は一人静かに境内に向かう。
本殿に参拝し、境内裏の池へと向かう。
「ここから……始まったんだな」
春夫は池の横にある小さな社に手を合わせ、母親が作ってくれた一羽の鶴を置いた。
サァァァァァ――
春風が吹き、さざ波の立つ湖面を見つめる。
「落ち着いたかぇ?」
「うわっ!?」
池の湖面に人の顔が映る。ただ良く見かける顔だった。
「ノア……びっくりするじゃないか……」
「シャシャシャ!」
「あれ……?」
春夫はここで初めて気付く。
「あれ……ノアが普通に見える……当たり前ではないよな?」
「そうじゃの。お主が肉体に戻る際に、ほんのすこ~しだけいじったからのぉ……」
「おい」
「へけけ?」
「おぉい!はるくぅん!!」
「あぁ、のこ」
「来てたのね、おばさんは無事に帰ったの?」
「あぁ、一通り話は出来たよ」
「そう、良かった。あっ、ちょっと待って……」
そう言うと希子は眼鏡を取り出した。
「これが無いと、蛇姫様が見えないものね。あっ見えた。見えた。蛇姫様お帰りなさい」
「おぅ、希子。帰ったぞぃ」
「お帰りなさい、ご飯の準備出来てるから来て下さい。お父さんとお母さんは会合で遅くなるみたいだから」
「のこ……ちょうど良かった。おじさん達がいない間に話しておかないといけない事があるんだ」
「なぁにはるくん?」
「実は……」
春夫は、母親から聞いた話をかいつまみながら話をする。希子はひとつずつ整理をしながら話を聞いていく。
ご飯を食べ、一息ついてもまだ話足りず春夫と希子の質疑応答は遅くまで続いた。
深夜、希子の両親が帰ってくる頃には二人共に疲れて眠ってしまっていた。翌日、希子の父親に話をする二人の姿があった。
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