かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

文字の大きさ
上 下
17 / 40
二章・かみのこはる怪探偵事務所

第十六話・卒業

しおりを挟む

 春風吹く、3月――

「――以上を持ちまして第八十八期卒業証書授与式を終了致します。一同、礼」

 あれから二年が経ち、春夫と希子は夢希望大学の卒業式を迎える。
 思えば自宅のお風呂場が壊れてから、毎月支払いに怯える日々だった。
 式場になっているホールでは卒業式を終え、各々、解散していく。希子も友達との別れをおしみ写真を撮るため正門へと向かう。

 ――春夫は残されたホールの椅子に座ったまま、学生生活の四年間に思いを馳せていた。

「寂しいのか」
「ノア……いや、俺も幽体でなければ卒業式もちゃんと出来たのかな……て」
「なんじゃ、寂しいのではないか。お主の本体も順調に回復してるそうじゃの。そろそろ戻ってみるか」
「肉体に戻れるのか?」
「あぁ、多少の違和感はあるじゃろうがな。出来ない事は無い」
「そっか。この幽体は幽体で便利だったんだけどな」
「どっちなんじゃ。面倒くさいやつじゃのぉ」
「はは、そう言うなよ。十年近くこの幽体生活なんだ。少しは寂しくもなるさ」

 ホールにはすでに誰もおらず、春夫と蛇姫の会話だけが響く。

「さて、そろそろ俺達も戻ろうか。やることはたくさんあるしな」
「そうじゃの。その前に一つやることがあるのじゃがな、あやつら遅いのぉ」
「ん?どうした、ノア――」

その時、ホールの入口が開き誰かが入ってくる。

「あっ!いたにゃ!」
「フフ、もう来られていたのですね」
「ようやく出番でござるか」
「……オニイタン」
「ん?くるみに陽子さん、カナデにヤタロウ君まで。皆揃ってどうしたんだ?」
「春夫よ、こやつらはお主の保護者じゃ。シャシャシャ」
「ノア、どういうこ――」

 その時、壇上に上がる足音とマイクのノイズが聞こえる。

カツンカツンカツン……
ピィィィ――

「あ……あ……テステス。それではこれより、第八十八回夢希望大学の卒業式を執り行います。名前を呼ばれた方は壇上へお上がりください」
「え?のこ?何をしてるんだ」

壇上には希子の姿が見える。

「四年神道学科、寺井春夫っ!」
「は、はい!」

急に希子に呼ばれ、つい返事をして立ち上がる。

「のこ、ちょっとどういう――」
「早く行くにゃ!!」
「くるみ、押すな押すな」

幼猫に背中を押され壇上に上がる春夫。

カツンカツンカツン……

『寺井春夫。あなたは四年間神道学科を学び、全課程を修了したことを証す』

 春夫は手が自然と震えた。思えば生まれてこの方、賞状というものを受け取った記憶が無い。左手、右手と差し出し照れくさそうに受け取る春夫。

「はるくん、卒業おめでとう」
「のこ……」

希子の言葉に心が泣きそうになる。

「ありがとう……」
「私こそ、ありがとう。一緒に卒業出来て良かったね」

パチパチパチパチ!!

振り返ると、モノノ怪の皆が拍手をしてくれていた。

「おめでとうにゃ!」
「ご卒業おめでとうですわ」
「おめでとうでござる!」
「オメデト!」
「春夫よ。大儀であった」
「みんな……うっ……うぅ……」
「ちょ!はるくん!泣かないで!えぇ!」
「あら、私も目にゴミが……うぅ」
「陽子までなくにゃ!うちは我慢して……にゃぁ……」
「鬼の目にも涙でござる」
「オニイタンハ、オニナノ?」
「バカチン共じゃの。じゃが、それで良いそれで」

 こうしてモノノ怪達のサプライズ卒業式は無事終わった。

――数日後。

 春夫達は、柳荘を出発し新たな人生を歩むことになる。
 春夫と希子と蛇姫は島根に一旦帰郷することにした。妖狐と幼猫は妖狐の長を探す旅に出る。妖猿と鬼の子は樹海の桜の里に向かう。

「皆の衆、元気で頑張るのじゃぞ。『かみのこはる探偵事務所』再開の時は声をかけるでの」
「みんなありがとう!!お元気で!」
「またなっ!!」

 それぞれが手を振り、それぞれの道を歩き出す。この半年後、誰もいなくなった柳荘は取り壊された。
 大家さんも柳荘が無くなると共に成仏したとかしないとか、そんな話を風の噂で聞いた。

 ――春夫達はその日のうちに『韋駄天の靴』のお蔭で島根の病院へと着く。
 深夜。三〇三号室に、三人の影が月明かりに照らされる。
 『寺井春夫様』そう書かれた病室には、穏やかな顔をして眠る春夫がいた。

「よし。始めるかの。希子よ、神纏かみまといでモノノ怪を近付けるなよ」
「はい、蛇姫様……」

『……神纏!』

希子の体が淡く黄金色に輝く。

「うむ。上出来じゃ。魂の結合時が一番もろいからの。さて、春夫。本体の上にかぶされ」
「……あぁ。こうか?」
「そのまま動くでないぞ」
「……」
「いくぞ」

『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』

 蛇姫の腕が光り、春夫の体を包んでいく。じわじわと体が肉体へと沈み込む。

『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』

さらに蛇姫が唱えると肉体と魂が一つに重なる。

「うぐぐぐ……」

 春夫の苦しそうな声が聞こえ、希子が手を出そうとするが蛇姫が静止した。

「もう少しの辛抱じゃ。気張れ、春夫」
「はるくん……頑張って……」

『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ!!』

 光が一段と強くなり、その光は春夫の体へと吸収されていく。

ドクン――ドクン――ドクン――

「ふぅ……これで終いじゃ。後は春夫次第じゃ」
「はるくん……」

 その夜、春夫は結局目を覚まさず希子は春夫の手を握ったまま眠りについた。

――翌朝。

ちゅんちゅんちゅん……。

 外で小鳥の声がし朝日が部屋に差し込む。希子は、ベッドに寄りかかった体をほぐしながら目覚める。

「いたた……そのまま眠っちゃった」

体を起こした先には……笑顔の春夫がいた。

「のこ、おはよう」
「はる……くん……?本当にはるくん?」
「あぁ、戻ったよ。体にはまだ違和感があるけど、俺だ。ただいま、のこ」
「はるくんっ!!」

 希子は春夫に抱きつきキスをする。生きているのを確認するように何度も何度も。

「やれやれ……お主らわしの目の前で、いちゃいちゃするでないわ」
「あっ……蛇姫様、ごめんなさい」
「ノア、ありがとう。戻れたよ」
「あぁ、礼には及ばん。お主は死ぬまでわしの手足となって働くのじゃからな。シュシュシュ……」
「あぁ『かみのこはる探偵事務所』は再スタートするぞ」
「その意気じゃ。まずは飯を食うて体力作りじゃな」
「私、先生呼んでくるね」

 こうして、春夫は元の体に戻り一週間後、無事に退院する。

――数カ月後。

 とある廃墟の神社で、夜な夜な声が聞こえてくると言う。モノノ怪なのか、心霊なのかはわからない。ただその声は決まって笑い声だったそうな……。

「シャシャシャ!!」




『かみのこはる物語』第一部 完

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

鳥の詩

恋下うらら
児童書・童話
小学生、名探偵ソラくん、クラスで起こった事件を次々と解決していくお話。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

宝石アモル

緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。 可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。 ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!? 宝石に呪い!? 闇の組織!? 呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

処理中です...