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二章・かみのこはる怪探偵事務所
第十六話・卒業
しおりを挟む春風吹く、3月――
「――以上を持ちまして第八十八期卒業証書授与式を終了致します。一同、礼」
あれから二年が経ち、春夫と希子は夢希望大学の卒業式を迎える。
思えば自宅のお風呂場が壊れてから、毎月支払いに怯える日々だった。
式場になっているホールでは卒業式を終え、各々、解散していく。希子も友達との別れをおしみ写真を撮るため正門へと向かう。
――春夫は残されたホールの椅子に座ったまま、学生生活の四年間に思いを馳せていた。
「寂しいのか」
「ノア……いや、俺も幽体でなければ卒業式もちゃんと出来たのかな……て」
「なんじゃ、寂しいのではないか。お主の本体も順調に回復してるそうじゃの。そろそろ戻ってみるか」
「肉体に戻れるのか?」
「あぁ、多少の違和感はあるじゃろうがな。出来ない事は無い」
「そっか。この幽体は幽体で便利だったんだけどな」
「どっちなんじゃ。面倒くさいやつじゃのぉ」
「はは、そう言うなよ。十年近くこの幽体生活なんだ。少しは寂しくもなるさ」
ホールにはすでに誰もおらず、春夫と蛇姫の会話だけが響く。
「さて、そろそろ俺達も戻ろうか。やることはたくさんあるしな」
「そうじゃの。その前に一つやることがあるのじゃがな、あやつら遅いのぉ」
「ん?どうした、ノア――」
その時、ホールの入口が開き誰かが入ってくる。
「あっ!いたにゃ!」
「フフ、もう来られていたのですね」
「ようやく出番でござるか」
「……オニイタン」
「ん?くるみに陽子さん、カナデにヤタロウ君まで。皆揃ってどうしたんだ?」
「春夫よ、こやつらはお主の保護者じゃ。シャシャシャ」
「ノア、どういうこ――」
その時、壇上に上がる足音とマイクのノイズが聞こえる。
カツンカツンカツン……
ピィィィ――
「あ……あ……テステス。それではこれより、第八十八回夢希望大学の卒業式を執り行います。名前を呼ばれた方は壇上へお上がりください」
「え?のこ?何をしてるんだ」
壇上には希子の姿が見える。
「四年神道学科、寺井春夫っ!」
「は、はい!」
急に希子に呼ばれ、つい返事をして立ち上がる。
「のこ、ちょっとどういう――」
「早く行くにゃ!!」
「くるみ、押すな押すな」
幼猫に背中を押され壇上に上がる春夫。
カツンカツンカツン……
『寺井春夫。あなたは四年間神道学科を学び、全課程を修了したことを証す』
春夫は手が自然と震えた。思えば生まれてこの方、賞状というものを受け取った記憶が無い。左手、右手と差し出し照れくさそうに受け取る春夫。
「はるくん、卒業おめでとう」
「のこ……」
希子の言葉に心が泣きそうになる。
「ありがとう……」
「私こそ、ありがとう。一緒に卒業出来て良かったね」
パチパチパチパチ!!
振り返ると、モノノ怪の皆が拍手をしてくれていた。
「おめでとうにゃ!」
「ご卒業おめでとうですわ」
「おめでとうでござる!」
「オメデト!」
「春夫よ。大儀であった」
「みんな……うっ……うぅ……」
「ちょ!はるくん!泣かないで!えぇ!」
「あら、私も目にゴミが……うぅ」
「陽子までなくにゃ!うちは我慢して……にゃぁ……」
「鬼の目にも涙でござる」
「オニイタンハ、オニナノ?」
「バカチン共じゃの。じゃが、それで良いそれで」
こうしてモノノ怪達のサプライズ卒業式は無事終わった。
――数日後。
春夫達は、柳荘を出発し新たな人生を歩むことになる。
春夫と希子と蛇姫は島根に一旦帰郷することにした。妖狐と幼猫は妖狐の長を探す旅に出る。妖猿と鬼の子は樹海の桜の里に向かう。
「皆の衆、元気で頑張るのじゃぞ。『かみのこはる探偵事務所』再開の時は声をかけるでの」
「みんなありがとう!!お元気で!」
「またなっ!!」
それぞれが手を振り、それぞれの道を歩き出す。この半年後、誰もいなくなった柳荘は取り壊された。
大家さんも柳荘が無くなると共に成仏したとかしないとか、そんな話を風の噂で聞いた。
――春夫達はその日のうちに『韋駄天の靴』のお蔭で島根の病院へと着く。
深夜。三〇三号室に、三人の影が月明かりに照らされる。
『寺井春夫様』そう書かれた病室には、穏やかな顔をして眠る春夫がいた。
「よし。始めるかの。希子よ、神纏でモノノ怪を近付けるなよ」
「はい、蛇姫様……」
『……神纏!』
希子の体が淡く黄金色に輝く。
「うむ。上出来じゃ。魂の結合時が一番もろいからの。さて、春夫。本体の上にかぶされ」
「……あぁ。こうか?」
「そのまま動くでないぞ」
「……」
「いくぞ」
『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』
蛇姫の腕が光り、春夫の体を包んでいく。じわじわと体が肉体へと沈み込む。
『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』
さらに蛇姫が唱えると肉体と魂が一つに重なる。
「うぐぐぐ……」
春夫の苦しそうな声が聞こえ、希子が手を出そうとするが蛇姫が静止した。
「もう少しの辛抱じゃ。気張れ、春夫」
「はるくん……頑張って……」
『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ!!』
光が一段と強くなり、その光は春夫の体へと吸収されていく。
ドクン――ドクン――ドクン――
「ふぅ……これで終いじゃ。後は春夫次第じゃ」
「はるくん……」
その夜、春夫は結局目を覚まさず希子は春夫の手を握ったまま眠りについた。
――翌朝。
ちゅんちゅんちゅん……。
外で小鳥の声がし朝日が部屋に差し込む。希子は、ベッドに寄りかかった体をほぐしながら目覚める。
「いたた……そのまま眠っちゃった」
体を起こした先には……笑顔の春夫がいた。
「のこ、おはよう」
「はる……くん……?本当にはるくん?」
「あぁ、戻ったよ。体にはまだ違和感があるけど、俺だ。ただいま、のこ」
「はるくんっ!!」
希子は春夫に抱きつきキスをする。生きているのを確認するように何度も何度も。
「やれやれ……お主らわしの目の前で、いちゃいちゃするでないわ」
「あっ……蛇姫様、ごめんなさい」
「ノア、ありがとう。戻れたよ」
「あぁ、礼には及ばん。お主は死ぬまでわしの手足となって働くのじゃからな。シュシュシュ……」
「あぁ『かみのこはる探偵事務所』は再スタートするぞ」
「その意気じゃ。まずは飯を食うて体力作りじゃな」
「私、先生呼んでくるね」
こうして、春夫は元の体に戻り一週間後、無事に退院する。
――数カ月後。
とある廃墟の神社で、夜な夜な声が聞こえてくると言う。モノノ怪なのか、心霊なのかはわからない。ただその声は決まって笑い声だったそうな……。
「シャシャシャ!!」
『かみのこはる物語』第一部 完
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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