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二章・かみのこはる怪探偵事務所
第十四話・鬼の子
しおりを挟む『かみのこはる探偵事務所』
ここは、蛇姫ノアリスが作ったモノノ怪の為の探偵事務所。今日も朝からお客様が――
「一人も来ない。どういうことじゃ。客がこん」
誰も来なかった。
「ノアリス。あのさ。非常に言いにくいんだが、やっぱり探偵事務所では生活費稼ぐのは無理なのではないか」
「春夫よ。お主はあれか?金だけ手に入ればいいのか?」
「いや、そりゃ困ってる人を助けたり、力になってあげれるのならそれに越した事はないけども……」
「そうじゃろ?ならば耐えるのじゃ。今は我慢の時じゃ。ほれ見てみぃ、希子だってこんなに頑張っておる」
「うみみみみみみ!!こ、こうですか!蛇姫様!」
「うむ、もう少しきばれ。だいぶ神纏が出来るようになったのぉ」
「私もやってみるでござる。出来るかもでござるよ」
妖猿も、希子の真似をして意識を集中させる。
「うみみみみみみ!!」
「うみみでござる!!」
「うみみみみみみ!!」
「ぷぅ……でござる」
「え?今、誰かおならした?」
「うみみでござる!!」
「うみみみみみみ!!」
「気のせいか。しかし、何とかしないと……?」
春夫が窓から下を覗くと、電柱の陰に男の子の姿が見える。
「あの子どうしたんだ……?こっちを見てる?」
「春夫。あの子には絡むでない。鬼の子じゃ」
「鬼!?」
「左様。人間でも、モノノ怪でもない、言わばはぐれ者じゃ」
「このご時世に鬼とは……あっ、誰か話しかけてる」
「愚かな。鬼の子に声をかけるなど、よっぽど命がいらぬと見える……ズズズ……」
「あれは、陽子さんとくるみだな……うん」
「ぶぅぅぅぅ!!」
蛇姫は春夫の顔に向って飲んでいたお茶を吹き出した。
「あつっ!!ノア!!何をするんだ!!きたねぇ……」
「陽子とくるみじゃと!?馬鹿者共が……」
「でも『かみのこはる』のプレートのお蔭で、邪気がある物は部屋に入れないんだろ?」
「あぁ、そうじゃ……それはそうじゃが……ズズズ……」
そうこう言ってると、妖狐と幼猫が帰って来る。
「ただいまなのにゃ!ちょうどそこで陽子と一緒になったにゃ!」
「ただいまですわ。今、下で困ってる幼子がおりまして連れて来たのですが、ノアリス様……ん?」
「ぶぅぅぅぅ!!」
蛇姫は再び、春夫の顔に向ってお茶を吹き出した。男の子は妖狐に手を引かれドアの内側にいる。
「うみみみみ……あらいらっしゃい!ぼくお名前何て言うの?」
「……ヤタロウ」
「ヤタロウ君か。今日はどしたの?一人で来たの?」
「……ウン」
希子が気さくに話しかけ、鬼の子も受け答えをする。
「のこ、その子は……」
「はるくん。鬼の子でもモノノ怪の子でも関係ないわ」
「聞いてたのか」
「うん。この子が鬼だろうがなんだろうが、困ってたら助けてあげないとね。それが『かみのこはる探偵事務所』なんでしょ?」
「うむ……希子の言う通りじゃが、しかし……」
「ノアリス様、この子から邪気は感じませんわ。大丈夫かと思われますよ」
「うみみみみみみ……でござる」
「そうだな。話を聞くだけ聞こうか」
「…アリガト……ウ……」
「さ、ヤタロウ君。上がって上がって」
鬼の子、ヤタロウの話を聞く一同。樹海の森から来たそうだ。年齢は十二歳。小学六年生のなる歳だが、学校には行ってないそうだ。
「鬼の里?そんな所があるのか」
「ハイ……モリデ、チアキオネェチャントカクレンボシテタラ……」
「……そうなんだ。それで森にあった扉の中に隠れたのね?」
「ハイ……」
「ふむ。異世界より迷い込んだのかもしれぬな」
「異世界……まぁ、俺達ものこから見たら別世界のモノノ怪だからな、同じか」
「はるくん、現世も幽世も異世界もみんな繋がってる。て、講義で習ったわ。ヤタロウ君、心配しないで。元の世界に帰れるように協力するわ」
「そうだにゃ。困ってるモノノ怪を助けてあげるのが『かみのこはる』の仕事にゃ!うちもお金に困ってるから貸して欲し……」
「馬鹿猫はほっといて、とりあえず樹海へ一度行った方が良さそうですわね」
「馬鹿猫!?にゃぁぁぁ!」
「痛い!痛い!噛むなですわ!この阿呆猫!!」
「阿呆猫!?シャァァァァァ!!」
「この二人はほっといて、俺とござるでヤタロウ君を連れて樹海に行ってくるよ」
こうして、春夫と妖猿は鬼の子を連れて樹海へと飛んだ。
「春夫さん、その韋駄天の靴は便利でござるな。あっという間に樹海でござる」
「あぁ、よろのおじさんは知らなかったみたいだから内緒な」
「フフ、妖怪でござる」
「妖怪?」
「冗談でござる」
二人は鬼の子の手を引き、樹海の遊歩道を進んでいく。桜の里に行く角を素通りし更に奥まで進んできた。二時間近く歩いただろうか。
「ヤタロウ君、この辺りか?」
「ウン。ミッカクライイタ」
「そうか。カナデ、この辺りを探してみよう」
「わかったでござる」
「ヤタロウ君は俺と一緒に探そう」
「ウン」
三人は周囲を捜索し始める。
「ヤタロウ君は柳荘まで歩いて来たんだよな?どうして場所がわかったんだ?」
「エト。モリカラデテ、ケハイノツヨイノサガシタ」
「気配?」
「ウン。ソシタラ、アノバショニツイタ」
「あぁ……ノアリスの力を感じ取ったのか」
「タブン」
「そうだ。この辺りにそういう気配はないか?もしかしたら何か手がかりになるかもしれない」
「ウン。サッキカラ、ズットウシロカラミラレテル」
「え?」
「春夫さんっ!後ろっっ!!」
妖猿が叫ぶのとほぼ同時だった。春夫が振り向いた先には剣のような刃先が目の前に迫っていた。
春夫の頭の中では走馬灯の様に過去の記憶が蘇る。
「あれ……俺……死んだ?」
誰に言うでもなく、春夫はポツリとつぶやく。
「くっ!間に合わないでござる!!」
右前方から妖猿が走ってくる姿が見える。そして剣を振り下ろしたモノノ怪の姿が見えた。
「天狗……?」
春夫に向かい刃先が迫ってくるが、避ける事もできずただ呆然と立ち尽くしていた。刃先はスローモーションの様に春夫の首をめがけて斬りつけた……。
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