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二章・かみのこはる怪探偵事務所
第十三話・柳荘
しおりを挟む『かみのこはる探偵事務所』
アパートの一室の入口に金色のプレートが光る。そして、今日は家賃を集金しに大家さんが訪ねて来る日だ。
「寺井さん、今月分の家賃を――」
廊下で大家さんの声が聞こえる。
「皆、静かに!」
「寺井さんいるんじゃろ!寺井さん!はぁ……」
「……帰った……か?」
「静かになったにゃ……」
「くるみ……様子を見て来て欲しいですわ……」
「いやにゃ!」
「何が嫌なのじゃ?払うものは払ってもらわんと困るのですが?」
「そう言われても手持ちがな……て!大家さん!?」
大家さんはいつの間にか部屋に上がっていた。
「陽子さんや、契約ですじゃ。払えない場合は……」
「私の体で払うのですね……いつかそんな日が来るとは思っていましたわ……おろろん……」
「違いますじゃ。三日の内に退去して頂くお約束ですじゃ」
「三日!?そんな!ここを追い出されたら私達は露頭に――」
「もう迷ってるにゃ……」
「確かに。追い出されても問題なくはないな……」
「お主ら、三日以内に何とかせい」
「七十二時間以内でござるか!サスペンス映画みたいでわくわくでござるな!」
収集のつかないモノノ怪達であった。
「こんにちは!あっ、皆いた。良かったぁ」
タイミングが良くも悪くもの希子が現れる。そこにいた全員が一斉に希子の顔を見る。
「え?え!?何ですか!?」
みなまで言うまい。この後、希子はたかられた。
「ひぃふぅ……はい。ちょうど頂きました。また来月お願いしますじゃ……」
「うぅぅ……今月の食費が……」
「大丈夫にゃ!看板を売れば端金くらいに……」
「駄目じゃ!あの看板は……うぅ……お腹痛い……ちょっとトイレ……」
「春夫さん、ノアリス様が見てないうちに金ピカ看板をお金にしましょう!それがいいですわ!」
「駄目じゃぞ!あれは!ううぅ……」
バタンッ!!
「ノアリスは何かに当たったのか?」
「モノノ怪でござるよ」
「モノノ怪に当たる?」
「はい、先日食べたカマイタチがまだ消化出来てないのでござろう」
「そういうことでござるか」
「はいでござる」
「はるくん、晩ご飯代がない……」
「そうか……今日もカップ麺でござるか……」
春夫達はお金に困っていた。希子を除いて五人での生活である。食費も必要だが、それ以外にも生活費はかかる。
「生きるって大変なんだな……」
春夫は『かみのこはる探偵事務所』の看板を取り外しながら呟いた。
妖狐と希子と一緒に貴金属買取センターに向かう春夫。アパートでは幼猫とござるが、蛇姫がトイレから出れないように抑えておく作戦だ。
ウィィィン――
「いらっしゃいませぇ、こちらへどうぞぉ」
「あのぉ、これなんだですけど。おいくらくらいになりますでしょうか」
妖狐がカバンから、金のプレートを取り出す。
「少々お待ち下さいませ」
店員は虫眼鏡を取り出し、プレートをまじまじと見つめる。
「そうですねぇ……これでしたら……」
カタカタカタ……電卓を店員さんが叩く。
「ごくり……」
「はい、このくらいですね」
「な、七万円……。もう少し何とかなりませんこと?」
「そうですねぇ……」
カタカタカタ……再度店員さんが電卓を叩く。
「これで精一杯ですかね」
「七万五千円……わかりました。売りま――」
その時だった。背後から殺気を感じる!
ウィィィン――
『水滴良女』
パチンッ!!
自動ドアが開くと同時に、店内に大量の水が流れ込む!!
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「あばぼぼばぼばぼばぼ!!」
店内にいた人や物はすべて流される。誰もいなくなった店内で蛇姫がプレートを見つけた。
カタン。
床に落ちた金のプレートを蛇姫が大事そうに懐にいれた。春夫達は救急車を呼んだ後、バレないように立ち去ったが夕方のニュースでは『強盗』事件として取り上げられていた。
『――次のニュースです。本日午後、貴金属店に強盗犯が押入り、水を放水した後何も取らずに逃走しました。店内の防犯カメラには何も映っておらず、警察では――』
希子はすぐに携帯でニュース番組を再度、再生する。
「ちょっと!!私と陽子さんが映ってるじゃない!」
「のこ、そこは問題じゃない。お客として来てるわけだから強盗ではないしな」
「でもでも!見て!この水で流される哀れな姿をををを!!」
「希子さんはまだ良いですわ!私なんか!私なんか!お尻が丸出しで流されてぇぇぇ!!あぁぁ!もうお嫁に行けませんわぁぁ!」
「お主ら見苦しいぞ!わしの大事なプレートを売るからじゃ!ぷんすか!」
「白蛇様、その金のプレートは特別な価値のあるものでござるか?」
「うむ。これは世にも珍しい金龍の鱗から作ったプレートなのじゃ。滅多に出回らん!このプレートがあるだけで邪気を帯びたモノノ怪は近づけぬ!それをお主らは……ぶつぶつ」
「えぇぇ!そんなにすごい物なのか……俺はてっきり看板屋に騙されたと……」
「うちもそう思ったにゃ」
「たわけ!これは桜の里からわざわざ取り寄せた特別な物じゃ!二度と売るでないぞ!」
「はぁ……い」
「すいません……」
「はぁ……まったくこれじゃから近頃の若いもんはまったくぅ……うぅ……またお腹が……」
バタンッ!
「金の龍でござるかぁ。一度見て見たいものでござる」
「そうだにゃぁ……鱗を剥ぎ取って、次こそはお金に替えたいにゃぁ……」
「あぁぁ……私のお尻が丸見えぇぇ……」
「陽子さん、もう一度再生するわ!よく見て!」
「あぁぁ……私のお尻がぁぁぁ」
窓の外ではいつの間にか、夕暮れが迫っていた。大家さんが買い物から帰ってきて、二階の春夫の部屋を見上げる。
「私も生前、このアパートでは長らくお世話になった。もう数年で取り壊しとはねぇ……寂しいもんだ」
そう言うと、大家さんは誰もいない一階の部屋へと消えていく。
ここは『柳荘』。
数年前に大家さんが亡くなり、誰も住まなくなった廃墟。今では、男女の声が聞こえたり、夜な夜な明かりが点いたり消えたりしていると言う……。
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