かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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二章・かみのこはる怪探偵事務所

第十二話・かみのこはる探偵事務所

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 夏も終わり、いつしか空にいわし雲が広がる。今はまだ希子にしか見えない春夫。だが一緒に講義を受け、神仏やモノノ怪への知識を深めていく。
 夢希望大学では文化祭が行われ、たくさんの人が往来している。イカ焼きを焼く匂いや、とうもろこし、ポップコーンの匂いが鼻を刺激する。

「お腹空いたにゃ……希子どこにゃ……」
「希子さんは十時にはお迎えに来てくれるみたいですわ。もう少し待ちましょう」
「こんな賑やかなお祭りは初めてでござるよ」
「おい、春夫。わしはイカ焼きを所望じゃ」
「へいへい……」

 春夫はまだ精神体であるがゆえ、妖狐と幼猫が買い出しに向かう。

 この世界には目に見える現世と、目に見えない幽世かくりよがある。蛇姫や妖狐達は自在に両世界を行き来出来る。片や肉体から離れた春夫は不安定でまだそうはいかない。幽世に近い世界で生活をしているのだ。
 幽世の世界は食うか食われるか、殺すか殺されるかの世界なのだ。
 そして今日もその見えざるモノノ怪が姿を現す……。

「あ……あれは何にゃ……?」
「おかしい動きをしていますわね……」

 買い出しに行っていた二人が帰ってきて、蛇姫に事情を説明する。

「それはカマイタチじゃな……気をつけよ」

 蛇姫がそう言った瞬間、遠くで悲鳴があがりつむじ風が巻き起こる。
 数人の人が巻き込まれ、怪我をしていた。

「私にお任せ下さいでござる。この妖刀の切れ味を試してみたいのでござるよ……」

 妖猿のカナデが剣を抜き、カマイタチと思われる不可解なモノノ怪に近付く。

「ぐにゅ……うけけけけけ……」
「モノノ怪よ、食らうでござる。妖猿剣技……」

『白蛇四天衝!!』

 妖猿の太刀が目では見えない速さでモノノ怪に襲いかかる!!
 がしかし……。

「ぐっ……無念……」
「うけけけけけ!!」
「この剣技は本来、白蛇が出てきて相手を八つ裂きにする剣技……なのに……なぜでござる……何も出ないでござる!!」
「くちゃくちゃ……」

 イカ焼きを食べる蛇姫が一言、妖猿にアドバイスをする。

「カナデよ。聞いて驚くな。わしが白蛇を実体化したものじゃ。元からここにおるのじゃから何も出はしないのじゃ。シャァァァ!」
「なっ!!そんな馬鹿なでござる……ガク」
「カナデは馬鹿なのかにゃ?」
「よくわかりませんが、やられちゃいましたね。ほらもう食べられそうですわ」
「お前ら助けんかいっ!!」

春夫が妖猿を助けに向かう。

『脱兎』

ドンッ!!

俊足の勢いで、モノノ怪を吹き飛ばす!

「カナデ!大丈夫か!」
「春夫殿……私はもうだめ……恥ずかしいでござる……」
「恥ずかしいんかいっ!!」

 起き上がったモノノ怪は怒り、辺りでつむじ風が巻き起こる。

『ピィィィ――現在、正面広場でつむじ風とみられる強風が吹いております。ただちに大学構内へ避難して下さい。繰り返します――』

 危険を知らせるアナウンスが流れ、そこにいた人達は避難を始める。

「見晴らしが良くなったにゃ」
「くるみ……行くわよ」
「言われなくってもやるにゃぁ!!」
「くちゃくちゃ……」

妖狐と幼猫がモノノ怪に襲いかかる。

「せいやぁぁ!!」
「ふにゃぁぁぁ!!」

春夫がその隙に、妖猿を離れた場所まで運ぶ。

「……カナデ大丈夫か。ノアリス、カナデを見ててくれ。俺も行っ――」
「くちゃくちゃ……たわけ。お主が行ったとて役には立つまい」
「そ……それは……わかってはいるが……」
「やれやれ……春夫、妖猿を守っておれ」

 イカ焼きを食べ終わった蛇姫が立ち上がり、呪文を唱える。

『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』

蛇姫の体が光始め、体が膨らむ……。

「え?妖術を唱えるんじゃないのか……嘘だろ……これがノアリスの本来の姿……!?」

『オン・ソラソバテイエイ・ソワカ――』

 蛇姫が呪文を唱える度に体は大きく変化していく。そしてそれは大学の講堂と同じ大きさまで巨大化した。

「シャァァァァァ!!!」

 蛇姫の叫び声で講堂の窓は震え、地鳴りがする。人間には、地震が起きたように感じたのだろう。構内から悲鳴が聞こえてくる。

蛇姫はそのままモノノ怪めがけて突っ込んでいく。

「うけけけけけ!!」
「待てにゃ!ちょこまかと!逃げるにゃ!!」
「くるみ!逃がしたら駄目ですわよ!!」

『パックンチョ……』

「え?にゃ……」
「はい?……ですわ……」
「嘘だろ……」
「あぁ……白蛇様……お美しいでござる……」
「うげ……まずいのぉ……」

 モノノ怪を丸呑みした蛇姫が元に戻るのはあっという間だった……。

 ――そんなこんな事があった事はつゆ知らず、約束の時間になり希子がやって来た時には、広場では片付けに追われたり、営業を再開したり、慌ただしい時間が戻ってきていた。

「はるくん、お待たせ!さっきの地震とつむじ風すごかったね!お昼のニュースでやるみたいよ!」
「希子、お帰り。いや、実はさっき……」
「希子!イカ焼きを買って来るのじゃ!口の中が気持ち悪いのじゃ!」
「は、はい!」
「にゃぁぁ!うちも食べたいにゃ!お金を貸して――」
「幼子にお金を借りるなど、恥を知りなさい」
「うっとりでござる……」

慌ただしくも楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

―――

――



 この日、アパートへ帰ると看板が出来上がり取り付け工事も終わっていた。

『かみのこはる探偵事務所』

 春夫達のモノノ怪達との攻防が本格的になっていくのだった。
 そして看板代金十万円の請求書を見て、どうするか真剣に考える春夫だった。
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