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二章・かみのこはる怪探偵事務所
第十一話・ござるよ
しおりを挟む春夫は妖猿のカナデと出会い、桜の里へと案内してもらう。そこは桜が咲き、春風がそよぎ、一年中春の陽気が漂う世界だった。
「さ、春夫殿。ここが目的のよろず屋でござる」
「ここが蛇姫の言ってたよろず屋……」
よろず屋の中では、所狭しと色々な道具や食べ物、飲み物が陳列していた。
「ごめんでござる!よろおじさん!いないでござるか!」
ガタン……
店舗の奥から物音がする。
「誰でござるか……騒がしいでござる」
「うっわ……皆、ござる族なのか……」
「よろおじさん!カナデでござる!」
「おぉ!カナデちゃんかい!よう来たでござるのぉ!」
「はいでござる!」
春夫は思う。このよろず屋のおじさんが『ござる』の発端なのでは?と。
「初めまして、春夫と言います。理由あって――」
事情を説明し、蛇姫に言われた物を探してもらう。
「おぉ、あったでござる。なんせ古いもんでござるからのぉ……」
「やったでござる!」
「ありがとうございます!!ようやくこれで帰れる!」
「十万円になるでござる」
「え?」
「十万円でござるよ」
「……え?」
十万円。それは人間界の貨幣でもあるが、モノノ怪達の間でも貨幣に同じ価値を見出し流通しているのであった。
春夫は万が一、数日宿泊する可能性もあると見て多めに十万円程度は持っては来ている。
持っては来ているが財布からなかなかお金を出さない春夫に対して、亭主のよろおじさんが言う。
「何でござるか?まさか疑っているのではないでござるまいな……?」
「そ、そんな事は……ないでござる」
「怪しいでござる」
徐々に『ござる』が定着していく春夫だった。
「ただいまぁ!疲れたぁ!おっとう、飯は無いの!おっとう!」
「おたまや、おかえりでござる。今、来客中でござるよ。少々待つでござる」
「はぁい……」
と、帰ってきた少女と目が合う。
「あぁ!!君は門番の首なし少女!」
「あっ……えっと……と、とうりゃんせ……とうりゃんせ……」
急に歌を歌い出す少女。
「あんたの娘かいっ!!」
「ちっ」
「舌打ちされたでござる……」
その少女は頭が無いのではなく、別の頭を持っていた。つまりはよろおじさんが作ったであろう偽の頭を投げていたのだ。
「よろおじさんよ……物は相談なんだが、この事は秘密にしておく代わりに……」
「ちっちっちっちっちっちっちっ……」
「舌打ち多いなっ!!」
春夫は無事に目的の商品の『怪異の目』を五万円で手に入れた。ついでに千円で、歩きすぎて破けた靴の代わりの靴を買う。妖猿は仕立てをお願いしていた剣を預かり、店を出る。
その後二人は桜の里を出て樹海を抜け帰路に着く。電車に揺られる頃にはもう日も暮れ始めていた。
「ただいまぁ……疲れたぁ……」
「お邪魔しますでござる……はっ!?」
「おっ。春夫おかえり。手に入ったかぇ?」
「あぁ、ノアリス。これでいいのか?」
帰った部屋には蛇姫と、横になって寝息を立てている希子がいた。妖狐と幼猫の姿は無い。
「うむ。その眼鏡を希子にかけてやるが良い」
「え?これを?」
蛇姫に言われるがまま、春夫は希子に眼鏡をかける。しかし気付かず、気持ち良さそうに寝ている。
「して、その者は誰じゃ?」
「は、はひ!!私は妖猿の猿渡奏と言います!カナデとお呼び下さいませ!」
「おぉ!猿渡家の娘か!懐かしいのぉ。ご両親はご健在か?」
「ははっ!白蛇様のお蔭で今も平和に暮らしております!」
「おぉ、そうか!それは良かった。もう百年近く前になるかのぉ……」
春夫は思う。すごく良い話なのだろう。きっと過去に蛇姫が助けてあげたくだりなんだろう。だが、ふいに落ちない事もある。
「カナデ……普通にしゃべれるじゃないか……」
「春夫殿……何か言われたでござるか?」
「何でだよ!!」
「んん……何……?騒がしい」
「あっ、希子すまない。ござるがござるって言わないのでござるよ」
「なぁにそれ……もうはるくんたら……むにゃ……え?」
横になっていた希子が飛び起きる。状況が整理出来ないのか、立ったまま固まっている。急に立ち上がり立ちくらみを起こしているようだ。
「まさかりかついだ金太郎が見える……」
「のこ、落ち着け。そんな者はいない」
「はるくん?何で?え?車椅子のはるくんじゃないはるくんがいる……」
「見えるのか!そうか!ノアリス、この怪異の眼鏡は、モノノ怪が見えるのか?」
「左様じゃ。桜の里にしかない希少な眼鏡じゃ」
「はりゅぐぅぅぅん!!」
涙が流れるのも拭かず、春夫の胸に飛び込もうとする希子。受入体制で手を広げる春夫。
感動の再会だっ――
ピタ。
「はるくん。その女の人は誰」
途中で立ち止まり、妖猿を指差す希子。
「私でござるか?妖猿のカナデと言うでござる。春夫殿とはここ数日お付き合いをさせてもら……」
「お付き合い……?むぅぅぅ!!」
「へ?希子!違う!!違う!!そういう意味じゃないでござるよ!」
「ござる……最低。私、帰る」
バタン!!
『ござる』が致命的なダメージを与えてしまったようだった。
猿渡奏は、見た目は二十代前半といった所だろうか。ポニーテールにふくよかな胸、身長も春夫とそう変わらない。着物姿に刀を身に付け、格好いい感じの女の子である。ただ、なぜか若干サル顔である。
「ただいまにゃ。さっき、希子とすれ違ったが遊びに来てたにゃ?」
「帰りましたわ、あら春夫さんおかえりなさい」
妖狐と幼猫が入れ違いで帰って来る。
「このきちゃない靴は誰のにゃ。捨てるにゃ」
「あぁ、くるみ。それは穴の空いた靴の代わりに桜の里で買った靴なんだ。新しいの買うまで使うから置いといてくれ」
「春夫!お前!」
ダンダンダン!!
蛇姫が急に立ち上がり、靴を掴み春夫に投げつける。
「お前は馬鹿なのかぇ!!早く希子を追えし!それとこの靴はの!数千万円はする希少な靴ぞ!一万円程度の怪異の眼鏡に比べたらお宝レベルじゃ!そんな希少な靴を雑な扱い方をしおって!!ムキィィ!!」
「ノアリス!落ち着け!!色々ツッコミたい所がある!!怪異の眼鏡が一万円!?そのぼろぼろ靴が数千万円!?」
春夫は希子を追いかけ、事情を説明する。しばらく説明を聞いて納得した希子はひと目もはばからず春夫に抱きついた。
「で、はるくん。この靴がそんなにすごいの?」
「みたいなんだ。ノアリスにやり方は聞いた。掴まってくれるか?」
「うん……こうかな」
希子は春夫の腕にしがみつく。
「行くぞ……『脱兎』目的地は『出雲大社』!!」
ダンッ!!
春夫が地面を蹴る!次の瞬間――
「は、はるくん!!ちょ!!!嘘でしょ!!そ、そら!えぇぇぇ!!」
「ははは……まじか……この『韋駄天の靴』は本物なのか……」
韋駄天の靴。それは行きたいと願う目的地まで飛べる靴。春夫の『脱兎』と相性が最高のモノノ怪の道具だった。
数分間の飛行を楽しんだ後、春夫と希子は出雲大社に降り立ったのだった。
「ちょっとちびった……」
「私も……」
出雲大社で夕日を背に、二人共ちびっていた。
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