かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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二章・かみのこはる怪探偵事務所

第十話・桜の里

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 春夫はモノノ怪探偵事務所の初仕事として、蛇姫に頼まれ富士の樹海へ来ていた。
 樹海の奥で奇妙な少女に出会い、なぜかまた樹海の入口に戻される。

「いったい……何が起きたんだ……」

春夫は不思議がりながらも、また樹海の奥を目指す。

ザッザッザッザッ……

 夕方近くになり、西日が木々の間から小川を照らす。昼間は涼しかったが今は少し肌寒い。
 春夫は昼間と同じように小川のほとりで腰を降ろす。

「ふぅ……ようやく戻ってきた」

 ふいに風の音と小川のせせらぎに交じり、声が聞こえた。

「ニンゲンガマタキタ」
「ニンゲンガイキテル」
「ニンゲンシンデナイ」
「またか!!おい!誰だ!」

ゾクッ!

 春夫は悪寒を感じ、身震いする。そして顔を向けた方向の木々の奥から……あの少女がまた現れる……。

「とうりゃんせ……とうりゃんせ……ここはどこの……」
「キタワヨキタワヨタマナシ」
「キタワヨキタワヨオタマ」
「キタワヨキタワヨバケモノ」

 春夫は、昼間の教訓を生かし今度は蛇姫から授かった俊足『脱兎』を試みる。

脱兎だっと――』

パチンッ!

 指を鳴らすと、春夫の足元から重量が消える。そのまま地面を蹴り少女の横を一瞬で通り過ぎる!
 それは到底、目にも止まらぬ速さであった。

が。

「ど、どうして……!?」

 少女の横をすり抜けた瞬間、気が付くとまた樹海の入口に立っている。
 愕然としその場に座り込む春夫。しばらく樹海の入口を見据え、あ然としていると樹海の遊歩道の向こうから女性が歩いてくる。

「あれ?昼間のお兄さん。どうしたんですか。え?もしかして昼間からずっとそこに!?」

春夫は言い訳を探すがうまく言葉にならない。

「お兄さん、少し混乱されているみたいですね。今夜はそこのコテージで休みましょう」
「あ……はい……」

 女性に促され、コテージへと向かう。熱中症を心配され、シャワーを浴びた後水分補給をして横になる。いまだに頭が整理出来ない。アレは何なんだ……。疲れからか、春夫はすぐに眠りについた。

 深夜……目が覚めて、うつらうつらとトイレに行く。目が覚めてくると、やはりあの少女を思い出す。

「あの子はいったい……」
「あら?こんなとこにいらしたのですか?」
「あぁ……昼間はどうもありがとうございました。お礼も言わず泊めて頂いて。ようやく疲れが抜けた気がします」
「それは良かったですね」
「俺は、寺井春夫と言います。理由があって樹海の……」
「桜の里……ですよね?お探しなのは……」
「え!?ご存知なのですか!」
「はい……私はその桜の里の出身なので……」
「それでは昼間の!!」

 女性は、猿渡奏さるわたりかなでと言った。カナデは……人間の姿をしているがどうも違う。

「私は……妖猿族にござる」
「急に喋り方が変わった!?」
「あなた様が人間とは違うとわかったのでござるからして。春夫殿はどこのあやかしの方なのでござる?」
「基本的には人間なのだけど、以前は白蛇のモノノ怪が憑いていたな。だから白蛇になるのかな」
「白蛇でござるか!?」
「あぁ……今は分離しているが」
「そうでござるか……そうでござる!ひとつご提案なのでござるが……」
「俺もちょうど提案があるんだが……」

 妖猿の話では春夫の手助けをし桜の里に連れて行く代わりに、蛇姫に合わせて欲しいとの事だった。

「わかった。そんな事でいいのなら……」
「本当でござるか!ありがとうでござる!で、春夫殿のご提案と言うのは?」
「あぁ。語尾のござるが耳につくからやめてくれ」
「え?でござ……え?」

妖猿はこの後、ひどく落ち込んだ。

――翌日。

 春夫と妖猿は樹海へと再び入る。そして数時間後、見慣れた小川までやって来た。
 風の音に交じりまたあの声が聞こえてくる。

「ニンゲンガヨウエントイル」
「ニンゲンガヨウエンタブラカシタ」
「ニンゲンガヨウエンナカイイ」

小川のほとりに腰を下ろし、春夫が妖猿に聞く。

「カナデ、あの声は何なんだ?」
「あれは森の精霊コビトンでござる。悪さはしないが口が悪いのでござる」
「カナデ……もうござるが出てるのだけど……」
「はっ!すいませんでござる!はっ!」

 何度も頭を下げる妖猿が少し可哀想に見える春夫だった。と、昨日と同じようにあの歌が聞こえてくる。

「とおりゃんせ……とおりゃんせ……ここはどこの細道じゃ……」
「カナデ。実はあの少女がいてここから進めないんだ」
「あぁ……あの子は里の門番でござるよ。ちょっと待つでござるよ」

 そう言うと妖猿は少女の元へと歩いて行く。昨日の春夫の時と同じく、少女は妖猿に向かい頭を投げた。妖猿はその頭を拾い少女へと返す。

「あたしの頭はどこ?」
「ほれ、頭はここでござるよ」
「あたしの頭見つけた。ありがとう」

そう言うと、少女は消えた。

「これで大丈夫でござる。さ、行くでござる」
「あ……あぁ……」

 不安そうに見ていた春夫は、妖猿がいなければあと数日は気付かず何度も樹海を行ったり来たりしたであろう。
 妖猿に感謝をし「ござる全面禁止」を解いたのであった。

―――桜の里。

 外は夏の終わり。だが、まだまだ日陰が無ければ三十五度を超える猛暑なのだ。
 しかし里の門をくぐった瞬間、桜の花びらとそよ風が出迎えてくれる。

「ここが……桜の里か。気温が下がった気がする」
「はいでござる、春夫殿。長に直接話を通して来ますのでそこのベンチで休憩なさっててくださいでござ……います」
「あぁ……ありがとう」

 ベンチに腰を下ろし、ようやく一息つく。桜の里自体はそんなに広くはない。人が住んでいるのだろうか?人影がほとんどない。里を観察していると、しばらくして妖猿が帰ってきた。

「長の許可はもらいましたので行くでござる」
「あぁ、ありがとうでござる」

 妖猿に語尾を釣られているのに、気付かない春夫であった。
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