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一章・憑依
第七話・闇渡りの眼
しおりを挟む『――次のニュースです。先日、崩壊した病院跡で樹海刑務所から逃走中の男が遺体で発見され警察が現場検証を行っており――』
ガタンガタンガタンガタン――
夏休みを利用し、春夫と希子は島根の白蛇神社へと向かっていた。二人の思い出の場所でもあり、希子の実家だ。『夢希望大学』のある東京から寝台列車『サプライズ出雲』に揺られる。
夕方の便に乗り込み、駅弁を食べ、シャワーを浴び、二人寄り添い窓の外を見つめる。
病院で男に襲われてから二ヶ月が経った。父親だと思っていた脱獄犯……おたたり様に取り憑かれていたその男は、血縁の無い義理の父親だった。
本当の父親、そしてあの手紙の差出人。頭の片隅にずっとあり、時々思い出される。
希子とは、あれから二人の間の距離は縮まったものの昔のように言葉数が減った様に思えた。それはたぶん……お互いが気付いてしまったからなのだろう。
でももう、今さら……元には戻れない。お互いが惹かれ合い、愛し合った後の事なんだから……。
ガタンガタンガタンガタン――
部屋の明かりを落とし、希子は春夫の胸に耳を当てる。春夫はそんな希子の頭を撫でる。電車の音が心地よく『このまま何も無かったように時間が止まれば良いのに』と二人は思う。どちらからともなく、首に手を回しキスをする。そうする事で不安をぬぐったのかもしれない。
「………はるくん」
「ん?どうした?」
「言わなきゃ進めないよね……」
「……気付いているんだろ?」
「……うん」
「そっか……」
一週間程前の事だ。妖狐と一緒に区役所に住民票を取りに行った。そして薄々思っていた事が明らかになる。
それは父親の名前の横に養子縁組とあった事。それと以前に母親に聞いた春夫の実父。
希子には言わなかった。しかし、あからさまに春夫の顔に出ていたのだろう。春夫に内緒で希子が住民票と手紙を見てしまった。
ガタンガタンガタンガタン――
「はるくんは……私の義理のお兄ちゃん……なんだよね?」
「……あぁ、たぶん」
ガタンガタンガタンガタン――
「はるくん……兄妹で愛し合う事は出来ないのかな……」
「……わからない。ただ……初めて好きになった女の子が希子で、今、目の前にいる女の子が希子なだけだから……」
「うん……そうだね……私も同じ……」
希子は春夫の胸に顔を埋めて、今のこの時間を全部独り占めにしたいと初めて思った。
誰にも邪魔されず、二人だけの空間。駅に着くまでの数時間、二人はずっと寄り添い合う……。
「……あれですか?あの二人は出来ているのですか?」
「そうだにゃ!でもその部屋に一緒にいる蛇姫も可哀想にゃ」
「なぜです?」
「なぜって!陽子はもうおつむがアレなのかにゃ!男女が二人でいて……その……もう……はにゃぁぁぁ!!」
「くるみ!落ち着いてください!鼻血鼻血!!」
「はぁはぁはぁ……陽子……耳を貸すにゃ……ごにょごにょ……」
「ぶはぁぁぁ!!」
「陽子も鼻血にゃぁぁ!!」
隣の客室では、仲良しのモノノ怪二人組が朝まで馬鹿騒ぎをしていた。
東京駅から松江駅まで行き用事を済ませた二人は、そこからバスに乗り白蛇神社へと向かう。
お昼頃には春夫と希子は白蛇神社へと辿り着く。春夫にとっては懐かしく、希子にとっては実家へ帰って来たという思いだ。
「ここが蛇姫の実家なのですか!」
「んにゃぁぁ!イカ焼きにゃぁぁ!!」
「くるみ!ちょっと待ちなさい!!」
「はぁ、陽子さん。くるみは任せた……」
「ふふ、賑やかでいいわね。行きましょ、はるくん」
希子は春夫の手を取り、神社へと向かう。
――神社の裏手の池に近付くと、春夫は動悸がした。胸に手を当てると、希子が背中に手を当ててくれる。
「希子、ありがとう。大丈夫だ」
「うん」
「しかし汚い池にゃ……」
「ちょっと匂いますね。蛇姫はこんなとこで暮らして――」
「……むぅ」
『水滴良女』
蛇姫は妖狐と幼猫の言葉に腹を立て指を鳴らす。
パチンッ!
ザバァァァン!!
いきなり池の水位が上がり、妖狐と幼猫は水に流される。
「ほぎゃぁぁ!!何するにゃ!くせぇぇにゃぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!!おえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
蛇姫が春夫の背中で答える。
「罰が当たったのじゃ!」
「……罰を当てたのだろう」
春夫が静かにツッコミを入れる。
「だっての!だっての!妖狐の阿呆と馬鹿猫がの!」
「はいはい……」
春夫は静かに鯉を池に戻す。
そのまま妖狐と幼猫を連れて、希子の家にお風呂を借りに行く。家はちょうど留守の様だった。
「さっぱりしたにゃ!」
「お風呂を頂戴致しました。ありがとうございます」
「うん。二人共、綺麗になったね!さて、父さん達がいない間に蛇姫さんの用事を済ませましょう!」
「そうだな、早いとこ済ませようか」
希子は白装束に着替え、本殿へと皆を案内する。
「ここで良いぞ。本殿の方が都合が良い」
「ん?池じゃなくてもいいのか。蛇姫、都合が良いとは?」
「すぐにわかる。ほれ始めるぞ」
ドン……ドン……ドン……
妖狐が太鼓を打ち鳴らす。
ピィィィ――
幼猫が笛を吹き
希子が舞う。
シャン!シャン!シャン!
春夫は本殿の中央に座している。辺りの空気が張り詰めていくのがわかった。
『バリバリ』
春夫の背中から蛇姫が剥がれ落ちる音がする。
「うぅっ!!痛っ!!」
『バリバリ』
しばらくすると、一人の少女が春夫の後ろに立っていた。
「うむ……成功じゃな。皆の者、もう良いぞ」
太鼓と笛の音が止まり、春夫と少女の周りへと皆が集まる。
「久しぶりの肉体じゃな。うむ。これで動きやすくはなったが、春夫が変化に耐えれるかじゃな」
「蛇姫さん、変化って?はるくんの体は大丈夫なの?」
「こやつの体は本来、負のエネルギーを宿しておる。わしの手助けがなければもうとっくに闇に飲まれ命を落としておったじゃろう。さてさて、成長していかようになったか見させてもらおうか」
そう言うと蛇姫は春夫の前に座る。
「狐と猫よ。気を抜くでないぞ?」
「はにゃ?」
「狐とはまた上から物を言われますわね。蛇のくせ――」
その時だった。春夫の体の周りに黒い渦が出来上がる。それは次第に大きくなり春夫を飲み込んでいく。
「ぐぐぐ……何だ……これは……」
「はるくん!?どうしたの!え?くるみさん!何が起きてるの!」
「にゃぁには見えないのかにゃ。そうにゃ、これを貸してやるにゃ」
くるみは希子に一枚の御札を手渡す。そこには荒々しい文字で『闇渡りの眼』と書かれていた。
「闇渡りの眼……?」
希子がくるみから御札を受け取った瞬間、世界に色が付いたように一気に視界が広がる。そして春夫の周囲の歪む空間がはっきりと見えた。
「これがはるくん達が見えてる世界……」
「さて……来るぞ」
ゾク――
そう蛇姫が言った瞬間、本殿の外に突然夜が訪れ、周囲には数千の数の魑魅魍魎がうごめいていた。
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