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一章・憑依
第五話・寺井春夫
しおりを挟む『――次のニュースです。樹海刑務所から脱走した男の行方はいずれもわかっておらず、警察は捜索隊を構成し――』
「世の中便利になったものですわね。こんな箱で世の中の情報がわかるのですものね……」
「春夫はまだ起きて来ないにゃ?」
「いや、さっきあの……何でしたっけ?そうそう携帯とか言うやつをピコピコしていましたわね」
「陽子は携帯持ってないのかにゃ?」
「むぅ……そういうくるみも持っていないじゃないですか」
「むぅ……うちの場合は……金銭的な問題にゃ……」
「お金ですか……そうですわね……いっそこの身を……」
「陽子は発想がチンケにゃ」
「な、なんですって!!だったらくるみが稼いでくれば良いじゃないですかぁ!」
「う、うちは色々とやることが……うにゅ……」
ガラガラ……
「朝から何を騒いでいるんだ……はぁ……」
「春夫さん!聞いてください!くるみがぁぁ!」
「春夫!陽子が馬鹿に馬鹿って言ってにゃ!それでそれでにゃ!」
「馬鹿とは言ってませんわ!きぃぃ!」
「はいはい……」
ピッ――
『のこ、おはよう。今日の講義は二時間目から行くよ』
「送信っと……」
春夫は希子にショートメールを送り、大学に行く準備を始める。
行きがけにポストを覗くと手紙が入っていた。差出人の名前はない。不思議に思いながらもポケットに突っ込む。
その日は午前中の講義を終えて、大学の図書館へと向かう春夫。希子は午後一の講義も取っているらしく終わるまで図書館で調べ物をすることにした。
と、ポケットに手を入れると手紙に手が触れる。「そう言えば……」と思い出した春夫は、図書館で手紙を開く。
『拝啓 寺井春夫様――』
「誰だろう?」と思いながらも読み始める。冒頭から不思議な書き出しだった。
『この手紙を君に渡す事で、君に届くかはわからないが……』
読み返すが意味がわからない。そして――
『君の父親はすでに他界していると聞かされてると思うが――』
「どういう事だ……?」
『君の父親は……生きている。君の母親にも口止めされていたのだ。君の身に危険が及ぶ事が考えれる今、この手紙を書いている――』
一通り内容を読み直してみるが、差出人の名は無い。
――産まれた時から春夫には父親がいなかった。母親に聞いた話では春夫が産まれる前に他界したのだと言う。
しかし手紙には父親は生きている。と書かれていた。ニュースで何度も見た。樹海刑務所から脱走し今も捕まっていない……。
一枚にも満たないその手紙には動揺せずにはいられない内容が綴られていた。
春夫は気分が悪くなり、図書館を後にする。図書館の裏手にあるベンチで横になり希子を待つ春夫。希子にメールを送り、目をつむる。
『君には双子の兄がいた。その兄を殺し刑務所へと――』
その一文が頭を巡る。「双子の兄?父親が殺した?」その瞬間、春夫の周りに憎悪の闇が集まり始める。
元来、人は生霊という目には見えない霊を宿す。憎しみ、悲しみ、不安、憎悪、あらゆる負の気持ちが自分で制御出来なくなり、もう一人の負の自分が生まれる事がある。
それはいつしか一人立ちし、相手に襲いかかる……。
「はぁはぁはぁ……胸が苦し……い……」
「はるくん!お待た……どうしたの!はるくん!大丈夫!?ねぇ!はるくん!」
―――
――
―
「……暗い。ここはどこだ……?」
春夫が目覚めた時、周りは真っ暗で体は動かなかった。暗闇に赤い二つの目が見える。見覚えのある目だった。
「蛇姫……か?」
「シュゥゥ……ようやく名を呼んでくれたのぉ……春夫」
「あぁ……陽子さんやくるみからも色々教えてもらったからな……俺を殺すのか?」
「いいや。何を聞いたか知らぬが、その反対じゃ……」
「反対?お前は俺の体を乗っ取ろうと……」
「時期が来たようじゃな……少しだけ覗かせてやろう」
パチンッ!
指を鳴らす音が聞こえ、頭の中に映像が見える。それは初めて蛇姫を見た神社の池だった。幼い頃の春夫が見える。
「そうだ。足を引きずられる前に何かを見た様な気がする……!?」
記憶を頼りに少しずつ鮮明になっていく映像。光る何かを見つけて、池を覗きこむ春夫。
それは池に映り込む……ナイフを持った男の姿だった。ナイフが太陽に反射し光っていた。ちょうど池の上の雑木林の中に男はいた。
「まさか……!!そのために足を引っ張ったのか!!」
春夫が引きずられ、叫び声を上げる。そして希子の父親が助けに来る。男はその日は諦めたように林の中へと姿を消した。
そのまま場面は切り替わる。今度は搬送先の病院だ。
「そうだ、あの時もテレビに蛇姫が映って……」
その前に外に人影を感じた。部屋に影がうごめいていた。春夫は目を疑う。外にいたのは蛇姫ではない。またあの男だった。病室の外の木をよじ登り、春夫の病室を覗いていた。
そのタイミングでテレビに蛇姫が映り込む。そして叫び声と共に看護婦さんが部屋に入り、またしても男の姿は消える。
「あっ……あぁ……そうなのか……蛇姫は……」
場面が変わり一台の車が動き出す。一人の少女を目指して車は走っているように見えた。
「違ったのか……たまたま横断歩道をあの子が歩いて来ただけで、狙われていたのは俺……」
車は方向転換して逃げようとする。運転手が乗っていないはずなのに。
「そうじゃな。わしもあの時にあの男を殺めておくべきだったのかもしれぬ。あの男は憎しみよりくる生霊を使い春夫を殺そうとした。すでにおたたり様があの男を支配しておったのじゃ」
「おたたり様……?」
「あぁ、人の生霊、怨念、憎悪、負の化け物があの世から、おたたり様を呼び寄せるのじゃ……」
「あの男が俺の……」
「それは人間界の話じゃ、自分で解決するのが良いじゃろう。わしは、おたたり様からお主を守るだけじゃ」
「蛇姫……ずっと俺の事を守っていてくれたんだな……すまなかった。ありがとう」
「シュゥゥ……お主にお礼を言われる筋合いは無いわ。お主の母親は千の家の血を引くもの。故に途切れさせるわけにはいかぬのじゃ……」
「千の家?どういう――」
そこで映像がプツリと切れ、何もない空間に春夫は放り出される。
(蛇姫!!)
声を出そうとするが声が出ない。目を開けるとそこは心配そうに春夫の手を握る希子の姿があった。
「はるくん!はるくん!気が付いたのね!今、救急車を呼ぶからね!」
希子は急いで電話をバックから出そうとするが、手が震え定まらない。春夫は希子の手をぎゅっと握る。
春夫は暖かい希子の手を感じた。幼い頃に差し伸べた手は握られる事はなかった。けれど今はしっかりと握られている。
「……の……こ」
横になったまま、春夫の腕は希子の背中に周り、ぎゅっと希子を抱きしめた。
「大丈夫だ……このまま……」
二人はしばらくベンチで抱き合っていた。
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