かみのこはる〜裏参道のモノノ怪物語

ざこぴぃ。

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一章・憑依

第一話・白蛇神社の姫

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 春夫は神社の裏手にある池で謎の生物に足を引っ張られ、間一髪の所で希子の父に助けられた。そして市内の病院で検査入院をする。
 足のアザ以外は、特に問題なく夜には点滴も外された。明日には大部屋に移動になり、外科の診察が行われる予定になった。

――深夜二時。

 夕方からウトウトと寝て起きてを繰り返していた春夫は、一度目が覚めてしまい眠れない。
 重い体を起こしトイレに行く。ナースステーションの前を通る時、看護婦さんに心配されたが気が張っているのか「大丈夫です」と幼い春夫は答えた。

 トイレの換気用の窓からは月が顔を出している。さすがに深夜のトイレは怖いので電気は全部点けて用をさっさと済ました。
 またナースステーションの前を通ってお辞儀をし、部屋へと戻る。しかしベッドに入っても寝れる気配はしない。さすがに深夜だ。個室でなければテレビを点けるのも忍びないのだが、春夫は手持ち無沙汰でリモコンのスイッチを押す。

『ザァァァァ――』

 チャンネルを回すとニュース番組以外は砂嵐だった。部屋の電気は消えている。テレビの明かりだけが部屋に映る。

『――今日の天気予報です。午前中は晴れますが次第に雲が広がり夕方からは雨になるでしょう。次のニュースです。昨日希望の丘――』

カサ――

 外で何か音がした。しかしテレビの音で春夫は気付かない。地上三階部分の部屋だ。物音がした所でこんな所へは簡単に来れないだろう。だが……

 部屋の中に人影が映る。月が出ているせいだろうか。それは大きくゆっくりと揺らぐ。そこでようやく春夫は気付いた。
 すぐさまナースコールを探す!「外に何かいる!」春夫は人影を凝視したままナースコールを押した。

――誰も来ない。

 ナースステーションにはさっき看護婦さんがいた。二部屋向こう側だ。すぐに気付いてくれるはずだ。

――誰も来ない。

 不安と焦りが春夫の周りを包み込む。心臓がバクバクと音を立てる。ここは三階だと説明を受けた。誰も外からは来れないはずなのに。恐怖と暗闇が春夫の周りに濃縮されていく。

「ハァハァ!!」

 過呼吸になり、心臓が痛い。「助けて!」そう強く願った時だった。

『大丈夫じゃ。安心せい。お主は……』

 テレビの画面に昼間見たあのおぞましい顔の、舌の長い女が映っている!!

「ギャァァァァァァ!!」

 生まれて初めて春夫は叫び声を上げた。助けて!とか怖い!とかそういう文章ではない。ただただ言葉にならない大声をあげた。

ガチャ!!

と同時に部屋の扉が開き、電気が点く。

「大丈夫ですか!!寺井さん!」

ナースコールを見た看護婦さんが部屋へと来てくれた。

「あ……あ……あぁ……」

 看護婦さんは過呼吸で声が出ない春夫を見て、応援を呼び酸素吸入器を用意し始める。

 「誰もいない……」人影はおろか、テレビに映り込んだ女性の姿も、すでに見えない。

「大丈夫ですか!寺井さん!聞こえますか!」

 春夫は腕に血圧計を付けられたところまでは覚えていた。だが徐々に意識が遠くなる。
 恐怖と疲れと衝撃がこの小さな体ではすでに限界だった――

――翌朝。

 目が覚めると、また腕には点滴が繋がれている。時計を見ると八時を指していた。
 春夫の目覚めで看護婦さん達は安堵し、大部屋への移動は見送りになる。母親も早々に呼ばれ、そのままレントゲンや心電図等を受け病室で待機となる。
 外科の先生が午後からやってきて母親に何やら説明をしていた。春夫は聞いてか聞かずか、天井を見上げて、ぼうぅとしていた。

 違和感を感じたのは夕食を取った後だった。右足が何だか熱い。布団をめくり見るとアザがくっきりとしている。幼いながらに恐怖もあったが、少し格好良くも見え、恐怖より興味が打ち勝った。

 アザが脈打ち心臓がいつもより早く鳴ってる感じがする。少しずつだが、その感じにも慣れてくる。
 今日はナースコールを押さない。まだ外が明るく怖くないのもあるが、この感じをどう伝えたら良いかわからなかったのだ。
 廊下に出てみる。長い廊下には人影がちらほら見える。ただ休日なのもあり、面会に来てる人はいないようだった。
 春夫は食堂のある五階へとエレベーターのボタンを押す。五階は食堂以外にも病室らしき所はあるが比較的に人がいない。今日は特に静かだった。
 五階に着くと、廊下の一番壁側に立つ。人はいない。何をしに来た?と言われると正直わからないのだが、足がうずいて『走りたい』衝動にかられたのだ。
 春夫は深呼吸し、床を蹴り反対側の壁に向かい走り出す。その距離およそ百メートル。

ドンッ!!

反対側の壁に手を付き止まる春夫。

「ハァハァハァハァ……」

一気に汗が吹き出す。

「な……なんだ…これ……?足が軽い……」

 春夫が気付くのはもう少しこの体に慣れてからだろう。今走った壁から壁まで、今までより早く走れた気がした。

春夫目線では……そう頑張って走ったのだ。

春夫目線では……。

 おそらく、それはコンマ数秒の出来事。人の目では到底追う事の出来ない領域。春夫自身は気付いていない。周りに誰も比較するものがいないのだから。
 ただ満足だった。うずいていた足のアザも大人しくなり、清々しい気持ちになった。

 ――そんな姿の春夫を一人の少女が、病院の屋上から見つめていた。

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