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プロローグ
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しおりを挟む春夫がまだ小さい頃。近所の神社でいつものように遊んでいた。同級生でもあり、神社の娘でもある希子は春夫を見つけて声をかける。
「おぉい!はるくん何してるのぉ?」
「ん?のこちゃん。今ね、池の中に何か見えて……」
「鯉じゃない?」
「いや、何か光った気がしたんだ」
「あっ!お父さんが言ってた。この池は参拝客がお金を投げ込むんだって。それじゃない?」
神社の裏手にある池は鯉にちなんで「恋人が結ばれる池」として当時はちまたで有名だった。休日ともなると参拝客が列をなしている時もあった。平日のその日は人気もなく、セミの声だけが聞こえる。
学校はちょうど夏休みだった。春夫は宿題を終わらせ、神社の境内で自由研究にとカブトムシを探しに来ていた。
「ほら、そこ。さっき光った様に見えたんだけど」
「どこ?のこには見えないよ。ねぇ、本当に――」
「お……おい……お前は誰だっ!!!」
「え?急に何!?はるくん!どうしたの!!ねぇ!」
それは太陽の光が反射する池の湖面に立っていた。この時、それは春夫にしか見えていない。
『……お主、わしの姿が見えたのかぇ?』
それは真っ白な装束を着て、髪も真っ白、目は赤く、長い舌が特徴的だった。
春夫は驚きのあまり声が出ない。尻もちを着き震え始める。何も見えていない希子は春夫と池を交互に見るが何が起きているのかわからない。
「ちょ!はるくん!しっかりして!!ねぇ!」
その時、突然春夫の足が引っ張られ池の方へと引きずられる。
ザザ……ザザ……
「たっ!たすけっ!」
手を伸ばす春夫を希子は……拒んだ。手を伸ばせば届いたであろう。しかし目の前で何が起きているのかわからず怖くなり、後ずさってしまう。
「い、いま!大人を呼んでくるから!!」
「た……たすけ……」
一目散に神社の境内を目指し走り出す希子。「誰か誰か誰か!!」振り返らずに走る。境内の角を曲がった所で掃除をしている神主の父を見つける。
「お、お父さん!!助けて!はるくんが!はるくんが!!いやぁぁぁぁ!!」
異様な慌てぶりの娘を見て、ただ事ではないと察した父は娘が走って来た方向へと走り出す。
「のこっ!!池の方か!」
「う……うん!」
娘を置いて父は池に向かって走る。おそらく百メートルもないであろうその距離が遠く、足がもつれそうになる。しかも草履に白装束の仕事着である。走りにくい。
「はるくん!!大丈夫か!」
すぐに春夫の姿は見えた。顔はよく知っている。池の中に落ちたのではないかと、頭をよぎったがかろうじてまだ池の外にいる。
春夫の元へと辿り着き腕を掴む。瞬間、春夫の体が軽くなった気がした。しかし春夫の足には……。
「何だこれは……」
希子の父が目にしたそれは、何かが春夫の足に巻き付いたような跡だった。まるで……蛇が巻き付いたような跡。
「は、春夫くん!わかるか!しっかりしろ!」
「う……うん……」
「のこ!お母さんに救急車を呼んでもらいなさい!」
「は、はい!」
まだ数十メートル後ろを走っていた希子に父は声をあげた。
――春夫は市内の救急病院へ運ばれ、意識はあるものの点滴を見つめてはどこか遠くを見つめている。
救急車には希子と希子の母親が同乗しそのまま付き添ってくれていた。病室には看護婦さんが代るがわる様子を見に来ていたが、大事には至らず一安心していた。
「お世話になりました。ありがとうございます」
ロビーでは春夫の母親が駆けつけ、希子の父親にお礼を言っている。
「いえいえ、たまたま居合わせただけで――」
「先程、お医者さんに事情は聞きました。本当に本当にありがとうございます」
「すいません!道を開けてください!急患通ります!」
『お呼び出しを申し上げます。お薬をお待ちの――』
「あらぁ!おばあちゃん!ひさしぶり!元気だったの?」
「はぁ?あんたは誰だい?」
『――明日は曇のち雨でしょう。次のニュースです。昨日、希望の丘刑務所から脱走した犯人は未だ捕まっておらず――』
「ちょっと騒がしいですね。ここで立ち話も何ですから、病室に行きましょうか?」
「そうですね、すいませんすいません……」
ガタン――
春夫は急患扱いでひとまず個室に入っていた。一晩容態を診て、大部屋に移るそうだ。
春夫の足には生々しい、蛇が這ったような跡が残っていた。
「お医者さんのお話では噛まれたような痕は無いですが念のため、血液検査中です。もしかして、ニシキヘビなどの大型の蛇が巻き付いたのかもしれませんね」
「そうですか……でも無事で良かった……電話をもらった時は心臓が止まるかと……うぅぅ……」
「お母さん、とりあえず入院の手続きをなさってください。しばらく僕達もここに居ますので――」
「何から何まですいません……」
春夫の母親と、希子と両親が帰ったのは夜になってからだった。
そして、深夜。それはまたやってくる……‥。
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