10年後の君へ

ざこぴぃ。

文字の大きさ
上 下
21 / 30
3学期

第20話・霧川小夜子

しおりを挟む

 ――2011年3月10日(木曜日)14時46分。

 突如地面が揺れだし、留置場が激しく揺れる。電灯は消え、火災が発生し、目の前で起きている事が頭の中で現実と結び付かない。

 ――僕達が独房から廊下に出ると、暗闇に立っている人影が見える。暗くて良く見えないが、それは隣の部屋……柏木望の独房の前だ。

「あなた!危ないですよ!早く逃げないと!」
「……君は?見たことある顔だわね……」
「え?あなたは……」
「センケ……ワタシノ……オシエゴ……クックックッ」
「そう……千家。こんな所にいたの。また補習をしたいのかしら……」
「何を……言ってるんだ?こんな状況で…………」

柏木望の独房の前には霧川先生が立っていた。

「霧川先生!説明は後だ!早く逃げな――え?」

 目の前の霧川先生があろう事か、銃を手に持ち銃口を僕に向ける。

「え?何をして……るんですか?」
「何を?千家君はおかしな事を言うわね。悪い子にはお仕置きが必要なんですよ?」
「先生、そんなもん人に向けたら――」


『カチ――バァンッ!!』


一瞬だった。彼女は躊躇なく引き金を引いた。

「千家様!危なっ――!!」

 銃弾は手を伸ばした凛子の腕を貫通し、血が飛び散り、僕の耳をかすめて行く。

「え?」
「ギャァァァァァァッ!!」
「凛子ォォォォォ!!」

凛子が悲鳴を上げ、美甘が凛子の腕を抑える。

「ヘヘヘ……サヨコ……ヤラセロヨ……ハァハァ……」

 柏木望が壊れた独房のドアを外し、霧川先生の足にしがみつく。まるで壊れた玩具の様に……。

「ちっ、気味の悪い……。柏木望。お前は新薬の実験台でもう用済みなんだよ……今日はお別れを言いに来たんだ」
「サヨコ……ヤラセテ……」


『カチ――バァンッ!!』


「アガ……!」
「柏木先生……!?」

 霧川先生が柏木望の脳天を銃で撃ち抜く。そのまま地面に這いつくばり、動かなくなる柏木望。

「おいっ!!霧川先生!あんた何をしてるんだ!気は確かか!」
「おやおや……千家君はもう少し賢い子だと思っていましたが……」

『カチ……』

霧川先生はポケットからタバコを取り出し火を点ける。

「ふぅ……。私は霧川小夜子。数百年前から千家の家系を恨む者。何度も生まれ変わり、その度に千家の命を狙ってきた。今思えば何とも……幸せな人生か」
「何を言ってるんだ……人を殺しておいて何が幸せな人生だ!狂ってやがる!」
「はっはっはっ!何代続いても千家は正義感があってよろしい。それでこそ殺しがいがあると言うもの……」
「お前の目的は僕だろ!他の人を巻き込むな!」
「いやいや。今回のターゲットは千家のみではない。全国の千家の末裔がいる場所で災害を起こし、あたかも千家がいると災いが起こるという歴史を作りたかったのだよ。わかるかね?この壮大な計画が。そして柏木白子を使い、その計画を実行した……」
「柏木白子?白子もお前の命令で動いてたのか!」
「ふふふ。気付くのが遅かったわね。未来を知る者ならば3月11日に災害が起こると予想する。だけど私は腹黒いのよ……3月10日に術式を完成させれば、と白子に命じたの。白子はそうとは知らずに一生懸命、災害が起こる術式を全国で作ってくれたわ……ふふふ……あっはっはっは!!愉快だわ!!」
「白子は……元から災害を止める為にやってたのか……!それが災害を起こす引き金になるとも知らずに……!!」
「だからそう言ってるじゃない?そろそろ警官が来る頃ね。お別れよ。この時代では私の勝ちの様ね。千家……さようなら――」
「くそぉぉぉ!!」


『カチ……!!』
「漆黒の太刀――影り月――!!」
『バァン!!』
『シュンッ!』

 銃声が轟くのとほぼ同時に、夢夢が持つ刀が霧川先生の右腕を切り落とす!!

「ギャァァァァァァ!!」
「夢夢かっ!」
「千家様!!」

右腕を切り落とされ、叫ぶ霧川小夜子。

「ご無事ですか!千家様!」
「助かった……」
「おのぉれぇぇぇぇ!!」

 霧川先生が自分の落ちた腕から銃を取ろうとする。夢夢が霧川先生と僕の間に立ち、剣を構えた。

「そこまでだっ!!動くな!!」

通路の補助灯を頼りに数人の警官が駆けつける。

『カチ――バァン!バァン!!』
「撃ってきたぞ!盾を用意しろっ!」

霧川先生が銃を取り発砲する。

「霧川先生!逃げるのかっ!」
「覚えておけよ、千家!貴様は絶対に許さない!」

 そう言い残し、霧川先生は防弾ガラスであろう窓に向かって飛びこんだ。
 先程、窓に向かって撃ち込んだ銃弾でひび割れたガラスは、霧川先生が飛び込む事でいともたやすく割れた。

ガッシャン!!

「おい!ここ5階だぞ!下に周れ!救急車の手配だ!」
「はぁはぁ……霧川先生……」
「凛子!大丈夫か!」

夢夢が凛子の傷口を確かめ止血する。

「あね様……大丈夫です。それより早くあの者を……」
「凛子!病院が先だ!掴まれ!」
「ちょいとお待ちなさい――」
「片桐刑事……!」
「千家さん、無事で良かった。遅くなって申し訳ない」
「片桐刑事!今はあんたの事情聴取を受けている暇はない!」
「わかっています。状況も先程、警官から聞きました。行きなさい。その子は私が責任を持って病院に連れて行きます」
「片桐刑事……。信じてもいいのか?」
「ご主人様……行って下さい……足手まといにはなりたくないです……」
「凛子……わかった。夢夢、行くぞ」
「はい、千家様。美甘、凛子を頼んだ」
「はひ!あね様!」
「そうそう千家さん。下に車を用意させてます。私の部下なのでご自由に――」
「……ありがとう、片桐刑事」

 補助灯を頼りに夢夢と2人で車へと向かう。エレベーターは止まっている。仕方なく、非常階段から1階へ降りて行く。

「夢夢、やることは3つだ。霧川先生の拘束、真弓の保護、小夜子の……」
「千家様?どうされました?」
「いや……小夜子?偶然なのか。霧川先生と同じ名前だ……」
「そう言えばそうですね。あまりに違和感がありますね」
「あぁ……まさか南小夜子と関係があるのか……」

 ――駐車場では片桐刑事の部下が待っていた。辺りではサイレンの音や、慌ただしく走る警官の姿が見える。

「お待ちしてました。片桐刑事から話は聞いています。どちらに向かいましょうか」
「すいません、東海浜医療専門学校へお願いします!」
「わかりました」

 時刻は15時20分になろうとしていた。無線とラジオで地震の状況が流れてくる。

『――14時46分に発生した地震は震度6強、震源地は東海沖でマグニチュード……』
『――ガガ――こちら東浜交差点。信号が消え渋滞を確認。ひき逃げの目撃情報も有り。応援を要請する。繰り返す――こちら――ガガ』

「千家様、西奈真弓さんは東海浜医療学校におられるのですか?」
「あぁ、3月11日であれば自宅にいると言っていた。しかし3月10日は学校説明会があると……。3月10日なら大丈夫だと思い、特に何も忠告しなかったんだ……」
「そうなのですか……。千家様、大変言いにくいのですが海岸からは引き返すのがよろしいかと」
「え?どうしてた?また大きな地震が来るのか」
「いえ……地震も来ますが、この災害は地震よりも――」

夢夢が有珠から聞いた話を説明してくれる。

「そんな……!それがこの災害の……」
「えぇ、大きな被害が出たのは先の地震ではなく……そう有珠様は言っておられました」
「時刻は聞いているのか?」
「はい、ただズレも生じているかもしれません。先程からラジオと無線を聞いていますが、まだ情報がありませんし、千家様の携帯電話にも――」

夢夢がそう言おうとした瞬間だった。

『ピロピロピロン――』

携帯電話が鳴った。

『津波警報発令――』

「夢夢……これが……!」
「おそらく、有珠様の言われてた……」

『緊急地震速報です。数十秒後に大きな揺れが起こる可能性が――』

矢継ぎ早に、地震速報もラジオから聞こえる。

「揺れてますね。千家さん、少し車停めますね」
「はい」

刑事の判断で路肩に停車し揺れが収まるのを待つ。

『この先500メートル渋滞です』
「どうやらこの先の東浜交差点から渋滞ですね。回り道は……」
「東海浜医療専門学校まではどのくらいですか」
「あと1キロ程ですが、渋滞次第では15分……いや20分はかかるかと思います」
「夢夢、行こう。刑事さんありがとうございます。ここから歩きます」
「大丈夫ですか?十分気を付けてください」
「ありがとうございました。片桐刑事にもお礼を言っておいてください」
「わかりました」

 車を降り、交差点に向かって走る。交差点を右折してあとは真っ直ぐ海の方向へ向かうだけだ。
 東浜交差点は信号が消え、大渋滞している。クラクションの音がひっきりなしに聞こえ、罵声も聞こえる。救急車も確認出来たがこの渋滞で動けない様だ。

 なぜだろう。その時、急に有珠の言った言葉を思い出す。虫の知らせと言うやつだろうか。

『――南小夜子を死なせるな』

僕は胸騒ぎがし、事故現場であろう交差点へと向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐の旋律

北川 悠
ミステリー
 昨年、特別賞を頂きました【嗜食】は現在、非公開とさせていただいておりますが、改稿を加え、近いうち再搭載させていただきますので、よろしくお願いします。  復讐の旋律 あらすじ    田代香苗の目の前で、彼女の元恋人で無職のチンピラ、入谷健吾が無残に殺されるという事件が起きる。犯人からの通報によって田代は保護され、警察病院に入院した。  県警本部の北川警部が率いるチームが、その事件を担当するが、圧力がかかって捜査本部は解散。そんな時、川島という医師が、田代香苗の元同級生である三枝京子を連れて、面会にやってくる。  事件に進展がないまま、時が過ぎていくが、ある暴力団組長からホワイト興産という、謎の団体の噂を聞く。犯人は誰なのか? ホワイト興産とははたして何者なのか?  まあ、なんというか古典的な復讐ミステリーです…… よかったら読んでみてください。  

土葬墓地にて

小林マコト
ミステリー
「五年前の春、百合の花畑の真ん中で、白い花の中にいくつかの赤い花を咲かせて、母は死んでいました――」 ある女が死んだ。女はよく好かれる人物だったが、一方では憎まれ、嫌われ、妬まれていた。 ある男はその女と関係のあった者に、一年ごとに話を聞き、その女の人柄やそれにまつわる出来事をまとめていく。 物書きであった女の、最期の最高傑作であるとされるその死に、一体何の目的があったのか―― 全八話、小説家になろうでも同じものを投稿しています。

100年の恋

ざこぴぃ。
ファンタジー
 ――2039年8月、千家春文は学校で奇妙な石碑を見かける。 「夢子、あの石碑って……」 「えぇ、ずいぶん古い物ですね。確か100年前の戦没者の慰霊碑だとか。この辺りも空襲で燃えたらしいですわ……」 「へぇ……夢子、詳しんだな」 「まぁ、でも……いえ。何でもないです」  何だか歯切れの悪い言い方をするな……とも思ったが追求する必要もなく、僕達はそのまま千草に校内の案内をして周り、無事に学校説明会が終わった。 ……… …… …  テーブルには新聞が置いてある。何気に手に取り、目を疑った。 『1939年8月9日月曜日』 「は?え?1939年?え?」  何度か見直したが西暦は1939年だった。指折り数える。 「えぇと……令和、平成があって……その前が昭和……あっ、書いてある。昭和14年……!?」  新聞は漢字と平仮名表記ではあるが、所々意味がわからずペラペラと捲る。 ……… …… …  100年前の世界へタイムリープした春文。そこで起こる数々の出会い、別れ、試練……春文の運命は?  無事に元の世界へ帰る事はできるのか!? 「10年後の君へ」と交わる世界観のファンタジー 「100年の恋」――最後までお楽しみ下さい。 ■□■□■□■□■ 執筆 2024年1月8日〜4月4日 公開 2024年4月7日 著・ざこぴぃ。

ペルソナ・ハイスクール

回転饅頭。
ミステリー
私立加々谷橋高校 市内有数の進学校であるその学校は、かつてイジメによる自殺者が出ていた。 組織的なイジメを行う加害者グループ 真相を探る被害者保護者達 真相を揉み消そうとする教師グループ 進学校に潜む闇を巡る三つ巴の戦いが始まる。

死後の世界が科学的に証明された世界で。

智恵 理侘
ミステリー
 二〇二五年九月七日。日本の研究者・橘紀之氏により、死後の世界――天国が科学的に証明された。  天国と繋がる事のできる装置――天国交信装置が発表されたのだ。その装置は世界中に広がりを見せた。  天国交信装置は天国と繋がった時点で、言葉に出来ないほどの開放感と快感を得られ、天国にいる者達との会話も可能である。亡くなった親しい友人や家族を呼ぶ者もいれば、中には過去の偉人を呼び出したり、宗教で名立たる者を呼んで話を聞いた者もいたもののいずれも彼らはその後に、自殺している。  世界中で自殺という死の連鎖が広がりつつあった。各国の政府は早々に動き出し、天国教団と名乗る団体との衝突も見られた。  この事件は天国事件と呼ばれ、その日から世界での最も多い死因は自殺となった。  そんな中、日本では特務という天国関連について担当する組織が実に早い段階で結成された。  事件から四年後、特務に所属する多比良圭介は部下と共にとある集団自殺事件の現場へと出向いた。  その現場で『heaven』という文字を発見し、天国交信装置にも同じ文字が書かれていた事から、彼は平輪市で何かが起きる気配を感じる。  すると現場の近くでは不審人物が保護されたとの報告がされる。その人物は、天国事件以降、否定される存在となった霊能力者であった。彼女曰く、集団自殺事件がこの近くで起こり、その幽霊が見えるという――

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

Springs -ハルタチ-

ささゆき細雪
ミステリー
 ――恋した少女は、呪われた人殺しの魔女。  ロシアからの帰国子女、上城春咲(かみじょうすざく)は謎めいた眠り姫に恋をした。真夏の学園の裏庭で。  金木犀咲き誇る秋、上城はあのときの少女、鈴代泉観(すずしろいずみ)と邂逅する。だが、彼女は眠り姫ではなく、クラスメイトたちに畏怖されている魔女だった。  ある放課後。上城は豊(ゆたか)という少女から、半年前に起きた転落事故の現場に鈴代が居合わせたことを知る。彼女は人殺しだから関わるなと憎らしげに言われ、上城は余計に鈴代のことが気になってしまう。  そして、鈴代の目の前で、父親の殺人未遂事件が起こる……  ――呪いを解くのと、謎を解くのは似ている?  初々しく危うい恋人たちによる謎解きの物語、ここに開幕――!

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

処理中です...