10年後の君へ

 2020年8月。千家春彦はある事がきっかけで、2010年8月にタイムリープする。
 そこで自殺したはずの同級生、南小夜子から連絡が入る。それは春彦の人生を狂わせていく事になる……。

………
……


 ――無邪気に笑う真弓を見て、なぜか懐かしさを感じる。僕の元いた世界は2020年。今から10年後だ。でももうほとんど覚えていない。今いるこの世界に元から産まれ育った感覚さえある。
 車椅子を握る手に力が入る。この世界でも真弓と2人で歩んで行きたい……。

「あっ!いたいた!おぉい!真弓!春彦!」
「美緒!遅い!どこまでトイレ行ってたの!もう!」
「ごめんごめん!あまりに混んでたから道路向かいのコンビニまで行ってた!」
「おかげで私達はめでたく結婚しましたぁ!」
「え!?ちょっと!何その指輪!!春彦!もうプロポーズしたの!早くない?」
「してないしてない。それはくじ引きの景品だ」
「あぁ、そうなんだ。はいはい良かったでちゅねぇ、真弓ちゃん。よちよち」
「春彦君!何でバラすの!もう!」
「えぇぇぇ……」
「ぷっ!あははは!」

 こんなに笑う真弓を見るのはいつぶりだろう。胸の奥で熱くなるものがある。

………
……


「手を!!手を伸ばせ!!もう少し!」
「もう駄目……私の事はもういいから……春彦君だけでも……お願い――」
「うるさい!!もう少し――!!」
「うぅ……!!」

 彼女はもう助からない。そんな気はした。それでも僕は必死で手を伸ばしている。
 それは罪滅ぼしなのか、自己満足なのか……?
 ――そして彼女は最後に笑って言った。

「ありがとう……」

と。

「いやだ……いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 いつか夢で見た風景がデジャブとなり目の前で起きている。「夢なら覚めてくれ!」そう願うがそんな奇跡も起こることは……無かった。

◆◇◆◇◆

執筆2023.11.17〜12.25
公開2023.12.31

本編
『10年後の君へ』
著・雑魚ぴぃ

番外編
『10年前のあなたへ』
著・桜井明日香

挿入歌
『Akaneiro』『光が見えるとき』
著・桜井明日香

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