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番外編(読み切り)
おしながき
しおりを挟む―――コリータ王国―――
世界の崩壊から数年後……平和になったこの国コリータで、僕は日々の雑務に追われていた。
「マリン、この書類はやり直してくれ」
「しかし国王様!この書類を不許可に致しますと私がプリン様に怒られてしまいます!」
「かまわない。毎月プリンを1000個も注文するな……」
カチャ……!
「ハルトぉぉ!腹へったぁぁ!」
「ハルトぉぉ!腹へったぁぁ!」
アリスとプリンが執務室に入って来る。
「あぁ……今、ちょっといそがし……」
断ろうとすると、アリスがすかさず僕の耳元でささやく。
「父上……ゼシカの下着姿が国中にバラまかれても良いとおっしゃるのですな……?」
「ですな?」
ガタンッ!!
「よ、よし、食堂に行くか」
「ちょ、ちょっと!国王様!この書類は――」
「マリン、後は任せた!」
何年か前のゼシカの下着写真をふところからチラ見させるアリス。ゼシカが聞いたら卒倒しそうだ。
◆◇◆◇◆
カタン……。
「国王様、お茶でよろしいにゃ?」
「あぁ、クルミ。ありがとう」
「クルミ!わしはイカ焼きを所望じゃ!」
「私はたこ焼き!」
「わかりましたにゃ!アリス様はイカ焼き……プリン様はたこ焼き……と。少々お待ち下さいにゃ」
よく気が効く。立派になったな、クルミ。
「ハルトよ、かちどんて知っておるか?」
「かちどん?聞いたことないな……何かの遊びか?」
「いや、食べ物じゃ。大昔にの、お主の母君が一度だけ食べさせてくれたのじゃが、思い出したら食べたくなってのぉ……」
「ねぇさま、それは美味しいの?」
「白いご飯の上に卵がいっぱいでの、しかもお肉まで……あれは神の食べ物じゃ」
「美味しそうっ!!ねぇさま!私も食べてみたいっ!」
目を輝かせアリスの話に食い付くプリン。
「……ご飯に卵……肉……かちどん……かちどん……!あっ。カツ丼か」
「そう!それじゃ!かちどん!」
複製されたこの体では記憶が定かではないが、母さんが作ってくれたカツ丼が美味しかった記憶が確かにある。
「お待たせしましたにゃ。イカ焼きとたこ焼きですにゃん。何のお話ですかにゃ?」
「クチャクチャ……クルミよ!クチャクチャ……かちどんていう美味しい食べ物があっての……クチャクチャ……」
「アリス、食べながら話すな」
「かちどん?ですかにゃ。初めて聞いた食べ物にゃ」
「ごくん。うむ、この世界では失われた……神の食べ物じゃ」
「はふはふ……ねぇさま……はふはふ……かちどんは……はふはふ……」
「プリンも食べながら話すな」
カツ丼か。作れない事はないか。
「カエデはいるか」
「はっ!ご主人様!」
天井から降りて来て、テーブルの上でポーズを決めるカエデ。もう忍者だな。
「レディと手分けして今から言う材料を揃えてくれ。あと、メリダにここへ来るように伝えてくれ」
「はっ!」
◆◇◆◇◆
――2日後。
なぜかバニーガールの格好をしたレディがワカメに絡まれ、卵を抱えた司祭のメリダと、オークを倒して返り血を浴びたカエデが帰ってくる。
「ご主人様、オークを討伐して参りました」
「旦那様、ワカメを何に使うのじゃ?」
「あなた、卵はこれでいいかしら?」
卵を抱えたメリダがすり寄って来る。
「ほぅ、メリダ。わしの旦那様に色目を使うとはいい度胸じゃの」
「何ですって!レディさん!そんなやらしい格好をしてワカメを持った変態は話かけないでもらえませんかっ!」
「なんだとぉ……」
ワカメまみれのバニーガールが司祭を威嚇する。
「はいはいはい、もう喧嘩はしない。とりあえず、カエデはお風呂に入って来てくれ……ついでにレディも……」
「はっ!ご主人様!」
「旦那様!ワカメ風呂になりますぞ!」
「ならないよ。ワカメは厨房で脱いでいって……さて、マリン。料理長にこの材料を渡して、お昼に皆を食堂に集めてくれ。試食会をしよう」
「はい、国王様。すぐに手配を――」
◆◇◆◇◆
「はらへった!はらへった!」
「はらへった!はらへった!」
お昼時、遊びから帰ってきたアリスとプリンが机を叩く。この2人は毎日遊んでるな……。
「国王様、オークの肉を揚げ終わりました。あとは……」
「卵を溶いて肉と一緒に……そうそうダシも忘れずに。メリダ、そっちはどうだい?」
「はい、あなた。時の砂を使い、無事に醗酵し終わっております。これをどうすれば?」
「時の砂?あぁ……あれね。う、うん……味噌はお湯の中でこう溶いて、刻んだワカメを入れて……」
厨房に美味しそうな香りが広がり、食堂ではアリスとプリンがまだかまだかと大騒ぎしている。
「料理長、メリダ、とりあえず20人前どんどん作ってくれ、僕は出来上がったのを運んでいくよ。マリン、クルミ!厨房を手伝ってくれ!」
「はい!国王様!しかし何て良い匂い……」
「お腹ペコペコだにゃ……」
食堂にはすでに皆が集まっていた。
「皆、お待たせ!コリータ王国特製の『かちどん』の出来上がりだよ!」
「うひょぉぉぉぉ!!」
「ごくり……!」
アリスとプリンがぴょんぴょん跳ね回り、レディとカエデもちょうどお風呂から上がって来たみたいだ。
マリンとクルミが出来上がったかちどんをテーブルに並べて行く。そしてメリダが特製ワカメの味噌汁を配膳する。
食堂はかちどんと味噌汁の良い匂いが漂い、皆、まだかまだかと待っている。配膳が終わり、料理長含め、全員が席に着く。
「えぇ!それではアリスの希望で、かちどんと味噌汁を試食したいと思います。頂きます!」
『頂きますっっ!!』
――カパッ!
何という事でしょう!かちどんの入った器の蓋を取ると、中から半熟卵をかけた揚げたお肉が姿を現します。と同時に、鼻を甘い卵の香りが抜けていきました……!
「はぁぁぁぁぁ……」
食堂に皆の幸せなため息が聞こえる。
「ごくり……ハルト……頂くぞ……」
「あぁ、アリス、食べてみてくれ」
自信はあるが、豚肉ではない。この世界で調達できる物で作ったカツ丼だ。見た目、匂いは再現出来ている。あとは……。
「……サクッ!」
アリスがとろとろの卵で包まれた肉と白いご飯を一緒に食べた。
皆がアリスが食べるのをじっと見ている。時間が止まったかのように静けさが訪れる……。
そして時間が動き出す――!
「うっっっまぁぁいいい!!あつっ!ふぅふぅ!むしゃむしゃ!」
箸が止まらなくなり、どんぶりを持って口へかきこむアリス。
皆、それを見て一斉に食べ始める!
「んんんっ!?な、なんですの!この美味しさは!?プリンと同じ位、美味しい……!」
例えが良くわからないプリン。
「お肉が柔らかくて半熟卵がとろけて……あぁ、幸せ。このお味噌汁というのもコクがあってワカメが美味しい……幸せ」
マリンが完璧な食レポをこなす。さすが秘書。
「もぐもぐもぐ……おかわりっ!!」
「私も!!おかわり!!」
おい。レディ、カエデ。いくら何でも早すぎる。飲んだだろ。
「ちょっと待て!まだ食べ終わってない!」
「国王様、これは完璧な仕上がりに御座います。レシピをまとめておきます」
「料理長頼んだよ」
メリダもクルミも美味しそうに食べている。
「はぁ……美味い、こんな美味しい食べ物があるなんて。サクッとして、トロっととろける……幸せ」
「ほんとにゃぁ……美味しすぎてアゴが伸びるにゃぁ」
クルミ……伸びるじゃなく、アゴが外れるね。いや、そもそもアゴじゃなくてほっぺが落ちるだけどね。
「うむ!うますぎる!!ハルト!良くやった!褒めてつかわす!」
こうして、アリスのお墨付きをもらい、試行錯誤で作ったかちどんと味噌汁は好評のうちに全て食べ終えた。
「げふ……もう食えぬ……」
「げふ……ねぇさま……食後のプリンを食べませぬと……」
「まだ食うんかい」
◆◇◆◇◆
――数日後。
「ハルト!!らんめんが食いたいっ!わしはらんめんを所望するぞっ!しっしっし!」
「ねぇさま!らんめんてなんですの?」
「らんめんと言うのはだな、こう細いツルツルのな……」
アリスの食へのこだわりはまだ終わらない。
レストランを作って世界に広めるか。儲けが出れば、毎月プリン1000個も継続可能かもしれないな。
僕は国作りに続き、レストランの経営を始める事になるのであった。
『おしながき・かちどん味噌汁セット』
ーおしまいー
※この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません
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