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番外編(読み切り)
オオスメ様
しおりを挟む―――コリータ城食堂―――
「ううむ……」
朝食後、頭を抱えているアリスに話しかける。
「アリス?何を悩んでいるんだ?」
「朝、わしの机の上にこんな紙切れがあったのじゃ」
「ん?紙切れ?」
テーブルの上には1枚の紙切れが置いてあり、そこにはこう書いてある。
【オオスメミツケタ】
「字が……下手だな……。いや、そうじゃない。オオスメて何だ?」
「朝から『オオスメ』が気になってご飯もおかわりできなんだ……」
それで良いんだよ、アリス。食べ過ぎは良くない。
「アクア、オオスメって何かわかる?」
魔法書、古文の解読を得意とするアクアに聞いてみる。
「……オオスメ?聞いた事があるような、ないような。ねぇさん知ってる?」
「そうですわねぇ……ゲンゴロウさんなら知ってるんじゃないかしら?」
「そうか、ゲンゴロウさんか。アリス行ってみるか」
「うむ」
僕はアリスと東町に住む竜族の長、ゲンゴロウを尋ねる。
「おぉ、知ってますぞ。ここから南に行った森にオオスメ様はおられますじゃ」
「何とっ!オオスメ様というのか!」
アリスが興奮気味に食いつく。
「はい。しかし……何でも昔からオオスメ様の姿を見た者は……」
「見た者は……?」
ゴクリ。
見た者は、呪いや死が待っているとでも言うのか。
ゲンゴロウの次の言葉を待つ。
「見た者は……」
「見た者は……?」
「いないとか」
『いないんかぁい!!』
思わず、アリスとハモってしまう。でもこれでオオスメ様とやらの居場所はわかった。ゲンゴロウにお礼を言うと、僕とアリスは南の森へ向かう事にした。
◆◇◆◇◆◇◆
うっそうと茂った森の中を進んでいく。もう2時間は歩いただろうか。
「こんな森の中にいったい何がいると言うんだ」
蜘蛛の巣が顔にかかり、きちゃきちゃする。
「ハルトよ、そこを右じゃ。あそこに何か建物らしき物がある」
僕の胸にある宝石から顔を出すアリス。
「あのねぇ、言うのは簡単だけど歩いてるのは僕なんですけど!」
「やかましい!つべこべべ――」
「あっ。噛んだ……」
「あらあらまぁまぁ」
アリスをなぐさめるきりん。もうお母さんだな。それからしばらく建物を目指して歩く事10分。
「ここがオオスメ様の……」
草ぼうぼうの寂れた神社があった。
「すいません!誰かおられますか!」
返事はない。静まり返る境内……。
「すいません!誰も――」
『……様、ハルト様。オオスメの件、わかりました』
「わっ!ビックリした!」
アクアから念話器で連絡が入る。タイミングの悪さに悪意を感じた。
『何でも南の森の中にある神社が昔そう呼ばれてたそうです』
ゲンゴロウの言った話と合致した。
「それで?」
『はい。なんでも御神体が、大天主太神様と呼ばれていたそうです』
「オオモトスメ……あんだって?」
「オオモトスメオオミカミです」
アリスが小窓から出てきて、自慢気に復唱しようとする。神の威厳を示そうとしてるらしい。
「こほん。オオモスメオミモオ――」
ほとんど言えてない。結構最初の方で噛んだ。
「あぁ……そういう事か!」
「何がじゃ?わしは噛んでないぞ」
「いやアリス、そうじゃなくて。たぶんだけど……皆、言いにくいから『オオスメ様』って略してたんじゃないか?」
「あっ!」
『あっ!』
アリスとアクアがハモった。
「まぁ、たぶんそんなところだとは思うけど……。紙には【オオスメミツケタ】てあったよな。でもこの神社はもう……」
天井は抜け落ち、社も朽ち果てている。周囲も探してみたが何も見つからない。
「帰ろうか」
「そうじゃの……」
後日、これも何かのご縁と思い、ゲンゴロウ達にこの神社の修繕を任せ、祀る事にした。
………
……
…
「ねぇさま!どこに行ってたんですか!ずっと探してたのにっ!」
帰るやいなや、プリンが駆け寄ってくる。
「朝な、わしの部屋に置き手紙があっての。オオスメとか言うのを探しに行ってたんじゃ。結局、見つからなかったがの」
「あっ!ねぇさま!読んでくれたのなら言ってくれたら良かったですのに!これを見て下さいまし!」
プリンが袖から何かを取り出す。……ごそごそ。
「これ見て下さい!南町のクヌギでオオクワ見つけたんですよ!」
「……え?」
「……え?」
今一瞬、僕の頭の中によからぬ想像が巡った。アリスも同じ事を思ったのか、こっちを見る。
プリンに念のため聞いてみた。
「あの手紙を書いたのはプリンか?」
きょとんとするプリン。
「なんですの?ハルト。さっきからそう言ってるではないか」
「オオスメミツケタ、て書いたあったぞ?」
不思議そうな顔をするプリン。
「オオスメ?……横文字は苦手でわかりませんわ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
一気に疲労が押し寄せてくる。プリンが、オオクワとオオスメを書き間違えただけだったみたいだ。
「はぁ……とんだ誤解じゃった様だ」
肩を落とすアリス。しかしめげない。
「……プリンよ。そなたのオオクワはわしがもらうっ!神妙に捧げよっ!」
「それはねぇさまでも無理ですわ!このオオクワは誰にも渡しませ――!」
「待てぇぇ!」
「キャァァァ!!」
しばらく2人のやり取りを見て思った。
オオスメ様もこのやり取りを見てどこかで笑ってるんじゃないかって……あっ。
※この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません
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