上 下
111 / 113
番外編(読み切り)

オオスメ様

しおりを挟む

―――コリータ城食堂―――

「ううむ……」

朝食後、頭を抱えているアリスに話しかける。

「アリス?何を悩んでいるんだ?」
「朝、わしの机の上にこんな紙切れがあったのじゃ」
「ん?紙切れ?」

 テーブルの上には1枚の紙切れが置いてあり、そこにはこう書いてある。

【オオスメミツケタ】
「字が……下手だな……。いや、そうじゃない。オオスメて何だ?」
「朝から『オオスメ』が気になってご飯もおかわりできなんだ……」

それで良いんだよ、アリス。食べ過ぎは良くない。

「アクア、オオスメって何かわかる?」

魔法書、古文の解読を得意とするアクアに聞いてみる。

「……オオスメ?聞いた事があるような、ないような。ねぇさん知ってる?」
「そうですわねぇ……ゲンゴロウさんなら知ってるんじゃないかしら?」
「そうか、ゲンゴロウさんか。アリス行ってみるか」
「うむ」

 僕はアリスと東町に住む竜族の長、ゲンゴロウを尋ねる。

「おぉ、知ってますぞ。ここから南に行った森にオオスメ様はおられますじゃ」
「何とっ!オオスメ様というのか!」

アリスが興奮気味に食いつく。

「はい。しかし……何でも昔からオオスメ様の姿を見た者は……」
「見た者は……?」

ゴクリ。
見た者は、呪いや死が待っているとでも言うのか。
ゲンゴロウの次の言葉を待つ。

「見た者は……」
「見た者は……?」
「いないとか」
『いないんかぁい!!』

 思わず、アリスとハモってしまう。でもこれでオオスメ様とやらの居場所はわかった。ゲンゴロウにお礼を言うと、僕とアリスは南の森へ向かう事にした。

◆◇◆◇◆◇◆

 うっそうと茂った森の中を進んでいく。もう2時間は歩いただろうか。

「こんな森の中にいったい何がいると言うんだ」

蜘蛛の巣が顔にかかり、きちゃきちゃする。

「ハルトよ、そこを右じゃ。あそこに何か建物らしき物がある」

僕の胸にある宝石から顔を出すアリス。

「あのねぇ、言うのは簡単だけど歩いてるのは僕なんですけど!」
「やかましい!つべこべべ――」
「あっ。噛んだ……」
「あらあらまぁまぁ」

 アリスをなぐさめるきりん。もうお母さんだな。それからしばらく建物を目指して歩く事10分。

「ここがオオスメ様の……」

草ぼうぼうの寂れた神社があった。

「すいません!誰かおられますか!」

返事はない。静まり返る境内……。

「すいません!誰も――」
『……様、ハルト様。オオスメの件、わかりました』
「わっ!ビックリした!」

 アクアから念話器で連絡が入る。タイミングの悪さに悪意を感じた。

『何でも南の森の中にある神社が昔そう呼ばれてたそうです』

ゲンゴロウの言った話と合致した。

「それで?」
『はい。なんでも御神体が、大天主太神様オオモトスメオオミカミサマと呼ばれていたそうです』
「オオモトスメ……あんだって?」
「オオモトスメオオミカミです」

 アリスが小窓から出てきて、自慢気に復唱しようとする。神の威厳を示そうとしてるらしい。

「こほん。オオモスメオミモオ――」

ほとんど言えてない。結構最初の方で噛んだ。

「あぁ……そういう事か!」
「何がじゃ?わしは噛んでないぞ」
「いやアリス、そうじゃなくて。たぶんだけど……皆、言いにくいから『オオスメ様』って略してたんじゃないか?」
「あっ!」
『あっ!』

アリスとアクアがハモった。

「まぁ、たぶんそんなところだとは思うけど……。紙には【オオスメミツケタ】てあったよな。でもこの神社はもう……」

 天井は抜け落ち、社も朽ち果てている。周囲も探してみたが何も見つからない。

「帰ろうか」
「そうじゃの……」

 後日、これも何かのご縁と思い、ゲンゴロウ達にこの神社の修繕を任せ、祀る事にした。

………
……


「ねぇさま!どこに行ってたんですか!ずっと探してたのにっ!」

帰るやいなや、プリンが駆け寄ってくる。

「朝な、わしの部屋に置き手紙があっての。オオスメとか言うのを探しに行ってたんじゃ。結局、見つからなかったがの」
「あっ!ねぇさま!読んでくれたのなら言ってくれたら良かったですのに!これを見て下さいまし!」

プリンが袖から何かを取り出す。……ごそごそ。

「これ見て下さい!南町のクヌギでオオクワ見つけたんですよ!」
「……え?」
「……え?」

 今一瞬、僕の頭の中によからぬ想像が巡った。アリスも同じ事を思ったのか、こっちを見る。
 プリンに念のため聞いてみた。

「あの手紙を書いたのはプリンか?」

きょとんとするプリン。

「なんですの?ハルト。さっきからそう言ってるではないか」
「オオスメミツケタ、て書いたあったぞ?」

不思議そうな顔をするプリン。

「オオスメ?……横文字は苦手でわかりませんわ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 一気に疲労が押し寄せてくる。プリンが、オオクワとオオスメを書き間違えただけだったみたいだ。

「はぁ……とんだ誤解じゃった様だ」

肩を落とすアリス。しかしめげない。

「……プリンよ。そなたのオオクワはわしがもらうっ!神妙に捧げよっ!」
「それはねぇさまでも無理ですわ!このオオクワは誰にも渡しませ――!」
「待てぇぇ!」
「キャァァァ!!」

 しばらく2人のやり取りを見て思った。
 オオスメ様もこのやり取りを見てどこかで笑ってるんじゃないかって……あっ。


※この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...