異世界ざこぴぃ冒険たん

ざこぴぃ。

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この世界の希望

第105話・長い旅路の果てに

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―――コリータ王国南門―――

「待たれよっ!!お主、その剣をどこで!!」
「いや……記憶がなく……ずっと持ち歩いていますが……この剣が何か?」

 彼の腰から下がっている剣は……神器・天十握剣アメノトツカノツルギだった。

「え……うそ……じゃ……ま、まさか……旦那様……?」
「旦那様?すいません、何も覚えてなくて……」

 レディは男に近付き、長く伸びた彼の髪をかき上げる。ボサボサの髪に伸びたひげ。だが、その彼の目を見てすぐにわかった。

「え……何です……か?」
「間違いない……!旦那様……旦那様ぁぁぁぁ!!うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと!!」

 号泣し、彼に抱きつくレディ。それを見たビルが気付く。

「あれって……国王……?ハルト様だ!!急ぎマリン様にお知らせを!!」
「は、はいっ!」

………
……


バタンッ!!

「おねぇちゃん!!はぁはぁはぁ!」

 興奮するアクアが執務室に入って来るが、姉のマリンはアクアの姿を一瞥いちべつすると、また仕事を続ける。

「どうしたの。騒々しい」
「南門にハルト殿がっ!!」
「……どうせまた偽物じゃないの。以前にもこの国を乗っ取ろうと――」
「ぐす……今度は本物みたい……なの。今、レディさんが確認したって……!」

 そう話すアクアの体からは魔法壁マジックシールドが展開されている。それはアクアの興奮状態が最高潮に達してる事を指していた。
 ガシャン!!カラカラカラ……!

「す、すぐに皆を集めて!確認しに行くわっ!」

バタンッ!!

「大変です!エル様!」
「――ははは!それでね、あの人が言うのよ!おかしくって……ん?ギル?どうしたの、そんなに慌てて」
「そ、それが!門兵が南門に国王様らしき人がいると!!」
「……え。うそよ……だってハル――」
「……エル、行きましょう!」
「ぼくもいくっ!!」

 ――コリータ王国南門。

「本当に旦那様だ。ご無事で……うぅ」
「すいません。本当に覚えていないんです。人違いじゃないですか?」
「いいや、その剣は神器・天十握剣アメノトツカノツルギ。この世に1本しかない。わしがあなた様に預けた剣なのじゃ……間違えるはずがない」
「困ったな、そう言われても……。水は助かりましたが、日が暮れるまでにそろそろ行っても――」

 キィィィィン……!カタカタカタカタッ!
 彼を引き止めるかの様に、腰にぶら下げた剣から甲高い音が鳴り響く。

「うぅ……頭が……」

彼は頭を抱え、その場にうずくまる。

「レディさん!!はぁはぁはぁ……!」
「レディ!!ハルト、ハルトがいるの!?」

走ってくるマリンとエル達。

「本当にハルト様……なの?」
「ハ……ル……トッ!!」

 涙が溢れ出す彼女達。
 走って来た青い髪の彼女が腰にぶら下げた2本の黒刀も音を立てて共鳴し始める。

『カタカタカタカタ……!』
「あなた……なの?」
「ハルトッ!」

 彼を愛おしそうに見つめる青い髪の彼女と、眼鏡をかけた女の子。
 そしてエルが持っていた魔法剣が激しく光だし、その場を支配する。

「うぅっ……頭がっ!!」

ザァァ……!
彼の頭に直接話しかける様に魔法剣がさらに輝きを増す!

『約束じゃぞ。わしはいつでも一緒におる。忘れるな』
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドサ……彼はその場に倒れ、意識を失った。

「――急ぎ救護室へ!!」
「はっ!」

………
……


◆◇◆◇◆

 ――数日後。

「……目が覚めましたか?あなた」
「うぅ……」
「ふふ。手クセは治らないものね」

 左手で彼女の胸を揉んでいる。あぁ、この感触はエルか。右手は……ゼシカか。この上でもぞもぞしてるのはリンか。懐かしい記憶が徐々に戻ってくる。

「ゼシカ?リン?そんなバカな事が……」

目を開けると、そこには見慣れた3人の女性がいた。

「……ゼシカ?リン?なんで……?」
「おかえりなさい。あなた!記憶が戻ったみたいね!ふふ」
「ハルト、おはようっ!」

 ゼシカとリンを抱きしめると、エルが耳元でささやく。

「月子様がね……言ってたの。アリス様の完全複製でハルト、プリンさんは蘇り、ゼシカとリンはアリス様のお願いで複製してあるって」
「私とリンは……もう元の人としてではないけれど、複製体とし魂を移し替えた、と言われたわ」

 ゆっくりと体を起こす。僕は寝間着を着せられ、自室で寝かされていたらしい。鏡に映る自分の姿は、やせこけてしまってはいるが妙に懐かしい。長い長い夢を見ていたようだ。

「起きれる様になったら、お風呂に入ってプリン夫人に会いに行くわよ」
「プリン夫人?プリンもここにいるのか?」
「それは会ってからのお楽しみよ」

コンコン……カチャ!

「失礼しますにゃ。皆さん朝食の準備が……!!」

言いかけて、クルミが僕に気付く。

「ご主人様っ!!」

僕に抱きつき号泣するクルミ。

「ただいま、クルミ。よしよし……」
「わぁぁぁぁ!!ごちゅじんちゃまぁぁぁぁ!!!」

あぁ……帰ってきたんだな、そう実感する。
それから僕はクルミとリンに手伝ってもらいお風呂に入る。

「ゴシゴシゴシゴシ……!」

 髪を切り、ひげを剃り、やせこけた自分が鏡に映る。胸の宝石は無くなり、傷跡が残っていた。

「アリス……」
「ご主人様!終わったにゃ!」
「あぁ、クルミ、リンありがとう」

………
……


 お風呂から上がると、綺麗な洋服を着せられ、王広間へとクルミとリンが手を引いてくれる。
 カチャ……ギィィィィィ……!

「皆!ハルト様のご帰還なのにゃぁ!!」
「なのだぁぁぁぁぁ!!!」
『オォォォォォォォォォ!!!』

歓声と拍手があがる!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
そこには話を聞いた大勢の仲間達が待っていた。

「おにぃちゃんっ!!」

チグサが駆け寄ってくる。

「チグサ……!サルト、メリダ……!それに皆……!!」
「父上!よくぞご無事で……うぅ」
「良かった……本当に良かった。マリアねぇさんありがとう!」
「あらあらまぁまぁ」
「国王様……うぅぅ……」
「師匠、泣き過ぎじゃ。わしまで……また……うぅ」
「良かった。本当に。良かった」
「えぇ……この日を待ってました」
「この世界も捨てたものじゃないですね」
「えぇ……神様がいるのですよ、この国には」
「ご主人様……うぅうぅ……」
「はぁぁ、びっくしすぎて疲れたよ」
「うぅえぐっうぅぅぅ……」
「国王様、おかえりなさいませ」
「旦那ぁぁぁぁ!!!うぅぅ!」
「長生きはするもんじゃのぉ……うぅ」
「おかえりなさい。あなた」

僕の前に、青い髪をなびかせる1人の女性が立つ。

「ハルト……あらためて、おかえり」

僕はゼシカを抱きしめる。

「ただいま、ゼシカ。もうどこにも行くなよ」
「うん!うんっ!うぅ……」

 彼女の目からは涙が止まらなかった。横にいた眼鏡をかけた女の子も声を上げる。

「ゼシカばっかりずるぅい!!ぼくも!」
「ぐす……わかったわかったわよ!もう!ふふ……」

ゼシカとリンに手を引かれ僕は王座に向かう。
そして王座にはプリンの姿があった。

「プリン……!」
「ハルト……ずっと待っていたの……ですわ……!」

 涙声のプリン。と、プリンの横に1人の少女がいる。5~6歳だろうか。窓から朝日が差し込み、顔がよく見えない。すると少女が急に声をあげる。

「バカハルトッ!いつまでわしを待たせる気じゃ!!」
「えっ……!?その声は――!」

聞き覚えのある声だった。

「我はこの大陸の創造神!アリス・ウメ・コリータ・プリンであるっ!!」
「ア……リ……スッ……!!」

涙が止まらなかった!
生きていた……アリスが生きていたのだ!
いや、この姿は転生したのか?
そこには小さくなったアリスがいた。

「バカモノ!泣くな!こっちまで……」

涙を流すアリス。僕はアリスを抱きかかえる。

「アリスッ!会いたかった!!」
「バ、バカ!降ろせっ!恥ずかしいじゃろ!!」

そして僕の頭を撫でながら、彼女はこう言った。

「おかえりじゃ、ハルト……」

その言葉で全てが、今までの全ての記憶が蘇る。

「ははっ……!ただいま、うめこ!」

かぁぁぁぁと赤くなるアリス。

「うめこ言うなぁぁぁ!!」

ガブッ!

「痛い!痛い!頭を噛むな!!」
「ふふっ。この光景がまた見れるなんて夢の様ですわ……」

涙を流しながらプリンが笑う。
僕は数年ぶりに王座に座る。眼下の懐かしい面々。
皆、拍手で迎えてくれた。

「皆……ただいま。迷惑をかけてごめん。またよろしくっ!」
『オォォォォォォォォォォォォォ!!』

割れんばかりの歓声と拍手が起こる。

「国王様!おかえりなさいませ!」
「マリン。ところでなぜプリン夫人で、アリスはちっこいんだ?」
「えっと……プリン様は5年前にお子様をご出産されまして」
「は?」
「時期的にも国王様のお子様であると。そしてゼシカ様がご正室を外れられ、協議した結果、プリン様がご正室になられました」
「はい?」
「そして産まれたお子様がアリス様でした」
「え?子?僕の?アリスが?」
「はい」

王広間に沈黙が流れる。

………
……


「ええぇぇええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

にやにやするプリン。

「これからよろしく頼みますわ。旦・那・様!」

口角を上げ、悪い顔をしているアリス。

「父上、わしは今すぐイカ焼きを所望するぞ!」

そして僕は答える。

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

こうして、僕の長い長い旅は一区切り着いたのだった。

………
……


 その日の夜、昼間仕事に行っていた子供達や、ネプちん、お菊、そして月子、白兎……。関わってきた全ての種族が集まり、僕の帰還を喜び祝ってくれた。
 この瞬間が、この世界が、この国が永遠に続けばいいと思えた……。
 長い旅路の果てに僕の夢はついに叶ったのだ。
 
「皆……ありがとう」
















「わしはのお主とずっと一緒じゃ!しっしっしっ!」
















『異世界ざこぴぃ冒険たん』―完―


引き続きエピローグもお楽しみ下さい!
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