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南の大陸の下僕
第93話・モノグイ
しおりを挟む―――ウェスタン城内―――
「混沌の地より生まれし光、我の声に答え、導け。我はこの世界を作るもの也……その名は!!聖なる守護神!!」
バサァァァ!!!
王広間に羽根を広げた大天使が現れると、城内が光に包まれ、兵士達に完全回復と生命帰還が同時に付与される。
――死する者は天へと導かれ、瀕死の者は蘇る。……そしてウェスタン国王は2度と目を覚ます事はなかった。
バサァァァ……!聖なる守護神は役目を終えると徐々に姿が見えなくなり消えていく。と同時に全身が激しい疲労感に襲われ立っていられなくなった。
「はぁはぁはぁ……僕の出来る事は……ここまでだ……疲れた……しばらく休……もう……」
バタンッ!!僕は王広間に倒れ込むとそのまま意識を失った。
―――異次元空間神の社―――
「おーい。生きておるかー」
「つんつん」
「あらあらまぁまぁ」
「鼻に指を入れてみるかの」
ぷす。
「ふんがぁ!!」
危うく窒息するかと思った。
「何してんだっ!!アリス!少しは休ませろっ!」
「なんだ、生きておるではないか」
「ぷふぅぅ!ふんがぁ!て言いましたわ!キャハハ!ふんがぁ!ふんがぁ!キャハハハハ!」
プリンが大爆笑している。お前らは悪魔か。
「あのなぁ、こっちは死ぬかと……」
「何度も死なせてしまい、すまなかった。今回も複製しておる。わしの弟のせいだ。本当にすまなかった」
アリス、月子、そしてプリンまでも土下座をして謝った。
「あ……やっぱり僕は死んだのか。いやいいんだ。僕の弱さのせいだ。ははは……はは……」
起き上がり、ポンっ!と手を叩くアリス。
「うむ。その通りじゃ。お主が悪い」
「そーだ!そーだ!」
「それも一理あるな」
「ねぇ――よっ!!」
疲れる。
「で、月子がどうしてここにいるの?」
「うむ。トウヤに呼ばれてな」
「トウヤ?素戔嗚尊を師匠と呼んでた……あのトウヤ?」
「そうじゃ。スサオを止めて欲しいと頼まれてな」
「ミヤビもベリアルも無事だ。天之叢雲はベリアルが持ち出して、トウヤに奪われたのではなく渡したそうだ」
「あぁ……そういう事か。スサノオにバレないように一芝居うっていたと?」
「うむ。トウヤもすでにアンデッド化が始まっておったそうじゃ。それは天之叢雲による実験……アキネの日記にもあった様にの……。トウヤはアンデッドになり自我を失う前にスサオを殺すつもりじゃったのだろう。しかしあの大広間にはわしらが居合わせた。天之叢雲の呪いがその場にいる者を巻き添えにしてしまう事を考え、ハルトに託したのじゃ……。トウヤはの、既に死を覚悟しておったのじゃよ」
「それであの時、トウヤは舌打ちを……」
アリスが懐から1枚の手紙を取り出す。それは以前にアリスが月子からもらった手紙だった。
そこにはナツト、アキネ、トウヤが万が一死んだ場合は魂を一時的に保管しておく、と書かれていた。
「全てはアキネのおかげじゃよ。アキネはトウヤと接触しておる。ベリアルともな。スサオを止めるために数百年もの間、希望を捨てずに生きておった。たぶんじゃがチハヤやリン、メリーへの……せめてもの償いだったのかもしれんのぉ……。そしてハルトが見た悪夢はアキネが見てきたチハヤ達の姿……だったのじゃ」
「あぁ……あの悪夢か……。結局ナツト達の魂はどうなったんだ?」
「それはわしから説明する」
「月子……」
「あやつらはねぇさんが複製した存在。そもそもこの世界に存在しない人間、言わば魂としてあるのじゃ。その魂をわしらが――」
あぁ……不思議体験か。説明が難しくてついていけない。
「――で月子、3人はどうなったんだ?」
「地獄門をくぐった肉体はもはやこの世界には戻れず冥府へと行くのじゃが……元々、魂しかないあやつらはそのままゲート内で今も浮遊しておるはず。わしが後で迎えに行く事にした」
ぽかーんと口を開けて聞く。神様のする事は想像を超えていて良くわからない。けれど皆無事みたいで安心した。
「素戔嗚尊と天之叢雲……か。最悪の組み合わせだったんだろうな」
「うむ。スサオが天之叢雲の強大な力を手にしなければこんな歴史にもならなかった……かもしれないの」
「スサオの固有スキルは吸収と言う。わしの物真似スキルも奪われ、その能力も大いに使われた。わしのミスでもあるのじゃ……すまなかった」
「月子……」
「月子よ、お主は地下牢に捕まっておったのじゃろ?自分を責めるな。その能力も世界樹に言えばまた元に戻るじゃろうて」
「そうじゃ。それを白兎に聞いてくる様に頼んだのだが、あれから戻ってこぬ。どこかで見なかったか?」
「あの兎は確か……」
月子の手前、正直に言うべきか僕が悩んでいるとプリンが横から口を出す。
「兎はですね!世界樹の近くでクワガタを探してたわ!」
「何とっ!クワガタがおるのかっ!」
「わしは持っておるぞ!ほれ!」
裾から、クワガタを取り出すアリス。そんなとこにしまっていたのか。いや、月子も食いつくな。
「どうじゃ!月子よ!これがクワガタじゃ!カッコ良かろう!」
「……アリス。クワガタ弱ってるよ?ご飯あげてる?」
「へ?」
慌てふためくアリスを見て皆、大笑いした。それで白兎はどうした?とも思ったが誰もふれなかった。
――そして僕の意識はまた遠くなっていく。
あれ?僕は今、ハルトに戻ったんだよな。もう四季じゃないよな……そんな事を考えていた。
―――コリータ王国自室―――
「あぁ……体が重い」
複製に慣れてきたとは言え、瞬間的に死を体験し新しい体に変わってることに変わりはない。また1からこの体に馴染まないといけない。
「ん?この感触は……まさか!」
このパターンは右手がエル。左手が……この大きさはゼシカ?か。そうなると乗ってるのがリンだな。
何度も目覚めのパターンがあったのでだいたいわかってきた。そして僕はうっすら目を開ける。
右手が……アリス。左手はきりん?そして乗ってるのがプリン。
「なんでだよっ!」
思わず飛び起きる。
「むにゃ……ようやく起きたか」
「ねぇさま、ハルトがおかしいですわ……」
「すぅすぅ……」
思ってたのと違ってて思わず声が出た。
「あれ?ゼシカ達は……?」
「それが……」
歯切れの悪いプリン。アリスも何も言わない。どういう事だ?またイタズラで僕をびっくりさせようとしてるのか。
そこへ1人の兵士が僕達を呼びに来る。
「失礼します。アリス様。エリサ医師がお呼びです」
「うむ。ハルト、動けるか」
「あぁ……嫌な予感はするが」
僕達は医療室へと向かった。
―――コリータ王国医療室―――
「あぁ……ご主人様」
「エリサ、何があった?」
「実は――」
エリサが状況を説明する。
「ゼシカとリンが……?」
「はい。命は取り止めてますが、大変危険な状態です」
エルがゼシカの手を握り、クルミがリンの手を握っている。
「なぜこんな事に……?」
「……」
アリスが腕組みをして考えている。
「回復魔法も神族魔法も……効いていたはずなのに」
「お2人だけではないです。兵士の中にも似た症状の方が数人います」
「……もしや、者食いか」
「アリス、モノグイって……?」
「誰の固有スキルじゃったか覚えてはおらぬが、スサオはそれを吸収しておったのかもしれぬ。相手の体内に寄生虫を住まわせ、自身の魔力に変換して食らう」
「でも本人はすでにゲートの中にいるじゃないか」
「そうなのじゃ。魔力を吸収する者がおらぬゆえ、寄生虫が体内で暴れておるのかもしれぬ。スサオが死んでおれば寄生虫も死ぬ、固有スキルも持ち主に戻る。じゃが……生きておればおそらくそれは継続される。肉体的なダメージというより精神ダメージというところか」
「どうすればいい……?」
「なぁ、月子よ。世界樹でお主の力が戻れば治す事は可能か?」
月子が異空間の窓から顔を出す。
「うむ。やってみないと何とも言えぬが、精神ダメージを和らげるスキルはある」
「月子頼むっ!一緒に世界樹まで行ってくれ!」
「わかった、一緒に行こう。白兎の事もあるしな」
僕は月子と共にエルフの里まで転移し、そこからきりんに乗り世界樹へと向かった。
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