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南の大陸の下僕
第88話・妖精の果実
しおりを挟む―――クラウド教会―――
「あぁ、エル……会いたい」
「え?今……エルって……?」
聞き間違いかと思い、聞き直す。
「娘の名前は……エェ・ルゥ」
彼女の唇はそう優しく答えた。それの意味するものは、まさかのエルの母親だった。
「なんじゃ、エルの母か。エルならわしらとコリータ国で暮らしておる。元気じゃぞ!」
「えっ!?ほんとですかっ!!!あぁ……神様、あの子が元気でいてくれるなんてっ!!ありがとうございます!!」
感動のシーンだった。生き別れた子の元気な姿を思い浮かべる母親。そして背中を冷や汗が流れる僕。
「よ、良かったですね!はは……はは……」
動揺が隠しきれない。
「はいっ!ありがとうございます!」
涙を流しながら喜ぶエリサ。冷や汗を流しながら動揺する僕。
「どうじゃ?この依頼が済んだら、お主もコリータに住んだら良いではないか。のぅ、ハルト。こやつはこう見えてコリータの国王。エルも手ごめじゃしのぉ。しっしっし」
ガーーーーン!バラしちゃった。そのうちバレるけど。しかし展開が早すぎて頭の整理がつかない。
「え……国王様?エルと……?」
「さ、そろそろ帰って休みたいな!エリサさんまたゆっくりと!」
「え……あ……はい」
「うむ。帰ってお昼にしよう!」
「おひるっおひるっ!」
嬉しそうにスキップするアリスとプリン。単純で良かった!!帰り際、僕の後ろから小声でエリサが言った。
「……決めました。私達、親子は身も心もあなた様に一生尽くします。ご主人様」
「ははは……は……はは……ははは……」
僕は引きつりながら笑うしかなかった。
◆◇◆◇◆
――数日後。
アリス達を連れてキウイ山に向かう。
「留守番はもう嫌にゃーーー!」という流れもあり、クルミも付いて来ていた。
エリサから連絡はない。それはそれでちょっと怖いけど、きっと……なんとかなるっ!!
「のぉ、ハルト。山を登るのは時間がかかる。きりんで頂上まで行こうではないか」
「さんせいっ!」
「それもそうか。わざわざ登山する必要はないな」
「お任せ下さい」
きりんが空を蹴り上昇していく。
僕の体にある小窓から顔を出し、はしゃぐアリスとプリン。クルミも僕に掴まり一緒にはしゃいでいる。
―――キウイ山頂上付近―――
「きりん。あそこに見える広場に行けるかい?」
「はい。大丈夫です」
すぃぃぃと、広場に降りていくきりん。広場からは山頂と洞窟が見え、周りには美味しそうな実のなった樹木が生い茂っている。
「クルミ隊員!あの実を試食じゃ!」
「はいにゃ!」
クルミがスルスルっと木に登り、実を落としていく。
「いただきまぁす!ぱくっ!」
「むしゃむしゃ……ゴックン……」
……急に静かになる3人。
「うまおいデリにゃぁぁぁぁ!」
「はいはい」
同時会話に慣れてきた。
さて、この洞窟に妖精王がいてくれたらいいのだけど。すると、洞窟内から足音が聞こえる。
――カツン……カツン……カツン……。
「皆!戦闘準備っ!!洞窟に何かいるっ!」
陽の光の下に、眩しそうに出てくる生物。
僕は黒刀を構える。
「ア……ァ……ゴ……ュ……サ……マ……」
それは体の半分が崩れ落ちたゾンビだった。ゾンビが近付くと、異臭が辺りに漂う。
「……?チガ……ウ…………」
「……お主。もしや複製体か?」
「アリス?複製?このゾンビが?」
「コロ……シ……」
ゾンビが命じると、洞窟内からワラワラと魔物やアンデッドが出てくる。
「クルミはプリンの掩護!アリスときりんは上空へ!行くぞ!」
――ザシュッ!ザシュ!!僕は魔物の群れに斬り込んで行く。50体くらいか。それなら……!
「漆黒の太刀月陰!!」
――ザシュザシュザシュザシュザシュ!!
手応えなく倒れていく魔物達。プリンもこの狭い場所では大型魔法が使えず、通常の火球で応戦中だ。
アリスは上空から採れたて果実を投げつける!りんごくらいの硬さはあるかもしれない。
――ザシュュュュ!!
「ふぅ……これで全部か」
「アァァ……コロ……シテ……」
殺して……そう聞こえた気がした。
「やはりおかしいのぉ。あの呪いを解くには……はっ!そうじゃ!クルミッ!!お主の短剣でヤツの心臓を刺すのじゃっ!!」
「アリス様!はいにゃ!!ニャニャニャニャッ!!」
――ザシュ!!ゾンビは抵抗する事もなく、心臓にクルミの短剣が突き刺さる!すると短剣が金色の光を放ち放電した!
バリバリバリバリッ!
「キャァァァ!!」
吹き飛ばされるクルミ。
「クルミ大丈夫かっ!!」
「大丈夫にゃっ!!」
「あの光はまさか、天之叢雲の呪いっ!?」
そう言えばカエデやクルミ達の武器には折れた天之叢雲の欠片が使われている!
「うむ。どうやら正解のようじゃな」
体が溶け出すゾンビ。
「アァァァ――」
シュゥゥゥゥゥゥ……!ゾンビは白い水蒸気になり消えていく。
「ア……リ……ガ……」
『ありがとう』そう言いたかったのだろうか。跡形もなく、ゾンビは消滅した。
「アリス。あれはいったい?」
「1人心当たりはあるのじゃが……憶測でしかない。とりあえず、洞窟散策が先じゃ」
ポチャン……ポチャン……。
そこはジメジメとした洞窟だった。匂いもきつい。光玉を飛ばしながら進んでいく。数十メートル入った所で洞窟は広がり、そして行き止まった。床には魔法陣らしきものがあり無造作に武具や宝石が落ちている。
「あのゾンビがここで生活していたのか」
妖精王がいるとかいないとか、そういう話ではなかった。他に何もなかったのだ。やはりただのウワサ話か。
1冊の日記を見つけたが、ボロボロで何が書いてあるのかわからない。背表紙にはゾンビの生前の名前であろうものが書かれていた。
【秋音】
「アキネ……?」
「ほらぁ!ハルト!行くぞぉ!むしゃむしゃ……」
洞窟の入口からアリスの呼ぶ声が聞こえ、僕も洞窟を後に外へと出る。
「はいにゃ。ご主人様の分にゃ!」
クルミが果実を1個差し出してくれる。
「ありがとう、クルミ。いただきます。むしゃむしゃ……!?」
「ご主人様、どうにゃ?」
「んっ!!うまいっ!甘くて柔らかくて、桃とりんごを合わせたような果実だ」
「良かったにゃ!」
「これはうまいにゃ!」
「……ハルト、何か言うたか?」
「いいえ。すいません」
クルミの真似をしたら大いにスベった。しかし、この果実は持って帰って育てられないだろうか。
「――分析」
ザァァ……!目の前に文字が現れる。
『name・妖精の木 品種・妖精の果実 南大陸の一部に生息 精製すると妖精の蜜になる 栽培方法――』
ザァァ……!
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
むしゃむしゃ食べるアリス達を止める!
「んにゃ?」
「その食べてる果実がっ!妖精の蜜が作れる果実ですっ!ハァハァハァ……」
「ごっくん」
『……えぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!!!』
アリス&プリン&きりん&クルミが叫ぶ。
間に合ったか。しかし、そんな事とは知らずに食べてたとは……。
「げふ。あぶなかったな……げふ」
「げふ。まだたくさんあるから大丈夫ですわ、げふ」
「……んっふっ。ふふふ、んっふ」
「にゃふ。お土産用でいっぱい持ってるから大丈夫!にゃふ」
「お前ら食べ過ぎだ」
とりあえず妖精の蜜の果実は見つけた。後は精製方法か。僕達はウィンダの町へと一旦戻る事にした。
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