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南の大陸の下僕
第86話・エリサの愛
しおりを挟む―――ウィンダの町―――
ウィンダ町のギルドに着いた。
「こんにちは、ちょっと教えて欲しいんですけど」
「はいはぁい!ちょっと待っててくださいねぇ!」
忙しそうに動き回る受付のお姉さん。何だか昔のマリンを見ている様で懐かしい。
「はぁい。お待たせしました!ご用件は?」
「キウイ山脈に妖精王がいるという話を教えてほしいんだけど」
「あぁ、それでしたら、あちらにおられるパイソンさん達が詳しいですね!お名前を教えてください。冒険者リストを見てみます」
僕は名前を記入し、しばらく待つ。
「お待たせしました!ハルト・センケさん、ですね。初回登録からCランクのままですね。手続きされましたか?」
そういえば、言われてたけどしてない気がする。
「あぁ、色々あってCランクで構わないんだけど、キウイ山には入れるんですか?」
「キウイ山はBランク以上ですが、Aランク冒険者同行であればCランク可になっています。任務はアンデッド退治ですね。報酬は金貨100枚と現地でのドロップアイテム……ですね。ちょっと待っててくださいね!」
昨日、宿屋で聞いた話とほぼ同じだな。
「こちらがパイソンさんと、カリナさんです。2人共、Aランク冒険者です」
「よう、にいちゃん。キウイ山に行きたいんだって!?」
「はじめまして、カリナです。よろしくおねがいします」
「ハルトです。よろしくおねがいします」
パイソンはいかにもって感じのガタイの良い戦士風の男、カリナは魔法全般が得意な小柄な魔道士と言ったところか。似ていないが、兄妹らしい。
「キウイ山に付き合ってやってもいいが、報酬は7︰3だ。それ以外は受けねぇ」
「10︰0で構いません。妖精の蜜が手に入れば他はいりません」
「ほぅ……言うじゃねぇか。気に入った。妖精の蜜とやらは知らねぇが付き合ってやるよ。明日出発な。町の入口に集合だ。時間は――」
その後、手続きを済ませギルドを後にする。明日はクルミとプリンは置いていこう。
―――宿屋―――
「まだ時間あるから皆で買い物行ってくるにゃ!」
「あぁ、気をつけてな」
宿に帰るとクルミ達は買い物に出掛けた。アリスとプリン、きりんとクルミは2階の4人部屋。僕は1階の1人部屋で宿を取っている。
明日になったらキウイ山へ………ベッドで横になっていると、いつの間にかウトウトと眠ってしまっていた。
………
……
…
ザァァ……!
気が付くと、上空から足下を見下ろす僕。
「あれは……ガッコウ?」
ガッコウの屋上で何かを拾い集める女性の姿が見える。黒色の短い髪の女性……そして彼女が上を見上げると、僕と目が合った気がした。
ザァァ……!
…
……
………
「ん……夢か……」
どのくらい寝ていたのか。目が覚めると外はいつの間にか暗く、クルミ達もすでに買い物から帰って来ていた。一緒に晩ご飯を済ませ、明日の打ち合わせをした後、また部屋に戻って来る。
「ご主人様!また明日にゃ!」
「遅くまで起きてたら駄目だよ」
「はいにゃ!」
ふぅ……明日の準備も出来たし、ちょっと早いけど横になるか。
コンコン……コンコン……。
「ん?誰だ?」
ドアの方ではなく、窓の方から音がした。
カチャ……。
「誰だ?」
「エリサです。夜分にこんなところから失礼します」
おじぎする彼女。
「あぁ、構いませんが……ちょっと待ってくださいね」
彼女の手を引き、部屋へ招き入れる。
「よっと。どうしたんですか?こんな時間に」
「すいません。玄関へ行ったら、宿泊者以外は出入り時間過ぎていまして……」
私服だろうか。昼間の司祭の服ではなかった。お風呂上がりなのだろう、石鹸の良い香りがする。
「あ、いえ。今日はその……2人でゆっくりお話する時間がなくて」
窓を閉めようとする僕。エリサも気付いて、窓を閉めようとする。と、お互いの手がふれる。
カチャン……。
2人の間に沈黙が流れる。閉めた窓ガラスに映る僕とエリサ。
ドキドキドキ……。僕は衝動にかられ、エリサを後ろからそっと抱きしめる。
「ハルトさん駄目です……」
と言いつつ、抵抗はしない彼女。こちらを向きうつろな目をしている。
「ハルトさん……今日はその……あの……。倒れた際に口が……」
「……灯り消しますね」
こくんとうなずく彼女。僕がランプを消すと部屋は真っ暗になり、そのまま2人でベッドに座る。
ミシ……と、ベッドがきしむ音がした。
「ハルトさん、何も聞かないんですか……?」
「あぁ……それは野暮だろう」
「……はい。今日の事はお互い、終わったら無かった事にしてくれますか」
両腕を僕の首に回し、耳元でささやく彼女。
「わかった。約束する」
「ありがとう……んん」
彼女の方からキスをしてきた。何度も何度も……。
「はぁ……」
彼女の髪からいい匂いがする。彼女は僕の服を脱がせ、彼女も自分で服を脱ぐ……。
「あなたごめんなさい」そう聞こえた気がした……。
………
……
…
――翌朝。
チュンチュンチュンチュン……。
目が覚めると彼女の姿は無く、置いてあった手紙に『ありがとう』と一言だけあった。
コンコンッ!
「ハルト!起きろ!朝ご飯じゃ!」
アリスの声がする。
ギシギシギシ………カチャ。
「おはよう、すぐ行く。ふぁぁぁ」
まだ夢の中にいるみたいだ……。
―――食堂―――
僕達が食事をしていると、突然町内のサイレンが鳴った。
『ウゥゥゥゥゥゥゥ……!!』
「何だ?」
『ウィンダギルドから非常事態発令です!冒険者の皆様は大至急東門にご集合ください。繰り返します。ウィンダギル――』
「非常事態発令?」
『ウゥゥゥゥゥゥゥ……!!』
サイレンが鳴り響く。
「何事だ?」
「さぁの。魔物でも攻めて来たかの?」
「プリンとクルミはここでそのまま待機してくれ」
「ご主人様!わかったにゃ!」
「う……うん……」
「クルミ、プリンを頼んだよ」
「はいにゃ!」
プリンはウトウトしながら朝ご飯を食べている。僕は部屋に戻り支度をし、アリスと共に東門へと向かう。東門にはパイソンさん、カリナさんの姿も見えた。
「パイソンさんカリナさん、おはようございます。どうしたんですか?」
「あっ!ハルトさん、おはようございます」
「おう!にいちゃん。すまねぇな。今日はキウイ登山は中止だ。あれを見てみろ!」
パイソンが指差すキウイ山の方角に、魔物の群れが見えた……。空には無数のドラゴンも飛行している。
「あと1時間もしないうちにウィンダに着きそうだな。さすがにあの数とドラゴンはやべぇよ」
パイソンが少し震えている様に見えた。
「お兄ちゃん。皆には申し訳ないけど、これは逃げたほうが……」
「……カリナ、そいつはできねぇ。最悪、お前だけは逃がすが俺は逃げられねぇ」
ほう、男らしいことを言う。立派立派。
東門には数百人の冒険者が集まってはいるが、ざわざわとまとまりがない。
「おいおい、この冒険者達で大丈夫なのか?」
「ふぁぁぁぁ。何かと思えば烏合の集ではないか。マスターロードドラゴンに比べたら、ありんこじゃ」
「そりゃそうだ」
アリスが眠たそうにあくびをする。そう言えばプリンも眠そうにしていたな。……あれ?このパターン以前にもどこかで……。
「冒険者の皆!これはまれに見る激しい戦いになると思う!町を守るため、全員死ぬ気で戦って欲しい!」
「お、おぅ……」
ギルドマスターの号令と、歯切れの悪い冒険者達。駄目だなこれは……全員無駄死にだ。
「はぁ……目立ちたくないのに」
「ハルトさっさと終わらせてくれ、わしは寝る」
「もう、アリス。僕だって数百の魔物相手は……あっ!そうだ。試したい魔法があったんだった。アリス、アレを試してみるから耳栓しといてくれるか」
「アレか……。それは面白そうじゃの、わかったのじゃ」
カツンカツンカツン……。
僕は1人城壁の上へと上がる。
「なんだ、君は?」
「ランクCの冒険者です」
「ランクCの冒険者は後ろに下がっておれ!」
「はいはい……」
僕はギルド長を無視して、城壁の上に立った。
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