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南の大陸の下僕
第83話・神器天十握剣
しおりを挟む―――エルフの里―――
エルフの里へと、世界樹の苗をもらいにきた僕達。蓮の妖精ジュリの話では、古樹から産まれた新しい世界樹が元気がないと言う。
「うむ。妖精の蜜をかけたら良いのではないか?」
そこにいた全員が驚愕する。アリスが……まともな事を言ってる気がする!
「いや、わしもな。昔、大地に木を植えた所なかなか育たぬ事があったのじゃ。そこで妖精の蜜をかけた所、偶然にも成長する事がわかったのじゃよ」
水着にサングラスをかけた少女が言うと、とても違和感がある。
「妖精の蜜って……まさかっ!以前、プリンの鼻くそでリンゴの木が成長したとか言ってたな!」
「……ハルト、私を見るな。妖精の蜜は鼻くそではないわ」
「プリンの鼻くそは時間は進めれるが、栄養ではない。見るに世界樹に必要なのは栄養と耐性じゃな」
プリンの鼻くそは『時の砂』と呼ばれ、希少なマジックアイテムである。
「そういえば宝物庫で甘い匂いのする薬品がクルミにかかって急に成長したような……」
「それだっ!!妖精の蜜は甘い匂いがする!」
ザ……ザァァァァ……!
僕は念話器でクルミに話かける。
「もしもしっ!クルミ、クルミッ!」
「――人様!ご主人様!あぁ産まれるぅ~!ご主人様!!」
「………?」
ガチャ……。
レディに繋がってしまった。やり直し。
ザァァァァ………!
「……もっと!もっと強くぅぅぅ……」
ガチャ……。
「なぜだ、念話器が繋がらない。きりん、コリータまで一旦取りに帰ろう」
「はい、ご主人様。もしかしたらエルフの里の結界で念話器が誤作動しているのかもしれませんわね」
「うむ。わしらは温泉にでも入って待つとするか」
そして僕はきりんに乗って一旦コリータに帰ることにした。
―――コリータ王国―――
「ただいま、クルミはいるかい?」
「ご主人様!おかえりなさいませっ!クルミにしますにゃ?それとも私のミルクにゃ?」
これ教えたのアリスだな。
「それよりも、マリンに言って宝物庫を開けてくれ。この前のクルミが大きくなった薬を取りに来た。あと念話器が誤作動するからドムドさんに改良を頼む」
「わかりましたにゃ!ご主人様!」
パタパタパタ……!
宝物庫の前でしばらく待っていると、クルミが走って来る。
……パタパタパタパタ!!
「持って来たにゃ!」
クルミが宝物庫の鍵を開けた。
カチャカチャ……カチャン!キィィィィ……。
「確かこの辺に置いといたはず……あれ?」
妖精の蜜が入った瓶を棚の上に置いたはずなのに見当たらない。
「おかしいな、瓶が無い」
――バタン!
急にドアが閉まって室内は真っ暗になる。
「こらっ、クルミなんにも見えないじゃない……か!?んっ!!」
「んんんんん……!ペロリ。ご主人様、今度こそ頂きます!」
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇい!!」
暗闇でクルミの目が光る。僕には何も見えないが、クルミは見えているのだろう。さすがは猫族!いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「クルミッ!いい加減にしないと怒るよっ!」
ビクッ!とするのがわかった。しまった!と言ってから気付く。
「……ヒック。ご主人様も私をブツのですかにゃ?ヒック……ヒック……」
クルミが元奴隷であることをすっかり忘れていた。
「あぁ……すまない。言い過ぎた。ごめん」
クルミを抱き寄せ、いい子いい子する。
「ヒック……わかってくれたらいいのれす。大人しくしててくださいにゃ……ヒック」
僕の耳元で囁やきながら、服を脱ぎ始めるクルミ。
スルスルスル……。
「いや、クルミ。それとこれとは別の話で――」
バタンッ!
「国王様、遅くなりました!そういえば、よう……せ……キャァァァァ!!」
「へ?」
泣いている下着姿のクルミと、廊下の明かりが眩しくて、しかめっ面の僕……。
ドアを開けたマリンの目には、僕が強制的に服を脱がせている様に見えたのだろう。
マリンの叫び声を聞き、衛兵達が走ってくる!
「え?」
「マリン様!どうされましたっ!!」
「この人!変なんですっ!」
「そうです、わたすが変な……え?」
危うく、つられそうになり踏みとどまる。
「違うんだって!これは誤解でっ!」
「クルミッ!どうなのっ!」
「ご主人様が……ブツって言うから……」
「国王様を牢屋に閉じ込めてください!」
「はっ!国王様!失礼します!」
近衛兵2人に両腕を抱えられ連れて行かれる僕。まさかっ!これが俗に言う『ハニートラップ』!!
……ガチャン!
地下牢で反省するようにマリンにきつく言われた。
「……あのぉ。国王様、開けましょうか?」
牢屋の守衛が声をかけてくる。
「いや、いいんだ。たまには反省しないと」
「は、はぁ……」
「ところで他に捕まっている人はいるのかい?」
「いえ。奴隷商をウェスタン王国に送ってからは誰も入ってませんね。これも治安の良いこの国ならではと思います。国王様のおかげです」
「そうなのか。道理で牢屋に誰もいな――」
『ご主人様、忙しいところ失礼します』
「うん?忙しくはないね。何もできな……わっ!ビックリした!誰!?」
振り向くと、カエデが牢屋の中にいる。どうやって入ったんだ!?
「ご主人様、ネプチューン神殿の東町に魔物が出まして、今、ねぇさんが抗戦中です」
「わかった!すぐ行くっ!守衛さん!君!名前は!」
「はっ!ビルです!」
「ビルッ!すぐにマリンに伝えてくれ!防御壁発動準備を!僕は東町へ向かう!」
「はっ!お気をつけて!」
「ご主人様、掴まって下さい。行きます!転移!!」
シュシュシュ――!!
「消えた……」
あ然とするビルは、マリンに一部始終を報告しに行った。
―――ネプチューン神殿東町―――
「くっそ!数が多い!カエデはまだかっ!皆!町の外へ避難を!!」
シュッ!!
東町の入口に転移する僕とカエデ。
「ご主人様!着きました!あそこです!」
「わかった!光の雨・改!!」
空から光の雨が魔物だけを貫いていく。これが改良版、光の雨。魔物の魔力に反応して自動追尾する。
「旦那様っ!!かっけーー!」
僕に気付き、腰をくねらせるレディ。さすがは人魚族、なめらかな動きだ。いや、今はそれよりも魔物を!!
僕は剣を抜くっ――!!スカッ!!
「ん?あぁぁぁぁぁ!剣がないっ!!牢屋の入口で預けたのだった……」
「旦那様!これを使って下さい!!」
レディから剣を受け取る!
「これはっ!天十握剣か!!」
「私には妖刀村正がある!それは旦那様が使われよ!!」
「レディ様!避難完了!全員町外へ出ました!」
「わかった!旦那様!住民の避難は終わってます!後は魔物を――!」
「よしっ!魔物共!町を壊すなっ!」
僕はレイド戦で見た、レディの放った奥義を試みる!
『天十握剣!海斬覇ッッ!!』
天十握剣が水しぶきをあげ、水龍が魔物めがけて切り裂いていく!!
『コホォォォォォォォォォ!!』
雄叫びを上げ、水龍が町を縦横無尽に駆け抜ける!!
「あ、あれ?レディ!こんな龍出てたっけ!!」
「いえっ!私が使った時は!ただの水でした!」
「レディがマスターロードドラゴンの尻尾を切った際に使った技を真似したんだが……」
水龍が魔物達を飲み込み切り刻んでいく。1体、2体、3体、4体……!
魔物を切った数ではなく、水龍が飛び出ていく数だ……。
「ちょ、ちょっと!レディ!龍が止まらないんだけど!!」
「……ド、ドンマイ!旦那様!」
シャキーン!
と親指を立てるレディ。
――数分後。
「ぜぇぜぇぜぇ……魔力がなくなるかと思った」
結局12体の水龍を召喚してしまい、町は更地になった。
「旦那様。やりすぎです」
「違うって!見てたでしょ!」
「あ、町長」
ぷるぷるしながら町長がへたり込む。
「わ、わしの町が……無いなってもうた……」
「すんまそん……」
深く反省し、町長にお詫びをしたのだった。
―――ネプチューン神殿―――
「……というわけで、ネプちん。神殿を囲むように町を再建したいのだけどどうだろう?」
「ハッハッハ!愉快!ムコ殿はやることが豪快じゃのぉ!!ハッハッハ!」
「さすが旦那様」
違うよ。レディ見てたよね。
「しばらく神殿で町の人達を住ませてあげれないか」
「構わんよ!ついでに孫娘の新居も頼もうかのぉ!ハッハッハ!」
「ねぇさん、それなら私も一緒に住みたい!」
「カエデは別の家じゃ!旦那様と一緒には住ませられない!」
「えぇぇ!ねぇさんずるぅい!」
「いや、2人共そうじゃなくて……はぁ」
とりあえずアリスとマリンに報告だ。また怒られる。
こうして北の神殿に新しい町を建設することになったのだった……。
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