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魔王とその仲間
第78話・天照大御神
しおりを挟む天照大御神からの伝言を受け取った翌日。
朝から大忙しだった。2ヶ月後には神の社に行く予定にしている。それまでに皆が生活に困らないようにしておかねばならない。
人魚族の休憩場所を作ったり、貯水タンクを増設したり、ソーラーパネルやボイラーの点検、体育館の中を改造し保存食を貯めれるようにした。あと洋服が作れるように布も合成した。俺は思いつく限りの準備をする。
――そして数日後。
「ご主人様、お呼びですか?」
「ご主人様、お待たせしました」
ガガとカルティアには全てを話した。
「私もお供したいと存じます」
「いや、神の社へは俺1人で行く。ガガとカルティアにはしてもらいたいことがあるんだ」
「自分にできることなら何でも致します」
2人には南の町の探査をお願いした。飛行しても移動で1日はかかるらしい。
「わかりました。急ぎ動ける者を連れて行ってきます」
「お任せください」
◆◇◆◇◆
……その夜。
風呂を済ませ、部屋に戻りベッドに腰を降ろす。
「ふぅ……」
コンコン……。
「ご主人様。ちょっとよろしいですか?」
パジャマ姿のチハヤが部屋に来た。
「どうした?寝れないのか?」
「はい。あの日からずっと、色々と考えてしまって……」
カチャと、鍵を閉めた音が聞こえる。
「あの……今夜は一緒に寝てもいいですか」
「わかった。おいで」
ぱっと笑顔になったチハヤ。ここ数日、ずっと怖い顔をしてたが色々考えてくれたみたいだ。
チハヤがパタパタと近づいてきて、ドンッ!と俺をベッドに押し倒す。
「へ?チハヤ?」
「神の社に行かれる前に大事なことを済ませておきます」
「ほ?」
「いただきます」
目が座ってる……。パジャマを脱ぎ覆いかぶさるチハヤ。
「ちょ、ちょっとチハヤさん?」
「静かにして下さい。今日という今日は許しません」
体をチハヤに預け、全てを受け入れる。他にチハヤに何もしてあげる事が出来ないのかもしれない。今夜だけでも……。
「ご主人様……」
「チハヤ……」
その夜はチハヤと朝まで一緒に過ごした。
………
……
…
―――食堂―――
チュンチュンチュン……。
翌朝、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「ご主人様、これ何?」
なぜかリンが卵を抱えている。ダチョウの卵くらいの大きさだった。
「どこにあったんだ?それ?」
「えぇと、朝起きたら産まれてた。たぶんご主人様とリンの子供だと思う」
「え?」
パリィィィンッ!コップが床に落ち割れる。
「ご主人様っ!!」
「いや!チハヤ!ちょっと待て!卵だぞ?落ち着け」
「むすぅぅ」
「か、考えられるのは、アメノサグメがリンに憑依した時に置いていった?くらいしかない気がするのだが……」
「何の卵でスカ?食べれるのかシラ」
メリーが興味深そうに卵を見て悩んでいると、妖精のピューが飛んでくる。
「それはロック鳥の卵ですわね。神様の神獣ですピュー」
パタパタと卵の周りを飛ぶピュー。
リンが卵を眺め、舌なめずりをする。
「食べちゃだめ?」
さっき、自分の子供とか言ってなかったか?
「その子を育てると空を飛べるかも?ですよ。神様の乗り物として希少な神獣ですピュー」
「へぇ……わかった!今日から温める!」
ロック鳥の卵をリンが温めると数日で孵化し2週間程で空を飛べるようになり、名前は「クロ」と名付けられた。
神の社へ出立前、ガガ達も南の町の偵察から戻って来てた。ほとんど得る物はなかったみたいだが、数冊の本を持って帰って来た。何でも廃墟の神社に残されていた物らしい。そこにはニッポンの神々について記されていた。
天照大御神、月夜見命、素戔嗚尊……そして八岐の大蛇伝説……。
何か、呪いを解く方法がないかと読みあさってみたが結局わからなかった。
………
……
…
――2ヶ月後。
いよいよ神の社へと出立の日になった。
「じゃぁ、行ってくるよ。月子がまた元気な姿になったら戻るから」
「ご主人様、必ず戻って来て下さい。待ってます。それとこれをお持ちください」
金のプレートに『ナツト・チガ』と彫られていた。その後に3人の名前も……。
「ありがとう。大切にするよ」
「ご主人様。クロをよろしくお願いします」
「ご主人タマ!!うぅ……」
「じゃぁ、皆、俺が戻るまで家を任せたよっ!」
『はいっ!行ってらっしゃいませ、ご主人様!』
―――神の社―――
「ねぇさま、今日あの子が来ると思うわ。はぐっもぐもぐ……しかし、このプリンとかいう食べ物、超美味しいですわ。もぐもぐ……」
「そうであろう。西の町で売っておったのじゃ。ほれ、もう1個あるぞ」
「ねぇさまっ!下さい!もぐもぐ……ごっくん!」
「そうじゃのぉ、サグメよ。お主も改名してプリンにするか!しっしっし!」
「プリンっ!?良いお名前ですっ!今日から私はプリンですぅ!」
妙なテンションのアメノサグメ。プリンがよほど気に入ったらしい。
「さて。プリンは置いといて、そろそろかの……はぁ」
軽くため息をつく天照大御神であった。
―――西の洞窟上空―――
俺は西の洞窟の上空をクロに乗って飛んでいた。神の社はこの洞窟の上らしい。
西の洞窟はかつて魔物たちが溢れ出てきた魔界とのトンネルみたいな物だ。現在、穴は塞がっているみたいだがいつまた数万の魔物が出てくるかと思うとゾッとする。
「よし。クロ!この上だっ!頼んだっ!」
「ピィィィィィィ!」
雲の上に社が見えてくる。どんな構造で乗っているかは不明だ。
「クロ、あの社の前で待っててくれ」
俺は無事に神の社へと降り立つ。
「ここが神の社……」
雲の上に神社が建っており、神聖な感じがする。社を見渡していると中から人が現れた。
「よく来たな。入るが良い」
金色の短めの髪をした少女。もしかしてこの人がリンに入っていたアメノサグメなのか……?俺はその少女に言われるがままついて行く。
「ねぇさま、お連れしました」
「うむ、ご苦労じゃった」
部屋の奥には、長い黒髪に巫女装束を着た別の少女がいた。
「お主、名を何と言う」
「ナツト。ナツト・チガ」
「わしは天照大御神じゃ。うむ、月子がお主を選んだ、というわけか」
天照大御神を名乗る神が俺に近づいてくる。
「月子はだいぶ弱っておるな。さて、どうしたものか」
腕組みをし「うぅむ」と唸りながら、俺の周りを歩き出す。
「ナツトよ。少し前かがみになれ」
「こうですか?」
「うむ、動くなよ……!」
ザクッ!背中に突如激痛が走った!
「いっ!痛っ!!痛い!!」
背中が熱くなる。何だ……?何か入ってるのか?
背中から天照大御神の手が、体に入ってくるのがわかる。
「ぐぐぎ……!」
「少し我慢せよ。どこじゃ」
するとカランカラン……と音を立てて宝石が床に転がった。天照大御神が背中から手を抜くと、同時に痛みも引いていく。
「これがお主の体に入っていた月子の結界じゃ。この中に月子はおる」
床に落ちた黄色い宝石を拾い上げ、中を覗き込んだ。
「月子っ!?」
宝石の中には天照大御神が言う様に、横たわる月子がいた。
「天照大御神様!どうすれば助けれますか!」
ワラにもすがる思いで聞いてみる。
「やはり呪いか。これを解く方法は……神器・天之叢雲か。この神器があれば、月子の呪いは断ち切れるかも……しれぬ」
「その天之叢雲というのはどこにあるんですかっ!?」
「今どこにあるかはわからんが、持っているのはおそらく素戔嗚尊じゃ」
「スサノオ……ここへ来る前に古事記で見た名前だ……。だけどこれで手がかりが出来た。ありがとうございます、天照大御神様」
目的は決まった。
俺は素戔嗚尊を探しに行く事になった。
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