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魔王とその仲間
第77話・アメノサグメ登場
しおりを挟む―――学校病室―――
――翌朝。
チュンチュンチュン……。
「ん……朝……?」
「お、おはようございメス。ご主人タマ……」
「う、うん。おはよう」
気まずい雰囲気の朝だった。昨夜、メリーと良い雰囲気になった後、俺はあろうことか……。
おもらしをしてしまいました。トイレを我慢していたのをすっかり忘れ、あろう事か、メリーの前で……恥ずかしいし、情けないしでもういっぱいいっぱいだった。
メリーが服を脱がせてくれてそのままシャワーで洗ってくれたのは覚えてる。ただ、それだけだった。お互いに気まずくなり昨夜はそのまま寝たのだった……。
大失態!!
「おはようございます!ご主人様!ご飯をお持ちしました!」
焼き魚の良い匂いがする。
「おはようリン、ありがとう。いただくよ」
「にひひっ!めしあがれ」
そろそろ仕事にも復帰しないと体がなまりそうだ。今日は周辺の散歩からでも始めてみよう。
「リン、あとで一緒に散歩行こうか」
「はい、ご主人様」
朝食を済ませチハヤ達が片付け洗濯に追われていた。俺はリンと散歩がてら畑や田んぼ、養殖場の進捗状況を見て周る。水場も十分確保出来てるし、このまま順調にいけば半年後には収穫が始めれそうだ。
「リン、人魚族も来てるのか?」
「はい、ガガさんのお友達で時々遊びに来られてます」
「そうか、あそこに見える川岸に人魚達が休憩できるように入江を作っておこうか」
「ご主人様、ありがとうございます。喜ぶと思います」
と、カルティアが飛んで来た。
「ご主人様、もう起きてもよろしいので?」
「あぁ、問題ない」
「でしたら、先日ご指示頂きました地図を見て頂きたいのですが大丈夫ですか」
「もう出来たのか、わかった。会議室に行こう」
俺達は一旦、学校に戻る。
「こちらが周辺地図です」
「ご苦労様。これがこうなって、なるほど」
北に小さな町とお城らしき物がある。東はそのまま海。西には洞窟とその先は不明か。そして南側は……。
「南には町があったんだな?」
「はい。ただ廃墟というか、人影もなく建物だけでした」
「そうか、一度行ってみるか。と、リン?あれ?リンはどこに行った」
「あ。リン様なら着替えをしてくると言われてました」
「そうか。南へ行く予定を一度立てようか」
「はい。わかり……」
『キィィィィィィィィィン!!』
「カルティア?」
急に耳鳴りがして、カルティアの動きが止まった。止まったというか宙に浮いたまま動かない。
「何だこれは?魔法か?」
俺は急いで会議室を出た。廊下ではチハヤとメリーが話をしている……格好のまま動かない。何が起きているか?教室を1つずつ見て周る。
ガラガラガラ……病室には誰もいない。図書室にも誰もいない。後はチハヤ達の部屋がある音楽室だ。音楽室には着替えに戻ったリンがいた。
「リン、大丈夫……」
ゾクッ!とリンに違和感を感じた。次の瞬間!向こうを向いていたリンが首だけでこっちを振り返る。
「お前が月夜見命様の媒体か?」
遅れてリンの体がこちらを向く。まるで操り人形の様だ。
「ねぇさ……天照大御神様よりの伝言を伝える」
「お前は誰だ!?」
話し方までおかしい。
「私はアメノサグメ。天照大御神様の従者」
「アメノサグメ?」
「そうだ、よく聞け。月夜見命様の体は呪いにより……」
「呪い……だと?」
話が頭に入ってこない。魔物に受けた傷にそんな効果があるのか?
「……伝言は伝えた。信じる信じないはお前次第だ。さらばだ」
『キィィィィィィィィィン!』
また耳鳴りがしたかと思うと、カクンッとリンの体が力なく倒れ込みとっさに抱きしめる。
「リンっ!」
「うぅ……なんだぁ……首が痛い……」
着替え途中であった下着姿の彼女を抱え、部屋のベッドに寝かせた。
「リン!首以外に痛いところはないかっ!?」
「うん、首だけ……いてて……。他はたぶん大丈夫」
「メリーを呼んでくるから、ちょっ――」
「ご主人様……ちょっとだけ抱っこ……」
リンが両腕を伸ばしてくる。
アメノサグメの演技……という事はなさそうだ。もうリンの体からは出ていったのだろう。ベッドに横になるリンを抱きしめる。
「怖かったかい?もう大丈夫」
「なんか雲がかかってて、もやもやしてご主人様がいるんだけど怖い顔してて……そんな夢を見てた」
「大丈夫、大丈夫。怖くない、怖くない」
小刻みに震えている。
廊下の方からチハヤ達の声がした。チハヤ達も元に戻った様だ。しかしあれは何の力だったんだ……まるで時が止まったかのような?
「ご主人様……ん……!」
「!!?」
一瞬、何が起こったかわからなかった。リンが俺にキスをしてくる。
「んん……チハヤばっかりずるい」
リンの腕が僕の頭を抱え込み離さない。
「ん……もっとして……」
下着姿のリン。お互いの体が密着し、顔が赤くなるのがわかる。それからリンと俺は何度も何度もキスをする。
あれ……理性が保てない……まずい……俺はリンの胸に手をかけた。
「ご、ご主人様!あぁぁぁぁ―――!!」
さっきまでの恐怖を無かったことにするように、本能で体を求めてるのか?
俺はリンの下着を脱が……バタンッ!!
「リンッ!だいじょう……ぶ……」
「え……」
「あっ……」
「なっ!?」
また時間が止まった。しかしこれは魔法ではない、ただこの状況をどうしていいかわからず止まったに過ぎない。
「チ、チハヤさん。こ、これはですね。ちょっとした事故でして、リンが首が痛いっていうから看病をしてま……うっ」
じぃぃぃぃぃと、俺をにらみつけるチハヤとメリー。
「ご主人様、痛くしないでね……」
「ちょ、リン!今、そんなこと言ったら!!」
パァァァン!!
ついにチハヤの平手打ちが俺に炸裂した。
「ご主人様!最低っ!」
部屋から飛び出るチハヤ。
「ご主人タマ、後で詳しく聞きますので今はチハヤを追いかけてくだセイ。私はリンの容態をみメス!」
「メリー……わかった。リンを頼んだ!」
その後、俺はチハヤに何度も説明し謝った。
その日の夜、俺は3人を部屋に集める。時刻は22時。校内が消灯時間になり自動的に照明が消え、補助灯が点く。
「ご主人様。皆を集めてやらしい事しようとしてます?」
唐突にそんなこと言われても。
「チハヤ違うよっ!ちょっと3人に話があるんだ」
俺は今日あった出来事、月子の呪い、そして月子が俺の体内で生きてることを伝えた。
「月子様が……!」
「そんな……」
「月子タマ……!」
3人共にショックを隠せない。
「そういう事なので天照大御神に会って月子の呪いの解き方を教えてもらおうと思う。その間に3人は学校の……」
「嫌です!もしご主人様の身に何かあったら、私!」
泣き出すチハヤ。
「私も反対でゲス。アメノサグメの罠の可能性もありメス……」
「ご主人様……行っちゃやだ……」
3人を抱きしめる。
「もし月子がこのまま眠ったままだと、いずれ俺達4人は生体を維持できず崩壊する可能性もある。アメノサグメの話では2ヶ月後には神の社に天照大御神が戻ってくるらしい。それに合わせて行ってくるよ」
3人共に泣き出してしまった。
「大丈夫だよ。すぐ帰ってくるから。2ヶ月の間に皆が不自由ない様に準備をして行くから、ね?」
コクンとうなずく3人。明日から忙しくなりそうだ。
そしてまだこの時、俺はこれが最後の学校生活になるとは思ってもいなかった……。
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