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無限牢獄の生娘

第68話・海水浴

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 ―――コリータ王国浴場―――

「ぷはぁぁぁぁぁ。生き返る!久々の湯船だ!」
「ハルト殿。しかし月夜見命ツクヨミ様が生きておられるのにはさすがにびっくりしました」
「ベリアルさんはナツトと会った事があるの?」
「いえ。私が魔王軍に入った頃にはすでにベールの向こう側での会話でした。つまり直接的に顔を見た事は無いのです。ザクスやネビュラはナツト様が生きておられる時からの部下だったそうですが……」
「へぇ、そうなんだ……」
「それよりハルト殿。その背中のラクガキはわざと付けておられるのですか?」
「ラクガキ?」

 僕は湯船から上がり、鏡で背中を見る。そこにはマジックで『スケコマシ』と書かれていた。

「……何だこれ?」

 そういえばメリダが湿布を張り替えてる時に、アリスが何かしてたような……!

「アリスッ!風呂から上がったらお仕置きだ!」

女湯から声が聞こえる。

「げっ!ハルトにバレたッ!どうするのじゃどうするのじゃ!」
「この魔王フジンがハルトを亡き者にして差し上げますわ!ねぇさまっ!」
「もうアリス様ったら!あれはバレますって!」
「2人共!お風呂で暴れないっ!」

 賑やかな日常風景……いつまでもこの時間が続けばいいと願うのであった。

◆◇◆◇◆

 ――数日後。
 コリータ王国食堂では定期連絡会のため、幹部が集まっていた。

「あなたぁぁぁ!私を置いて行くなんてひどいわぁ!」

 ゼシカの事を完全に忘れていた。
 ウェスタン王国がイスタン帝国を占拠し、新たな町作りが始まったと聞いたのは昨日の事だった。コリータ王国にもその余波があり、イスタン帝国の住民を約10万人受け入れた。

「お兄ちゃん!」

ギュッとしがみついてくるチグサ、よしよし。

「お義父さん、無事帰りました!」

日に日にたくましくなっていくサルト。

「おかえり。初陣お疲れ様」

 頭をクシュクシュにしてやると、ちょっと恥ずかしそうに照れるサルト。

「えぇ、それでは定期連絡会を始めます。まずウェスタン王国とイスタン帝国についてですが……」

 マリンが皆に一通り説明をしてくれた。さすが優秀な秘書だ。

「えぇ、何点か新たに進める事業があります」

 1つ目は前々から考えていた北の街道沿いに中間地点の町作りと、それに合わせて浄化設備等を用いた施設を作ること。
 2つ目は各街道にトロッコの設置。現在街道が繋がり馬車で片道2日かかるところが1日で行けるようになった。これをさらに半日に短縮する。
 3つ目はウェスタン王国の北にある川の整備。ウェスタン王国の北には川があり、これが最短で海まで繋がっている。この川を拡張し養殖用の水の確保、またそこから直接海へ出向できる港の整備。
 この3つの整備を執り行うこととした。

「海じゃな。海といえばイカ!イカと言えばタコ!」

アリスが言っている意味がまったくわからない。

「クラゲを食べたらお腹を壊したことがある……」

ブルブル震え出すプリン。いや、それも意味がわからない。

「海いきたぁい!」

チグサが目をキラキラさせている。

「よし、すぐに行こう!3日後、ウェスタン王国の北にある海へ向かう!マリン!準備を!」
「はっ!ただちにっ!」

 ウェスタン王国へは詳細の報告を入れ、ネプチン、お菊、レディも誘った。ベリアルとミレーはコリータで留守番をしてくれるそうだ。

―――ウェスタン王国北海岸―――

 ――3日後。
 ウェスタン王国北の川辺に着いた。川辺と行っても、またいで渡れるくらいの幅しかない。

『あ……あ……テステス……ピィィィ……はい!全員集合!点呼取ります!そこに線が引いてあるので並んでくださぁい!』

僕は念話器で、その場にいる皆の点呼を取る。

『クルミ!マリン!』
「はいにゃぁ!」
「はい、ハルト様」
『レディ!メリダ!プリン!』
「旦那様、この水着を脱がせて欲しい……」
「あなたねぇ!ここまで来てそんな事――!」
「クラゲ怖いクラゲ怖い……」
『アクア!ギル!』
「ねぇ、ギル。この水着どうかしら?」
「似合ってるよ、アクア」
『ゼシカ!チグサ!サルト!』
「見て見て!チグサ!サルト!これがフナムシよっ!」
「きもちわるいぃぃ!」
「お義母さん!向こうに持っていってください!」
『エル!リン!お菊!ネプチン!』
「よぉしよぉし、いいこでちゅねぇ。ん?今、動いた?」
「エルぅぅ!たまごっち、ボクにも貸して!」
「あらあらまぁまぁ!」
「この川の細さじゃぁ、泳げないのぉ」

全員の点呼と言うか、存在確認は出来た。

『マリン!全員配置に着いたかっ!』
「はい!ところで国王様とアリス様はどちらに?」

念話器ごしに皆の声が聞こえ、アリスが話かける。

『こほん……えぇ、全員……大至急!!魔法障壁を張るのじゃ!!失敗したらウェスタン王国が消滅するぞっ!』
「……はい?」
魔法障壁マジックシールド!これでいいのかしら?」
魔法障壁マジックシールド!はてはて?」
魔法障壁マジックシールド!何が始まるのかな!」

 意味もわからず、皆急いで魔法障壁を展開する。マリンが勘付く前に急いで詠唱に入る。

「チグサ、サルトは私の後ろに!完全防御パーフェクトディフェンス!」
「は、はい!お義母さん!」
『ハルトやれいっ!!』
『――混沌の地より生まれし水星、我の声に答え、導け。我はこの世界を作るもの也………水星召喚!!鯨王ホエールキング!!』
「ボエェェェェェェェェルッッ!!!!!」

耳を疑うマリン。リンが急いでスキルを発動する。

「………え?今、な、なんと?まさか!?」
心眼マインズアイ!んんん!?数キロ先の海岸にハルトとアリス様、それにクジラがいるよ。……とんでもなくでっかい子」
「な、なにぃぃぃぃ!?」

 鯨王は北の海岸からすごい勢いで皆のいる川岸まで南下してくる。リンが秒読みを始める。

「到着まで約30秒!幅約20m!深さ約15m!来るよっ!」
魔法障壁マジックシールド魔法障壁マジックシールド魔法障壁マジックシールド魔法障壁マジックシールド――っっ!!』

 川辺に何十もの魔法障壁が展開され、僕とアリスときりんは鯨王の背中から応援する。

「おっ。見えてきた!皆がんばれぇ~!」
「死ぬ気で止めよっ!!」
「ふふふ、楽しそうで何より」

 プリンが叫び、ネプチンがあんぐりし、アクアが吠えた。

「ねぇさまぁぁぁ!!!しぬるぅぅぅぅ!!」
「……で、でかすぎじゃろ」
「このバカチンがぁぁぁぁ!!」

そしてなぜかいつもプリンが一番前に立っている。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「来ますっ!!全員集中っ!!」
「ピィィィィィィィィィ!!!」

 興奮してか、思わずかわいい声が出てしまう鯨王。そして……!

ズドォォォォォォォォォォォォォン!!
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
凄まじい勢いで鯨王が魔法障壁に突っ込んだ!
バッシャァァァァァァァァン!!
大量の海水が辺り一面に流れ込む!

「あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 流されるマリン達、溺れるプリン。そして鯨王は前ヒレを天に向かい掲げる。

「グッジョブ!」

 僕にはそう言ってる様な鯨王をしっかり目に焼き付けた。鯨王は任務を達成し、満足げな顔をし消えて行く。

「ありがとう、鯨王。また会おう!」

 鯨王の消えた後には大きな運河が出来上がり、待ち望んだ海が目の前にあった。そして見渡すとずぶ濡れの一同が睨んでいる。

「うむ。鯨王よ、良き仕事をしたっ!さぁお主ら!イカを取ってこいっ!」
「ア……ア……アリス様ぁぁぁぁぁ!!何度言ったらわかるんですかぁぁ!!危ないから2度としないって言いましたよねっ!!」
「ひぃぃぃぃ!」

逃げるアリスと追いかけるマリン。

「あっ!?」

ザッパァァァン!
足を滑らせ、見事に海に落ちるアリス。

「だずけ……あばばばばば!」

沈んでいくアリス。

「……ん?アリス、もう冗談はそのく――って泳げないんかいっ!!」
「アリス様!ぬぅっ!」

ネプチンが急ぎ海に飛び込みアリスを救出する。

「ぴゅぅぅぅぅぅ!」

横たわり、海水を吐き出すアリス。

「まったく、泳げないなら先に言ってくれ!」
「鯨怖い鯨怖いクラゲ怖い」

横になるアリスの隣でガタガタと震えるプリン。

「よし!気を取り直して、魚を取ってバーベキューするぞ!ネプチンたくさんお願い!!」
「お任せあれじゃ!ガッハハハ!」
「まったくこの人達は!!次やったら承知しませんよ!」
「あはは!ねぇさん!楽しそうね!ふふ!」
「アクア、これで頭をお拭き」
「ほらっ!イソギンチャクがこんなにいっぱい!」
「いやぁぁぁぁ!」
「お義母さん!!なんでそんなのばっかり……」
「あらあらまぁまぁ」
「ふふふ、にぎやかね」
「旦那様ぁぁぁぁぁ!!水着がはだけて!あれぇぇぇ!」
「嘘だっ!自分で脱ぐなっ!!」
「あ。たまごっちが動いた!」
「ちょっと!!ボクもさわりたいっっ!」
「ハハハッ!最高の世界だっ!」
「くらえ!バカハルトっ!えいっ!」
「え?」

ドボォォォォォン!!
アリスの蹴りで僕は海へとダイブする。

「ハルト様っ!?」
「だずけ……あばばばばば!」
『あんたも泳げんのかいっ!!』

こうして僕達の楽しい世界はまだまだ続くのであった。

―第5章完―
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