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無限牢獄の生娘

第66話・魔王婦人降臨

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―――イスタン帝国地下牢―――

 ――イスタン帝国地下牢。
 開かずの間の前にエルとカエデはいた。

「この剣が鍵に?」
「そうみたい。マリンさんがそう言ってた」

カエデは剣を抜き鉄格子に近付ける。
バリバリバリッ!!
激しい閃光と共に電気が走るっ!!

「キャァァァッ!!」

尻もちをつく、カエデとエル。
カチャリ……!
そして静かに鍵の開く音が聞こえた。

―――イスタン帝国東門―――

「それではプリン様っ!派手にやっちゃいましょうにゃん!」
「ハッハッハ!我が名は魔王『フレア』だっ!!恐れいったかっ!!ハッハッハ!……こんな感じでいいのか?」
「かんっっっぺきでございますにゃ!」

 プリンとクルミは、エルとカエデが地下牢に向かう間にオトリになる作戦を開始した。

「ではいくわっ!クルミ隊員っ!」
「はいにゃ!」
「ハッハッハ!我が名は……」
「くせ者だっ!!ピィィィィィィ!!」
「はっ!?もうバレたにゃ!」
「おのれぇぇ!まだ何も言うておらんのにぃぃぃ!ゆるさぁぁぁん!いでよっ!『巨神兵ダイマジン!!』我が名の元に全てを破壊せよ!」

ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 大地が唸り、高さ数十メートルのゴーレムが姿を現す。

「ウガガガガガガ……!」
「退避!退避!ゴーレムが現れた!退避!」

カンカンカンカンッ!!
ズドゴォォォォォォォォン!!
 警鐘が鳴り響く中、巨神兵のこぶしが城壁を破壊する。逃げ惑う兵士達。

「フッフッフ!アッハッハッハ!!」
「魔人!やっちゃえにゃぁん!!」

悪ノリをする二人であった……。

―――イスタン帝国地下牢―――

カツンカツンカツン……。
 遠くで地響きや、怒号が聞こえる。プリン達がオトリになり暴れているのだ。

「カエデ、この階段はいつまで続くの?」
「わからない、ここまで深いとは思わなかった。無限牢獄というのはこういう意味なのか?しかしなぜこんなに幅が広いのだ」

カツンカツンカツン……。
 足音だけが響く。螺旋階段になっており、踏み外したらどこまで落ちるかわからない。

「カエデ飛びましょう。これはいつまで経っても着かないわ」
「そうだな。エル頼んだ」
空中歩行フライ!」

エルはカエデを前傾姿勢で抱え階段からダイブする!!

光玉ライティング!」

 2人の周辺が明るくなり、前方を照らす。見つかる事を恐れ明かりを灯さなかったがこれなら良く見える。

「行くよっ!」
「おうっ!!」

ヒュゥゥゥゥゥゥゥン!!!
 2人は一気に降下する!10秒20秒……ようやく明かりらしきものが見えてきた。

「エルっ!あそこが底かもしれない!」
「わかった!」

 エルは勢いを殺しゆっくりと降下し、無事に底に辿り着く。
 地下牢の底には3つの牢屋があり1つは空だった。1つは魔獣らしきものが横たわっている。そして奥の牢屋にその人物はいた。

―――イスタン帝国東門―――

「ハッハッハ!死ねっ!人間共めっ!我の名は!フ……フ……フ?(クルミっ!何だったけ!名前名前!)」
「ギャァァァァァァァ!!」

ゴーレムになぜか追われているクルミ。

「ガガガ……オマエ、カ……ワ……イイ」
「ゴーレム!来るなァァァァァ!!」
「うぬぬぬ。わ、我が名は……えぇと。えぇと」
「名は……?ごくり」

敵兵がプリンの名前を言うのを待っている雰囲気だ。

「あ、あのぉ……お名前は?」
「わ、我は……魔王フ……フジンなり!!」
「……魔王フジン?」
「魔王フジンっ!?魔王婦人が出たぞ!!」
「全兵士に伝令っ!東門に魔王婦人が現れたぞっ!!」

魔王婦人。誤った伝令は即座に国中に広がる。

「私は魔王の婦人じゃなぁぁぁぁい!!」

プッチン!
プリンの中で何かがキレる音がした。

「お前らいい度胸ですわ……!炎の精霊よっ!今こそ我に裁きの力を!『特級火球エクストラファイアーボール!!』」

ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 天から火球が……それは城より遥かに大きい火球が落ちてくる!!

「ギャァァァァァァァ!!退避!退避!」

カンカンカンカンッ!!!
先程よりさらに、けたたましく鐘が鳴り響く。

「愚かな……全て滅びよ」

ズドォォォォォォォォォォォォォン!!!
ゴォォォォォォ……!!
火球は城もろとも全てを焼き尽くす。

「ハッハッハ!愚かな人間共めっ!恐れいったか!!ハッハッハッハッハッハ!」

 これが後世まで語られる魔王婦人が降臨した瞬間だった。

―――イスタン帝国最下層―――

カチャカチャカチャ……!
牢屋の鍵をカエデが素早く開け中に入る。
キィィィィィ……。
そこには鎖にぐるぐる巻きにされた少女がいた。

「この方が……?」

パラパラパラパラ……!
頭上から小石が降ってくる。

「はっ!時間がない!この揺れは崩れるぞ!」
「わかった!このまま連れて行く!カエデはもう一方の魔獣の牢屋を開けてっ!あの子だけ置いていく事は出来ない!」
「任せろっ!」

すぅと消えるカエデ。

「逃げますよ。もう少し頑張ってください!」

カチャカチャ……。
 鎖を引きずりながら運び出そうとするエル。しかし鎖が重い。

「これでは空中歩行フライでは無理ね……」

 エルは螺旋階段の上を見上げると、ひっきりなしに小石と砂が降ってくる。外ではよほど激しい戦いが行われているのだろう。

「この鎖を全部解く時間なんてあるのかっ!」
「エルっ!この子が乗れって!」
「乗るっ!?」
「グルゥゥゥゥゥゥ――!」
「この子はまさか!怪鳥ロック鳥……」

 ロック鳥が鎖の巻き付いた少女を咥える。エルとカエデはロック鳥の背中にしがみつくと一気に羽ばたいた!

「ギャァァァァァァァ!!」

 ロック鳥が雄叫びを上げ上昇する!羽根を壁にぶつけながらも上へ上へと向かう。

「ロック鳥!頑張って!!」
「頑張れっ!!」

 幾度となく壁にぶつかり、ふらつきながら上へと飛んでいく!!

―――イスタン帝国上空―――

 ウェスタン王国での晩餐会の最中、僕とアリスは西の空の異変を見て、急ぎイスタン帝国に向かった。

「な、何だ……これは!城が燃えている!」
「本当に魔王……なのか?そんな気配はしないのじゃが。とりあえず消火が優先じゃな」
「そうだな。考えるのはそれからだ!水の精霊よ。汝の力を示せ――『大雨ポアリング』!!」

ポツポツポツ……サァァァァ………!ザァァ……!!
またたく間に大粒の雨が降り出す。
ザァァァァァァァ……!

「これでどうだ……」

 雨は火を包み込み、徐々に鎮火していき、辺りは蒸気で真っ白になる。

「プリン!エル!カエデ!クルミ!聞こえるか!」

念話器で話しかけてみる。

「……え!ハルトなのか?私とクルミは無事だ!雨はハルトが降らせたのか?助かった……」
「プリン!2人はすぐに転移の指輪を使ってウェスタン王国に転移を!エル達はこちらで探す!」
「わかったわ!クルミ隊員――!」
「聞こえたにゃ!ゴーレムも雨で動かなくなったにゃ!」

よし。次はエルとカエデだ。

「カエデ!エル!聞こえるか!返事をしてくれ!」
「……ルト?ハルトなのっ!?」
「通じたっ!エル!今、どこだ!」
「西の塔の下に!カエデも一緒にいる!例の彼女も連れ出した!だけど……だけど!ロック鳥が死んじゃうっ!早く来て!!」

今にも泣き出しそうなエルの声がした。

「ロック鳥じゃと!まずい!急げ!死なせてはいかん!」
「きりんっ!!」
「掴まって下さい!ご主人様!」

 きりんが空を蹴り加速すると、あっと言う間に西の塔が見えてくる。
 そこには横たわっている大きな怪鳥と、動かない少女の姿があった。
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