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無限牢獄の生娘
第64話・妹君の名前は……
しおりを挟む―――コリータ王国自室―――
平和だ。こんなに何もせず過ごすなんていつぶりだろう。
ベッドでうつ伏せになり、メリダに腰の湿布を貼り替えてもらいながら思う。はぁ、気持ちいい。
キュキュキュキュ……ん?小鳥かな。キュキュキュ。
「よし、出来た」
「アリス様……それは……ぷぷぷ」
「ん?何だ?どうした?」
「何でもない。安心せい、ただのみねうちじゃ」
「いや、まったく意味がわからない」
「何でもないですよ。旦那様、ぷふぅ」
まぁいいか。心地良いのでこのまま二度寝しようか。
コンコン……カチャ!
「失礼します。あら、アリス様、メリダさん」
「マリンさんこんにちは。それでは私はこの辺で。旦那様、ご無理をなさらないように」
「あぁ、メリダありがとう。また明日」
「旦那……はっ!失礼しました。国王様」
マリンが国王様と言おうとして、釣られて旦那様と言いそうになる。たまにあるよね。
「こほん。西病院の改築は順調です。後3日もあれば人間族の病院は使えるかと。院長はセシル先生にお任せしました。東病院はそれ以外の種族の病院として建築中です。こちらはもう少しかかります。担当はロゼ先生にお任せしました。経営はメリダさんとアクアに任せております」
「マリンありがとう。助かる」
「はい。それからアカシアさんより音楽館の完成、神社の完成の報告が上がってます――それから――」
やばい……話の途中なのに……眠くなってきた……。
「あと南東の……」
マリンの声が心地良い。母親に絵本を読んでもらってるみたいだ……。
…
……
………
ザァァァァ……!!
『おにいちゃんっ!つぎはこれよんでっ!』
「しょうがないなぁ……でも――、早く寝ないと朝起きれないぞ」
『だってぇ……もうすこしききたいもん……』
「わかった。わかった。じゃぁもう少しだけな」
『ありがとう!おにいちゃん!だいすきっ!』
僕は――の頭をいいこいいこしてやっていた……。
ザァァァァァ……!
「こ、国王様っ!ちょっとおやめくださいっ!アリス様が見ておられます!」
「ん?ん?あ……寝てたのか……」
目を開けると、マリンの胸をいいこいいこしていた。
「嫌ではありませんけど!そのぉ……そう言う事は出来れば2人っきりの時に……人前ではまだ抵抗がありますっ!ポッ」
「あ、いや。すまなかった」
「こほんっ。起きてください!まだあります。ウェスタン国王からお呼びがかかってます。明後日の国内会議への参加要請です。ゼシカさん達の方向性が決まったそうです」
「そ、そうか。予定を入れといてくれ。カエデ達から連絡はあった?」
「はい。今朝連絡があり、お土産は先に送ったからと、プリン様から聞きました」
「いや、その報告はいいや。無限牢獄の事はわかった?」
「無限牢獄については解錠方法を探しているそうですが見当たらないみたいです。鍵などではなく魔法解錠によるものかもしれない、とカエデさんより聞いております」
「なるほど。カエデに持たした剣を使ってみるように伝えてくれ。あの剣には天之叢雲の欠片が使ってある。もしかしたら神器には反応するかもしれない」
「わかりました。早速伝えておきます。本日のご報告は以上ですが、他にありますか」
「あぁ、そうだ。年間のカレンダ……いや、予定表を作って欲しいんだ。春夏秋冬……季節のイベントやお祭り、収穫時期、みんなで海水浴なんていうのもいいな。たたき台を作り全体会議で皆で決めようか」
「はい、わかりました。早速作ります」
「頼んだよ」
「はい、それでは失礼します。あ、あと、その、私が欲しくなったらいつでも言って下さい!キャッ!」
「え?どういう――」
バタンッ!とドアを開けっ放しで、マリンは走って出て行った。
「ハルト改め、スケコマシよ」
勝手に改めるな。
「なぁ、アリス。僕って妹っていなかったよね?記憶が曖昧なんだけど、時々夢で妹らしき人物がいたような気がして……」
「……ふむ。いたぞ。わしも昔、一緒に遊んだ事がある」
「そうなのかっ!そっか、やっぱりいたのか」
「ハルト、落ち着いて聞けよ」
「アリス。な、なんだ、神妙な顔して」
「おぬしの妹は……」
「ごくり」
ドアが開けっ放しの部屋に緊張が走る。
「プリンじゃ」
「なんだって!?」
「嘘じゃ」
おぉ、神よ。この者に天罰を。
「いずれ記憶が戻るまで待ってても良かったのじゃがな。……もう教えてもよかろう。お主の妹君の名は千草じゃよ」
「千草って名前なのか。へぇ……そうなん……え?」
「ウェスタン王国王女、チグサがおぬしの妹君じゃ」
「え?」
そう言えば何度か『おにいちゃん』て呼ばれた気がする。年上だから、総称で呼ばれてると思って気にしてなかったけど……。
「まぁ、ただ事情は複雑ではあるけどな。チグサも複製体なのじゃよ。思い出したらわかるじゃろ。プリンが入れ物で使っていたのは誰じゃ?」
「あっ……チグサだ……」
「お主の様に神と結合出来ぬから、人間族として生きておる。前世のチグサの願いは「兄にもう一度会いたい」と、それだけを望んで生きておった。じゃが世界が未曾有の危機に陥った時に皆と同じ様に死んだ。本来わしが出る幕ではなかったのじゃがな」
「チグサはこの事を知っているのか?」
「あぁ。ただし複製するにあたり条件を付けておる。それはお主が記憶を取り戻しチグサに気付くまでは自分では名乗らぬ様に言うてある」
「どうしてそんな事っ!」
「考えたらわかるじゃろ。記憶を失ったお主に見ず知らずの子が会いに来ても、知らない人扱いされるじゃろうて」
「確かにそうか……」
「ウェスタン国王と前王妃の間には2人の子供がおった。王女の方がチグサの元の持ち主じゃ。ある時、大陸に疫病が流行り、前王妃と第一王子とチグサの体の持ち主は亡くなったのじゃ」
「そしてチグサの魂は複製され生き返ったと?」
「うむ。偶然にも名前が千草とチグサ。妙な縁だったのかもしれぬな」
「そうだったのか。まだ記憶は定かではないけど、チグサを見たときから懐かしい感じはしていた。どうりで……」
「わしも色々思う所はある。お主の身内だけ特別扱いしてこの時代に転生させた。本来許される事ではない。ただ1度禁忌を冒してしまったのじゃ。2度冒しても同じ事……。身内のいないお主を1人で生かすよりも身内がおった方がよかろう」
「アリス……」
「お主がチグサに手を出さなくてよかったわい。スケコマシじゃからの。しっしっし!」
「おい……」
そう、アリスは笑い飛ばした。
窓を開けると風が入ってきて心地が良い。ありがとうチグサ、そしてアリス。
窓の外ではギルとアクアが手を繋いで歩いているのが見える。
「あいつらいつの間に……」
「スケコマシだらけの世界じゃのぉ」
「どんな世界じゃ」
明後日ウェスタン王国の会議で千草に言おう。随分待たせて悪かった……と。
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