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ホンモノと複製
第49話・初めての祝祭
しおりを挟む―――コリータ王国食堂―――
僕は皆を集めてお祭りの提案をし、1週間後の祝祭にむけて打ち合わせを始めた。しかしいつも大騒ぎのプリンがいない。
「プリンはどうした?」
皆が黙り込む。どういう反応なのだろう?
「まさか留守の間に何か良くないことがっ!?」
「そのぉ、プリン様は皆様が出られた後に……」
「ごくり……」
嫌な予感がする……。プリンも確かアリスと同じ神族だった気がする。よほどの事が無いとこんな雰囲気にはならないはずだ。僕はマリンを問い詰める。
「マリン!プリンはどうした!」
「そのプリンさんは……大好きなプリンを食べてたら、その……保存状態が悪く食あたりに……」
「……は?」
「寝込んでおられます。はぁ……」
「はぁ……」
はぁ……と、ため息が出た。アリスもため息をついている。心配して損した。
プリンの事はさておき、会議は続く。
「さて1週間後の祝祭の準備だが、屋台班と食事班、花火班に分け、そしてサプライズも用意します!」
『オォォォォォォ!』
パチパチパチパチ……!
僕達はその後、遅くまで打ち合わせをした。2日後にはリン達の町作り班も帰ってきた。街道が繋がり、サウスタンの町へ資材を搬入中だったらしい。祝祭が終われば、僕が城壁を作る予定だ。
翌日の午後にはレディ達、魔族30数名もコリータに着き、厳しめではあるが検問、面接をし東町へと入った。後の事はレディに任せよう。
ミレーさんとベリアルさんもしばらくこの町に住むことになり、深々と頭を下げていた。
◆◇◆◇◆
――翌日。
僕はドムドさんを訪ねていた。
「ドムドさん、この前のヴァンパイアソードを鑑定した資料ある?ちょっと作って欲しい物があるんだけど」
「へい、どうしましたんで?」
「実は……ゴニョゴニョ」
「!?それは面白そうですな、旦那っ!!」
ドムドさんと打ち合わせをして僕は「魔法球」の制作にとりかかる。これをサプライズで使おうと考えた。
「マリン、聞こえる?」
「はい。どうされましたか?」
「エルフ国との転移魔陣を早急にしたい。と、ドムドさんが今作ってる魔法球……いや、商品をウェスタン王国とエルフの里に送りたい。手配を頼む。あと花火の方はリンの魔法と竜族で作製を頼む」
「魔法球?わかりました。アクアにリンさんと花火の段取りをさせておきます。屋台テントもウェスタン王国から借りれました」
「ありがとう。よろしく」
忙しくなってきた!後はミレーさんとベリアルさんの所へ行って、それから……。
――こうして、あっという間に1週間が過ぎた。
◆◇◆◇◆
―――祝祭当日―――
「いらっしゃい!たこ焼きだよ!」
「いらっしゃい!イカ焼きあるよ!」
「寄ってって!わた菓子だよ!」
僕の記憶の中にある屋台。それをマリンと料理長と一緒に再現し、売る事にした。城壁内側にはズラリと屋台が並び、香ばしい匂いが流れる。
マリンとアクアは段取りの為、城内を走り回り、ギル達も警備で大忙しだ。運営の裏方も大変なので午前午後のシフトを組んで交代で楽しむ事になっている。
他国からすごい数の客が押しかけ、城内に入れず、城外では列が出来ていた。
「ハルトッ!」
教会近くの屋台でかき氷を売ってるメリダが声をかけてくる。
「メリダ!お疲れ様!大忙しだな!」
「私……今、すごく幸せなんです。引き取った身寄りのない子供達も皆手伝ってくれて!おねぇちゃんの事もそしてカイ様のことも……色々、本当にありがとう!」
生き生きとした顔をしているメリダ。色々あったが結果オーライだった。本当に良かった。亡くなったマリアさんもきっと喜んでくれてるはずだ。
「クチャクチャ。ハルト、次はあっちじゃ!」
「ちょ、アリス!引っ張るな!きりんっ!行くよ!」
「ちょ、ちょ……まってくだ……頭がキーーンて……」
きりんがカキ氷の洗礼を受けている。ほっておこう。
「ねぇさまぁぁぁぁぁ!!」
「え?」
ズドォォォォォォォォン!
なぜか空からプリンが降ってきた!
「プリン!遅いっ!次行くぞ!」
「だってぇぇぇポテトが美味しくてぇぇぇ!」
プリンは昨日ようやく食あたりが完治したのに、もう暴飲暴食してる。……こいつもほっておこう。
「あなたぁ!こっちこっち!」
お菊は紙風船とくじ引き担当。子供達が列をなしている。
「ほんっと!こんなに楽しいお祭りは生まれて初めてですわ!さすがあなた!嫁いできて良かったわ!」
「いや、嫁にした覚えはない」
「うぅん、照れちゃって!」
ふわふわと浮くお菊。そうか、嬉しかったり楽しかったりすると浮く構造なのか。なんだか妙に納得。
それから西町の屋台を見て周り、東町へと入る。城の西側は人間族が主に暮らしていて、東側は亜人族他、魔物族までもが暮らしている。住み分けをする事で余計な摩擦は生まない様にした。
東町も西町と同じ屋台や多種族用の屋台、中には刀まで売ってる屋台もある。
「おぉ!ハルト殿!」
「お兄ちゃんっ!!」
「ハルトさんっ!!」
護衛に脇を固められたウェスタン国王とチグサ、サルトが声をかけてくる。
「ウェスタン国王!チグサもサルトも一緒なのか!皆、楽しんでる様で良かった!」
「今日は無礼講じゃ!飲むぞ!実に愉快じゃ!ガッハッハッハ!」
「ハルト!次はあれを食うのじゃ!」
「アリス!ちょ、引っ張るなって!国王、また後でっ!」
「うむ!また後でな!ガッハッハ!」
屋台の一角に人だかりが出来ている。
「あれはどこの屋台だったかな……ん?レディ?」
「さぁさぁ!一度入ったら忘れられないよ!寄ってって!」
【メイド喫茶満月】と言う看板が見える。屋台の出店予定にそんな店は無かったはずだ。
屋台の裏に周り、中を覗いてみる。
「ん?サキュバス達がメイド服を着てる!?」
クルミ達が手伝っている姿が見える。そう言えば、レディがやりたい事があるって言ってたのはこれの事だったのか。
客の中には鼻の下を伸したエルフ族の長老までいた。見なかった事にしておこう。
メイド喫茶の隣ではベリアルさんがお化け屋敷をしている。イケメンなお化けだ。店の入口には女の子の行列が出来ており、若干主旨と違うが良しとしよう。
「おっ!ハルトッ!!」
ゼシカとエル、リンの3人は警備をかねて僕とは反対方向から周って来た。
「そっちの様子どうだ?」
「酔っぱらいはいたけど、そのくらいで特に問題なし!ほんとこの祭りは楽しいなぁ。毎日したいよ!」
それは財布が空になるよ。
「そうか、引き続き頼むよ。あっちにお父さん……じゃなくて、ウェスタン国王が来てたぞ。エルフ族の長老も見たけど、まぁ、なんだ。そっちはそっとしておいた」
「ん?」
エルが不思議そうな顔をする。
「ちょ、プリン!たこ焼きは、はんぶんこ言うたであろう!」
「ねぇさま!ここまでが半分なのですわ!」
いよいよ食べ物でアリスとプリンが喧嘩しだした。
「はいはい。2人共、喧嘩するともう帰るよ」
「ぶぅ」
「ぶぅ」
「子供か」
「リンっ!花火の最終打ち合わせするよっ!」
「わかった!すぐ行く!ゼシカちょっと行ってくる!」
アクアに呼ばれ走っていくリン。
祝祭を開いて本当に良かった。皆が生き生きとしている。僕の目指す国はこういう国なのかもしれない。貧しくても、皆が生き生きとしている国!
そんな僕の表情を察してか、急に顔の前にマリンが現れる。
「レディさんが魔王城に宝物庫があると言っておられました」
「マリン!?どこから沸いてきたっ!え?宝物庫!?」
「はい。それはさておき……ハルト殿、そろそろご準備を」
「わ、わかった、行こうか。アリス、プリンはどうする?」
「まだ食べるぅぅ」
「はいはい」
手を差し出す二人にお小遣いを渡して、暗くなるまでにはお家に帰るように言っておいた。きりんが付いてるから大丈夫だろう。
――さてと。
いよいよでっかい花火を打ち上げますかっ!!
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