44 / 113
ホンモノと複製
第43話・歌姫ミレー登場
しおりを挟むーーークルミの部屋ーーー
チグサがクルミの部屋に入って来た。
(まずいっ!この状況を今見られるのはっ!)
パチンと部屋の明かりが点く。
「クルミィ、だいじょうぶ?」
「う……う。あ……チグサ様?……寝てたにゃ」
「ううん、いいのよ。それよりもだいじょうぶ?話はだいたい聞いたわ」
「うん、なんかスッキリしたにゃ……ご主人様にお礼を言わないと……」
「あ、ホットミルク。誰かが持って来てくれたのね。入れておくわね。明日、元気になったらまた遊びましょ!」
「ありがとうにゃ」
「それでは、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいにゃ」
そう言ってチグサは部屋を出る。
「ご主人様、もう大丈夫です。出て来て下さいにゃ」
僕はベッドの下から這い出す。非常に気まずい。
「こほん。やましい気持ちは一切ないんだ。不可抗力と言うか……」
「……知ってますにゃ。ご主人様はそんな人ではありませんにゃ。それに私はご主人様なら大丈夫にゃ……」
クルミが抱きついてくる。シーツ1枚体に巻き付けて。
「ちょっ、クルミ!?」
「私の胸をさわった罰です。しばらく大人しくしてて下さいにゃ……」
僕は言われるまま、クルミを抱きしめた。
「今日はありがとうございました。一生、ご主人様の側に置いてくださいにゃ……」
「……あぁ」
僕は小さくうなずいた。
ーーー数日後ーーー
「エル!準備は良いか?」
「うん!いつでも!」
「それじゃ、ゼシカ、お菊、クルミ、留守番よろしく!行ってきます!」
『いってらっしゃい!』
僕とエルはきりんに乗りエルフの森の北へと向かった。あの奴隷商のアジトに。
ーーーエルフの森北ーーー
「きりん、この辺でいいよ。ありがとう」
「わかりました」
エルフの森の北、奴隷商のアジト近くへと降り立つ。いきなり魔法をぶっ放しても良いのだけど、奴隷の亜人達がいたら巻き込んでしまう可能性もある。
「魔法でぶっ飛ばしても良いのではないか。後で回復魔法をかけたら結果オーライじゃ」
「アリスって神様だよね?」
「うん?」
時々その事を忘れる。
「――待って。5、6、7……人間が7人。亜人が3人。エルフが1人……だわ」
「ほほぅ。エル、そなたわかるのか」
やはり救助を優先で考えると、魔法は得策ではない。
「プリンに時間を止めてもらうとかそういう事は出来ないよな?」
「うむ、あやつは未完神じゃからな。一瞬は出来ても数十秒はどうじゃろうなぁ。まぁ、ここにいたら……の話をしても仕方ないの」
「ここにいたら?プリン来てないの?」
「うん?来てないぞ。めんどくさいそうじゃ」
「めんどくさい!?」
僕の体の中でゴロゴロしてるだけでしょ!とも思ったがいないものはしょうがない。
「はぁぁぁ……わかった。入口が開いたら僕が行く」
アジト前の木陰で隠れる事、数分。カチャと入口が開く。
「高速移動・改・脱兎!」
レディに教えてもらった高速移動。数十秒後にはヘトヘトになるが、瞬間的には目に見えない速さで動ける。
「……それでな、あの女共を売ったワケよ!」
「まじかよっ!あいつら……」
「ガフッ!!」
「おいっ!どうし――!」
2人の男が地面に倒れていく姿を見ながら、僕はそのまま室内に入る。速すぎて周りの時間が止まっているかの様に、自分だけが動いている感覚を覚える。
「いた、この部屋か」
ドォン!!と、ドアを蹴破る。
「な、何だ!?」
「――3人!4人!5人!ろく……!?」
『キーーーーンッッ!!』
6人目で高音と共に剣が弾かれる!
「止めただと!?こいつ人間じゃない!魔物か!」
「ダレダッ!」
「僕は……ハ……あっ。勇者ロドリゲスだ!覚悟!」
「念のため偽名を使え」とアリスに言われていたのを思い出した。
僕の持つ、妖刀時雨が血で染まっている……。ドムドさんが妖刀村正をモデルに作ってくれた短剣だ。
「ふうぅ……時雨一文字!!」
「グフッ!?」
手応えはあったが、致命傷ではない様だ。
「クッ!オボエテオケ!転移!」
目の前から突然、男が消える……魔陣も詠唱も無しで。残りの1人は外に逃げ出したがエルがなんなく捕縛した。
僕はどっと疲労に襲われ足がガクガクし、その場に座り込んだ。すぐにアリスとエルが小屋へと入ってくる。
「おやおやまぁまぁ。へっぴり腰じゃのぉ」
お菊の影響で言葉がおかしな方向へ向かってるアリス。
「1人逃した。あれは人間ではなかった……魔物だ」
「魔物か。やはり死神の息のかかった者がおる様じゃの」
「大丈夫っ!?皆!」
エルが囚われていた奴隷達を解放する。
「うぅぅぅ!おねぇちゃん!!」
エルに抱きつき、泣き出す子供達。よほど怖かったのだろう。
捕縛した奴隷商達はコリータ王国へ連れ帰る為、エルが召喚獣を飛ばし竜族を呼んでくれていた。ついでにこの子達もお願いしよう。
「後はエルフが1人いたんだっけか……」
僕は隣の部屋に行ってみる。そこには鎖に繋がれた美しいエルフがいた。僕の後ろからエルが声を上げる。
「もしかして!ミレーさんですかっ!?」
エルフ族の中でも有名な歌姫ミレーらしい。世界中を歩き、歌で平和をうったえるエルフだ。僕は彼女の鎖を外し抱きかかえる。
「……り……と」
「もしかして声が出ない?」
「ほほぅ。おぬ主、セイレーンの血を引いておるのぉ」
こくん、とうなずくミレーさん。
「ハルト、ミレーさんはエルフの里に連れて行きましょう。ミレーさんこれをつけてて」
僕達は竜族が到着するまで奴隷商のアジトで待機していた。
「エル、どこかに服がないかな。みんな着替えさせてやりたいんだけど」
「わかった。探してみるね」
エルは服を探しに部屋を出た。待っている間、部屋を物色していたら床下に隠してあった金品を見つけ、これも全て押収した。亜人の子達の生活資金に充てよう。
◆◇◆◇◆
――数時間後。竜族達が到着し、亜人の子と奴隷商を引き渡した。先日捕らえた奴隷商と合わせて10人程。全員ウェスタン王国へ連れて行くように指示をした。亜人の子はコリータで預かる事にした。
ーーーエルフの森ーーー
「ここからがエルフの森よ。エルフの先導がないと迷うわ。そしてその先がエルフの里。さらに奥には世界樹の大木があるわ。総称してイースタンと呼ばれてるの……」
僕とミレーさんはエルの後ろについて歩いていた。ミレーさんも声が出ない以外はいたって健康そうだ。ただ念話もできない。何か呪いのたぐいなのか?
「夜には着くと思うわ……」
アリスは暑いからと部屋でくつろいでいる。僕達は薄暗い森をエルフの里へと向かって行った。
4
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる