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ホンモノと複製

第42話・奴隷商とクルミ

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―――コリータ王国西門―――

「離しやがれっ!そいつが噛みついてきたんだっ!」
「シャァァァァァァァァ!!!」

西門で見慣れない男とクルミが揉めている姿が見えた。

「ちょっといいか!クルミ、落ち着け。事情を話せ」
「コイツ、親の仇……コロス……」

クルミの目が完全にイッてる。この男が仇なのか?

「おい、お前。もしかして奴隷商か?」
「はぁん?だったらどうだって言うんだよ!」
「この国では奴隷商の入城はお断りしている」
「うるせぇな!つべこべ言わず――!」
懺悔の部屋コンフェクションルーム――』
「あ……あぁ……あが……」

急に男が膝から崩れ、意識を失う。

「連れて行け」
「はっ!」

 懺悔の部屋コンフェクションルームは相手の意識を奪い、自白させる魔法だ。

―――城門検問所―――

男を縛り、クルミを正面に座らせ話を聞く。

「――俺は殺してはない。頼まれて亜人を捕まえただけだ」
「嘘だっ!!」

 男に掴みかかろうとするクルミをギルが慌てて抑える。

「父ちゃんと母ちゃんを殺したのはお前だ……!ハァハァハァ」
「本当だ。赤いマントの長身の男に金を渡されて、名前は知らねぇ」
「死神ザクス……か」

あいつならやりかねないか。

「クルミ、こいつの言ってることは本当だ。魔法で嘘はつけないようにしてある……ギル」
「はい、国王様」
「今日明日、城門の警備を増やし、奴隷商を確保。肩にこいつと同じイレズミがあるはずだ。おい、お前。奴隷商のアジトはどこだ?」
「アジトはエルフの――」

 男の話ではエルフの森のそばにアジトがあるらしい。そこから船で大陸外に売り飛ばしたりしてるそうだ。

「こんな所か。もう良いぞ――昏睡ネムレ

ガクッと男は気を失う。

「ギル、こいつをレディの元へ運ばせてくれ。魔王城への餌として使えと言えばわかる」
「はっ!」
「クルミ行くぞ」
「うん……」

 納得出来ていない顔のクルミ。僕の感が当たっていればあの男は犯人ではない。
 クルミの手を引き東町へ向かう。

「ドムドさん!」

東町のドムドさんの工房のドアをノックする。

「お?これは旦那様、今日はどのようなご要件で!」
「この前のヴァンパイアソードの鑑定は終わったかい?」
「へいっ、あれは……魔物ですね。まぁ、ご覧になって下さい」

 奥の部屋に通される。台の上にはヴァンパイアソードが鎖に縛られて置いてあった。そして目を疑う事に、剣が自らの意志で振動している。

『カタカタカタ……!』
「やはりそうか。もしや死神ザクスの正体は……」
「うむ、そのようじゃな。あの長身マントは確かにヴァンパイアだったかもしれぬが、こっちが本命じゃな」
「ふぇっ……!?ア、アリスいたのか」

 クルミの手前、平然を装うが、変な声が出てしまい心臓がバクバクいっている。急に出てくるな。

「プリンよ、次元断でこやつの過去を見れぬか?」
「はい!ねぇさま!やってみます!」
「ぷふぇっ……!プ、プリンもいたのか」
「何ですの?ハトがプリン喰らったみたいな顔をして」

 クルミの手間、平然を装うが、変な声が出てしまい心臓がバクバクいっている。プリンもいたのか。

「皆下がって!いきますわよっ!」

プリンが聞いた事の無い謎の詠唱を始める!

「ちちんぷりんぷりん、ちちんぷりん!」

皆が沈黙する。

「……次元断ディメンションカット!」
「え……?詠唱関係なくね?」

 ヴァンパイアソードの上に映像がぼんやりと浮かび上がる。

「亜人の猫族の映像を出せ」

 プリンがヴァンパイアソードに語りかけると、カタカタと音を立てていた剣の動きが止まる。そして、映し出された映像が変化した。

「父ちゃん!母ちゃん!」
「これがクルミの両親か」

 ……残酷だが全部見せた方が良いだろう。
 さっきの男が映っている。クルミは奴隷商の馬車の中で泣いていた。そしてクルミの目の前で両親は刺され倒れる。クルミ側から見たら、あの男が刺したように見えたのだろう。実際は……男の向かいにいた死神ザクスが刺していた。

「クルミ、これでわかったかい?君の両親は死神ザクスに殺された。君の仇の死神ザクスはもう倒したんだ。わかるかい?もう仇討ちはしなくていいんだよ」
「う……う……ぅ……!」

クルミはひざまずき、そして……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

号泣した。クルミを抱きしめて頭をなでる。

「まぁ、いかにも奴隷商がやりそうな方法じゃな。目の前で身内を殺し、奴隷を自暴自棄にする。しかしじゃ……ちょっとお仕置きが必要じゃの。プリン、もう良いぞ。ご苦労じゃった」
「はい!ねぇさま!」

すぅとヴァンパイアソードから映像が消える。

「アリス様、ヴァンパイアソードはもう処分してもよろしいので?」
「うむ。もう十分じゃが……ドムドよ。この記憶媒体だけ取り出せぬか。色々使えそうじゃ。その後はへし折って捨てて構わぬ」
「へい」

 ヴァンパイアソードと死神ザクスはこれで永久に蘇る事は無いだろう。僕はクルミを背負い城へと戻った。

―――城内食堂―――

「クルミの様子はどうだ?」

夕食を終えると、マリンに訪ねてみた。

「えぇ、泣いて疲れたのでしょう。ぐっすり眠っています」
「そうか。あとでホットミルクを頼むよ。僕が持っていく」
「かしこまりました」
「エル、急で悪いんだが2、3日中にエルフの森まで案内してくれないか。ちょっと用事があってね」
「うん、いいよ。水門の調整だけ明日にでもしとくよ」
「頼んだ。ゼシカ、お菊。ちょっと留守の間任せるよ」
「わかりました。あなた、気をつけて」
「ご主人様、ご無理はされませぬ様」
「そういえばお菊は魔力はもう戻ったの?」
「はい、おかげさまで。ご主人様からたんまり魔力を頂いて若返りました。オホホホ」

 本当だ、なぜか若返ってる。魔力ってそんな効果があるのか?じぃとお菊を見つめていると、お菊の後ろですんごい形相をしたゼシカと目が合った……。

◆◇◆◇◆

 1時間程経ち、僕はクルミの部屋を訪ねてみた。ノックをするが返事はない。まだ眠ってるのか?

「クルミ、入るよ」

 明かりを点けず部屋を見渡すと、室内は暗いが月明かりが入り、うっすらと見える。

「すぅ……すぅ……すぅ……」

 ぐっすり眠っているようだ。ホットミルクをテーブルにそっと置く。
 いつだったか……この小さい手が僕の手を握っててくれたな。僕はそっとクルミの手を握る。

「よく頑張ったね……」

 右手でクルミの手を握り、左手で胸の辺りを優しくトントンする……。
 月の光が雲をぬけ部屋に差し込む。
 あぁ……そうか。クルミは亜人だから服を着ないで寝るんだ。布団がめくれてる。裸のクルミ……柔らかい胸に僕の左手が添えられている。
 そしてこのタイミングで部屋のドアが開く……。

(まずぅぅぅぅい!!こんなとこ誰かに見られたら!)
「クルミ!だいじょうぶぅ?入るよぉ!」
(……げっ!?チグサっ!?)

終わった……僕の人生は終わった。
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