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神の子と魔法陣
第39話・マザードラゴン
しおりを挟む―――サウス山頂上付近洞窟―――
僕とゼシカはサウス山山頂付近の洞窟で吹雪に足止めをくらい、身動き出来ずにいた。
寒さでゼシカが弱っていき、凍死と言う言葉が頭をよぎる。寝袋に入り背中を擦るが彼女の体はまだ冷たい。
……僕は必死に考える。目の前で2度も死なせるわけにはいかない。何か温めるもの、温めるもの……!
「そうだっ!お風呂!確かアイテムボックスに!」
この地に来て、最初にアリスと修行していた時に作った風呂桶がまだあったのだ。それとこの洞窟にはかすかだが硫黄の様な匂いがする。
「どこだ!どこから匂っている!?」
集中して匂いを嗅ぎ耳を澄ませる。
『ポチャン……』
洞窟の奥で水の落ちる音がした。少量だが水たまりがある。
「熱いっ!やっぱり温泉かっ!この1すくいの温泉を!THE複製!!」
僕がひとすくいのお湯を複製で増やしていくと、見る見るお風呂にお湯が溜まっていく。外の雪も使い温度をちょっとぬるめに調整する。
「今、温めてあげるから……」
ゼシカの寝袋を開け服を脱がし、下着も脱がせる。そのまま抱きかかえお風呂にゼシカを入れる。すると数分で顔に赤みがさしてくる。
「う……うぅ……」
「ゼシカ!大丈夫かっ!」
今度は少しづつ源泉を増やし温めていく。
「はぁ……あったかい……ハルト。ありがとう」
「良かった!気が付いたか!」
ちょっと涙ぐむ僕。
「ハルトも一緒にはいろ?あったかいよ」
僕はうなずき、服を脱ぎ一緒にお風呂に入る。
ちゃぽん……。
パチパチ……と焚き火の音が聞こえる。いつの間にか外の吹雪は収まっていた。
「ハルト……私ね?いつも駄目そうな時はハルトからもらったこの指輪にお願いするの。そうすると不思議と元気が湧いてくるの……」
「そうか、命の指輪か!」
以前ゼシカに渡した命の指輪にヒビが入っていた。偶然にも渡した指輪が、もしかしたらさっきその役目を終えたのかもしれない……。
僕はゼシカを抱きしめる。また死なせるところだった。
「ゼシカ……」
唇が触れ、お互いが見つめ合う。僕達は何度もキスをした。そして焚き火に映った僕とゼシカの影は、いつの間にか1つに重なっていた……。
………
……
…
――翌日。
「おぅ。若い衆、生きとったか!」
おもらし神様がやって来る。僕とゼシカは同じ寝袋でお互いを朝まで温めあった。おかげで2人共無事に一晩を過ごす事が出来たのだった。
「アリス、きりんおはよう。いい朝だね」
「ふふ。アリス様、きりんさん、おはようございます」
「なんじゃ、2人共その笑みは?気持ちの悪い。ところで、このくぼみにいるジィさんは誰じゃ?」
「じいさん?」
そんな人は洞窟にはいなかったはず。
「おぉぉ、皆の衆、元気かな。おぉ寒……」
「え……?」
このご老人はあの吹雪の中を洞窟の外で過ごしたの?
「あのぉ……失礼ですがどちらさん?」
「わしはガイヤドラコ。この山に住む竜族じゃよ。この洞窟はわしの家じゃ」
「ガイヤさんっ!?僕はハルトと言います。こっちがゼシカ、そっちがアリスときりんです。ガイヤさんもしかしてリン・ドラコのおじいちゃんですか?」
「うん?いかにも。リンを知っておるのか?」
僕は今までのいきさつと、リンの無事を報告した。
「そうか、それは孫が大変お世話になった。心より礼を言う。ありがとう」
「いえいえ、礼にはお呼びません。ところでなぜこんな所に1人でお住まいなんですか?」
「聞いてくれるか。わしら竜族は子供が産まれると、第1子は全員生贄にされるのじゃ。このサウス山の頂上にいるマザードラゴンのエサとしてな。その見張り役がわしなのじゃよ。そしてある時わしは考えた。亜人族の子供をさらって自分らの子供を隠すことを……」
「愚かな。なぜその様な事を……」
「しかし疑り深いマザードラゴンはわしに言った。嘘偽りがあった場合、暗黒龍が目覚め、お前達は一生呪われるだろうと」
「暗黒龍、邪神トカゲネビュラか……」
「うむ。知っておるのなら話は早い。暗黒龍は目覚め、仲間達は正気を失った。そして町は暗黒龍に滅ぼされ、皆どこかへ行ってしまった。わしはここで皆の帰りを待っておるのじゃ……」
遠くを見つめ、思い出にふけるガイヤさん。
「じいさん。あのトカゲはこやつが倒したぞ」
「へ?」
「そ、そうですね。邪神トカゲネビュラは死に、竜族の皆様は僕の国に住んでおられますね。は……はは……」
「へ?」
「リンも私の友達で、今頃竜族の皆さんと街道を作っておりますわ」
「お、お主らはいったい何者じゃ?」
「わしを覚えておらぬか、飛龍よ。わしじゃ、創造神アリスじゃ。ボケおってからに」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
こんな山の中にいたら下界のことを知らないのは無理はない。僕らは水源の調査のことや、トカゲネビュラのことを話して聞かせた。
「しかし妙だな。マザードラゴンは数百年前に会ったときはそんな事はなかったぞ?ふむ。飛龍よ、マザードラゴンの元へ案内せよ」
―――サウス山山頂―――
「マザードラゴン様、ご機嫌うるわしゅうございます。本日はアリス神様がご面会にいらしておられます」
「シュゥゥゥゥゥゥゥ……」
臭い……何だこの匂いは?腐敗臭か。
「マザーよ、よもやそんな姿を見せるとは落ちぶれたのぉ。トカゲネビュラの毒でも喰らったか」
「シュゥゥゥゥゥゥゥ……」
「もう言葉も通じぬか。ならいっそ……」
「待って!この竜は苦しんでるだけ!生きたいのにどうにもならない!って言ってる気がする!」
「ゼシカ?」
「ほぅ。お主、魂がこやつと共鳴しておるな。しかしこやつの毒気を抜くには……そうじゃ。きりんよ。そなたの血を少し飲ませてみよ。聖獣の血には解毒作用がある」
「はっ!アリス様」
きりんがゼシカが持ってるナイフで腕を少し切り、マザードラゴンの口にあてる。数滴、きりんの血がマザードラゴンの口へと落ちた。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
苦しみだすマザードラゴン。解毒が効いているのか。首をかきむしり、のたうち回り、次第に大人しくなっていく。
そして……パクッ!と、なぜか僕は食べられた。
『え?』
その場にいる全員が口を開けてポカーンとその光景を眺めていた。
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